TECHNO-FRONTIER 2020 技術シンポジウム

第28回 バッテリー技術シンポジウム
講演者インタビュー

講演者インタビュー
パナソニック㈱
エナジーテクノロジーセンター 所長
宇賀治 正弥 氏(左)

<インタビュアー>
国立大学法人 山口大学 教授
安部 浩司 氏(右)


2019年開催のテクノフロンティアシンポジウムにはたくさんの技術者に参加をいただきました。現在、2020年の「バッテリー技術シンポジウム」に向けて、開催内容の検討が進められています。今回、パナソニックの宇賀治氏にお話を伺いました。

変化する電池開発


--- 宇賀治さんの現在のお立場とお仕事の内容を聞かせていただけますか?
(宇賀治)パナソニック㈱ エナジーテクノロジーセンターの所長として、電池に関する要素技術と材料開発に取り組んでいます。どちらも先行技術になりますので、中長期的な戦略、技術開発の立案・推進となります。また、後進の育成も重要な業務になります。
弊社はカンパニー制をとっていますが、エナジーテクノロジーセンターはパナソニック本体に属していますので、エナジー関連事業に関して中長期的な視点に立ち、成長に必要な技術を創出する開発に取り組むことができます。

--- 最近の傾向は?
(宇賀治)ご存知のように、我々の電池製品は民生用から車載・産業用へと用途が拡大しています。車載用途で言えば、1~2年先ではなくもう少し先の技術をお客様からご要望されることが多いですね。将来の技術をご提案した方が、お客様も安心ができますので、今後の方向性を合わせておくのは重要だと思います。

--- 車載用・産業用ではスマートフォンのような民生用とは技術的に違う面もあるかと思います。リチウムイオン電池の現状の課題は?
(宇賀治)車載用に関して言うと、市場は今の10倍に拡大するのではないかと予測されています。市場拡大に対応するためには、今までの性能、品質、ものづくりの面に加えて、材料調達の点からお客様に製品の価値をご提示していかないといけないと考えています。
現時点でも、お客様からは高いご要望を頂いておりますので、開発スピードの向上を含め今までとは違った技術開発を進めて行くことが求められていると感じています。
また、車載用・産業用などは多くの電池が搭載されますので、信頼性、使い方制御などが従来以上に重要になっています。

--- 車載用電池ではどのような特性を重視されていますか?
(宇賀治)車載用に限定される訳ではありませんが電池の場合、どれか一つの特性が優れていればOKということにはなりません。「出力だけ優れている」「耐久だけ飛び抜けている」となっても、役に立たないわけです。
お客様からは「必要な特性技術については、コストも含めて全て優れたものにしてほしい」とご要望いただいています。ですので、いろんな面でバランスを取らなければいけません。例えば、一つの要素技術を入れた結果、「ある特性は向上するが、コストが上がる」となった場合、コストを上げないように全体のバランスをとることが必要になります。どれか一つの特性が優れていればいいというものでは無くなっています。
これは大変難しい作業ですが、パナソニックにはこれまで80年以上も電池開発に携わってきた歴史があり、多くの有形無形の資産を持っています。
一次電池に始まって、二次電池と、長い間、あらゆる電池開発に関わってきましたことで、たくさんの要素技術がありますし、総合的な技術力もあります。それら一つ一つをいかに高めていくか、それにかかっていると思います。
資産を有効活用していくことでお客様のご要望に対応していくことができるのではないかと思います。

日本の開発者へのメッセージ


--- 現在、パナソニックはリチウムイオン電池で唯一の大手国内メーカーとなってしまいました。中国などの電池メーカーの台頭などのグローバル競争の中で、どのように対抗していこうと考えていますか?
(宇賀治)開発の考え方を変えることで、イノベーションを起こすことができるのではないかと考えています。
我々は国内外の多くの自動車メーカー様と取引をさせていただいております。我々のお付き合いしている自動車メーカー様は非常に強いチャレンジ精神を持っていますので、我々としても大きな刺激を受けます。
開発の考え方としても今までのような積み上げ式の開発ではなく、最初から限界を意識した開発をしています。「なぜそこが限界なのか」「どのようにすれば、その限界が打破できるのか」と理論を踏まえながら、限界を超えるため努力します。
高いターゲットを設定して、理論に基づいてチャレンジをしていく。電池にはまだまだ曖昧な部分もたくさんあります。限界を超えるためにはどうすればいいのか。そこに大きな可能性があります。
現状を肯定して積上げ式でやってしまうと、イノベーションを起こすのが難しいと思いますが、その一歩先をターゲットにして開発していくことで、存在価値が生まれると思います。

--- 積み上げていくのではなくて、最初からゴールを明確にしてそれに対してチャレンジしていくということですね。とても困難な作業になりますが、だからこそ新たな製品を開発できるのですね。

若手開発者にチャレンジの場を


--- 若い世代の開発者に対しては、どのように感じていますか?
(宇賀治)若い世代の開発者はかわいそうな面もあるかもしれません。。現在のような環境では、会社の中で自分一人だけで何かをできる機会はほとんどないからです。
技術が高度化、複雑化しているので担当分野も細分化されています。またビジネス自体が大きくなり、技術判断時の責任の重さや事業インパクトの大きさのため挑戦するのが難しくなっている。「ビジネスを変えてやろう」というような大きなチャレンジはしにくくなっているのが現状です。
当社の技術者は電池事業でチャレンジしようとする気持ちを持って入社していますので、管理職は壁を打破するための仕掛けを作っていかなければいけないと思います。
要素技術の開発などでは小さなテーマがたくさんあります。そのテーマリーダーとして、必ず若手技術者に責任を持たせる。これは非常に重要です。そして、その技術をお客様に説明する機会を与えたりして、外の世界とつなげてあげることも大切です。自分の手がけた技術をアピールして、さらにはお客様から生の声を聞けるような機会を与えることは、R&D部門にも必要です。
このようにして、技術者の持っているモチベーションを引き出してあげることが大切です。

--- 若い技術者が自由に提案させる雰囲気作りは大事ですよね。失敗を恐れないようにさせる。小さな成功体験が大きな成功に繋がっていくと思います。
本日はありがとうございました。


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