TECHNO-FRONTIER 2020 技術シンポジウム

第28回 磁気応用技術シンポジウム
講演者インタビュー

講演者インタビュー
長崎大学 理事・副学長
福永 博俊氏(左)

<インタビュアー>
㈱ダイドー電子 技術部
薮見 祟生氏(右)


 2019年開催のテクノフロンティアシンポジウムにはたくさんの技術者に参加をいただきました。現在、2020年の「磁気応用技術シンポジウム」に向けて、開催内容の検討が進められています。ご講演予定の福永氏にお話を伺いました。

技術者は周辺技術にも目を配るべき


--- 先生の現在のお立場を教えてください。
長崎大学で理事、副学長を務めています。現在66歳ですが、65歳までは工学研究科の教授をしていました。今でも工学部には客員研究員として所属しています。

--- 研究者としてこれまで一番熱心に取り組んできたテーマは?
私のことをご存知の方は磁石の研究者と思っておられると思いますが、最初は異なる分野でした。
学位論文はアモルファス(非晶質)に関するものでした。その後、ネオジム鉄ボロン磁石が発明され、非晶質からの結晶化を利用して作製したネオジム鉄ボロン磁石の研究を始め、研究の中心がそちらに移行していきました。結果として、磁石の方が自分にとって重要になっていったんです。
ただし、一貫して注目してきたのは、磁性体の磁化過程です。特に、磁性体の中で交換相互作用と静磁気相互作用が磁化過程にどのように影響してくるのかについて研究してきました。

--- 研究を続ける中で、大きな転機になったことがあれば教えてください。
今まで、研究を継続してきた中で、二つの大きな節目がありました。一つは、磁化過程の研究に、計算機シミュレーションを取り入れたことです。これにより、研究に大きな進捗がありました。
シミュレーションのような他分野の技術を取り入れることで、大きくステップアップができたのです。
もう一つは、文部省に在外研究というのがあり、若い頃にアメリカに行かせていただいたときの経験です。
その時にPLD法という手法を知りました。PLDとは、パルスレーザー堆積(Pulsed Laser Deposition)のことですが、その装置を製作する仕事をしました。この経験により、研究用の磁性体の製作において、液体急冷法という手法に加えて、PLD法で薄膜を製作する手法が加わり、研究の幅が広がることになったわけです。
このように他の領域の技術に触れる機会から、それを取入れることで、新たな研究の道を見いだしてきました。
もちろん、一つの研究だけを深めていく方法もあるでしょう。その結果、新しい事実が見つかって、次のステップに進むこともあります。
しかし、その領域だけの知識をもとに,全く新しいステップに進むことは、必ずしも容易ではありません。他の領域の手法や発想を参考にすることは,次のステップへのハードルを下げると思っています。研究者が広い視野を持ち、多面的にアプローチすることが、結果的にその領域を極める確率を高めると思います。
多方面の技術が活かされたひとつの事例として、可変磁束型モータがあります。このモータは、モータと磁石の両方を理解している技術者がいたからこそ、生まれた発想だと思います。個人的には、とても好きな技術ですね。
私はモータを扱っている技術者には、もっと磁石のことを勉強してほしいと思っています。逆に、磁石を研究している人はもっとモータのことを知らないといけません。そうでなければ、どんな磁石を製作すれば良いかがわかりませんからね。
日本のメーカーのみなさんには、関わっている分野とその周辺技術にも関心を持ち、新しいことにチャレンジしていただきたいですね。
もしかしたら、モータメーカーと材料メーカーが一緒になって取り組むと面白いものが生まれるかもしれません。
モータメーカーには、もっと磁石に積極的に取り組んでいただきたいと思います。

「磁石」と「モータ」の関係を整理して解説します


--- シンポジウムでの講演も今お話いただいたような磁石とモータの両分野に関わる内容と伺っています。概要を教えていただけますか?
最初に磁石の特性を決める物理現象を説明し、次に、磁石性能とモータ性能の相関を整理して、お話する予定です。
モータ技術者には「モータに磁石を使うのであれば、この特性に注目してください」という話になりますし、逆に、磁石の技術者には「モータに使うときはこんな使われ方をするはずだから、このような点に注目してくださいね」という話になるかと思います。

--- そういった内容を聞きたい方はたくさんいると思います。磁気応用技術シンポジウムでもそういうご質問が多いです。
計算機シミュレーション技術が進歩して、材料特性からモータ性能に至る過程がブラックボックス化しつつあります。物理現象を理解しておかないと、実際には発生しない挙動を許容する恐れがあります。
長崎大学の博士課程の学生さんには、モータメーカーから来られている方も多くおられます。磁石を理解されると、モータの研究開発に大変役立つと思っています。
当日はモータ技術者の方にも「磁石はこういうものですよ」「こういうところに注目してくださいね」というようなお話ができればと思います。

--- 今日のお話で、自分の専門分野だけでなく、広い視野を持って、多面的に周辺技術にも関心を持った方が良いということがよくわかりました。参加者に伝えたいことがありますか。
「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。人生、何が良くて何が悪いかは最後までわかりません。
若い方たちで「俺が思っていた仕事と違う」と腐っておられる人がいるかもしれませんが、その仕事も全くの無駄ではありません。
私は、卒業研究でシミュレーションをやりたかったんです。計算プログラムを作るのが得意でしたから。しかし、担当教授に言われて、磁性材料の研究を始めました。希望ではありませんでしたが一生懸命やりました。大学3年生までに計算プログラムを学んだことは、後で非常に役に立つことになりました。
マイクロマグネティックスという分野を勉強したこともあります。必要のない分野と教授に怒られて勉強するのをやめたんですけど、それも後になって、すごく役に立ちました。勉強していたおかげで、早い時期に磁石の計算にマイクロマグネティックス理論を取入れることができたんです。
ですから、若い人も嫌がらずに幅広い分野の技術を貪欲に吸収した方が良いと思います。視野が広くなって、きっと後で役に立つでしょう。


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