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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第14回】2026 GOOD FACTORY賞® 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(8) GOOD FACTORY大賞
トヨタ自動車 TOYOTA MOTOR THAILAND CO., LTD.(TMT Gateway Plant)
Release June. 2026

2026 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]アジアのトヨタにおける次世代の人づくり、モノづくり
トヨタ自動車 TOYOTA MOTOR THAILAND CO., LTD.(TMT Gateway Plant)
工場長
佐々 俊祐 氏 ※掲載の所属役職については、2026年3月時点といたします。

会社概要、2011年以前・以後の取り組み

TOYOTA MOTOR THAILAND CO., LTD.(以下、TMT)は、タイ国内にサムロン、バンポー、ゲートウェイの3工場を有しています。生産台数はトヨタ海外事業体で第2(2024年)の規模を誇り、その約6割を90カ国以上へ輸出しています。
2011年、当社はGOOD FACTORY賞において、ものづくり人材育成貢献賞を受賞しました。当時、トヨタの海外事業体でモノづくり人材育成が急務となる中、TMTはアジアのリーダーを目指し、アジアパシフィックプロダクションセンターの設立・運営、コスト低減や現場改善の能力向上活動などの仕組みを定着させたことが、受賞理由となりました。
この人材育成活動は2011年以降も継続し、高いKPIの維持、地域専用モデル製造準備業務の域内完結、市場ニーズ・台数に柔軟に対応できる生産体制の構築が図られました。また、育成したローカル人材がマネージャー、コア人材となり、次のローカル育成に貢献。製造部門の日本人スタッフは、2011年の20名から2023年には12名までスリム化されました。3工場9000名の製造組織で出向員12名という体制は、ほかのトヨタ海外事業体と比較してもトップレベルの少なさとなっています。

新たな活動「AJITO」の背景

こうした人材育成と現地化の活動を土台とし、TMTでは2021年頃から、これまでとは異なるアプローチによる工場の変革を模索する動きが始まりました。その背景には、タイ国内市場の低迷と、中国系メーカーの台頭による日系企業のシェア低下があります。TMTがこれまで築いてきたスムーズな生産やKPIマネジメント、号口強化活動だけで将来はあるのか、従来の延長線上ではなく、さらなる競争力強化に向けたトランスフォーメーションが必要ではないか、という考えの下、議論を重ね、2023年7月よりスタートしたのが、ゲートウェイ第1工場をモデルラインとする「AJITO(アジト)」活動です。
AJITOは「Asia Jiritsuka Innovation as Transformation Optimized」の頭文字を取ったもので、TMTゲートウェイ工場内での活動名称となります。
なお、これから報告する内容は活動途中のものであり、体系的にまとめられた完成形の報告ではありませんが、皆様の生産活動、工場運営の一助になりましたら幸いです。

AJITO活動:3つの柱

AJITO活動を進めるにあたり、私たちは3つの柱を定めました。①競争力の最大化、②ゼロベース:ミニマム原単位とリーンな生産、③人材育成、マインドチェンジです。
多くの場合、競争力強化の活動は、原価や工数の低減目標を設定し、トップダウンの必達型で活動が展開されます。しかし、これではトランスフォーメーションの達成は困難です。
今回の活動で私たちは「目標設定をしない」「KPIを追わない」をキーポイントとし、“コスト”“削減”を想起させる文言を使わずに活動する方針を打ち出しました。ゼロベースの考え方を軸に、ボトムアップで理想像を追求し続けることこそが、結果として競争力の最大化につながると考えたからです。タイは文化的にトップダウンの傾向が強く、マネジメント層が「ボトムアップで理想像を追求する」という方向性を腹落ちするまでに、多くの議論を重ねることになりましたが、トップの覚悟の下、この方針が貫かれました。
活動の軸となったのは、「ゼロベース」の考え方です。作業は、大きく正味・付随・ムダの3種類に分類されます。私たちは真の正味を追求するため、付随とムダを削る“引き算”の考え方から脱却し、その工程に必要な正味作業とは何か、そのために必要な最小限の付随作業とは何かをゼロから積み上げる“足し算”の考え方に立ち、そのためにはこれまでの標準を変えてもいいこととしました。
また、TMTのローカルメンバーは、入社以来トップダウンの中で育ち、KPIを達成できても成長を感じられない、プレッシャーで疲弊感だけが残るという状態に陥っていました。しかし、事業環境の変化によってトップダウンだけでは立ち行かない時代を迎え、この先の活動を継続するためにも、自ら考え、行動できる人材が必要となりました。そこで本活動では、次世代リーダー候補を中心に据え、主体的に考え、挑戦する経験を積ませる人材育成を重要な柱の一つに位置づけました。さらに、組織間の大きな壁、過去の失敗や反省を元に生まれた「変えたくない/変えられない」というマインドを払拭し、あらためてお客様に届けるバリューとは何かを考え、工程のあるべき姿をゼロベースで考え直すこととしました。

AJITO活動:5つのフェーズ

AJITO活動は、2023年6月のスタートから約3年が経過しました。これまで誰も歩んだことのない道だったため、活動開始から本格的に動き出すまで約1年を要しています。我々出向者も、ゼロベースでモノづくりを考えた経験はこれまでになく、ローカルマネジャーとあるべき姿をともに探し、寄り添いながら歩んできました。
活動は大きく5つのフェーズに分かれます。フェーズ#0は、活動前の号口生産の強化、スムーズな生産、KPIにこだわったモノづくりの段階です。続くフェーズ#1は、活動開始直後の自己認識や方向性を探究する段階です。
フェーズ#1で私たちは、「KPI以外の競争力とは何か」という問いに向き合い始めました。トランスフォーメーションの必要性を感じ、理想像の議論をしながらも、実態としてはトップダウンや指示待ちが継続し、開始から4カ月経過しても明確な方向性を見出せませんでした。長らく製造の仕事はKPIを満足させることが当たり前でしたし、TMTはアジア域内でトップレベルの製品成績を上げていたため、なぜこれまでのやり方を変えなければならないのか、理解できなかったのです。
そこでフェーズ#2として、歩む道の議論と外からの学びの段階に入りました。まず、他社のベンチマークを実施し、そこから多くの刺激を受け、ようやく活動の糸口をつかむことができました。さらに、その学びをそのままコピーするのではなく、「なぜそうしているのか」とメカニズムから考える思考へ転換。トップとメンバーで、トランスフォームの理想像について議論を重ねました。
続くフェーズ#3は、ゼロベース思考の確立の段階です。#2で議論を重ねたことにより、#3ではゼロベース思考が徐々に浸透し、工程をcurrent(現状)、future(未来像)、ideal(理想像)の3視点で考えられるようになりました。その結果、全員が同じ理解のもと、同じ目標に向かって活動を進めるためには「良いリーダー・良いメンバー・良い環境づくり(3ベター)」が必要であることに気付き、モデル工程を設定して「Do it First(まずやってみる)」のマインドセットで活動に着手しました。
ゼロベースで議論する際は、工程全体を俯瞰して捉えられるようジオラマを作って三次元化する、各工程の正味・付随・ムダを色分けして表示する、といった工夫を取り入れました。さらに、議論のプロセスにおいて、トップはあえて方向性を示さず、常に「これはゼロベースなのか」とメンバーに投げかけることに徹しました。そこで働くメンバー全員が、目指す姿をオープンに議論し、進むべき方向を共有したことで、自分たちで考え、決め、進める場へと議論の質が大きく変わっていきました。
ゼロベースによる見直しによって、ある溶接工程ではクランプ数が17から4、冶具数が2から3、打点数が67から78に変わりました。まだ活動の方向性も定まっていない初期の取り組みでしたが、ゼロベースとは何かを実体験として理解し、組織間の壁を越え、過去の基準を見直し、自分たちがボトムアップで現場を変えられるという成功体験となりました。
また、生産性や品質悪化のリスクを伴う工程での活動では、不具合が生じてもトップはメンバーを責めずにバックアップする姿勢を貫き、マネジャーが責任を取ることでメンバーの不安を払拭しました。変化に否定的なメンバーがいても、上から押し付けることなく、腹落ちするまで待ち続けました。こうした活動を重ねながら、メンバーのマインドは「工程を変えなければ」というプレッシャーから、「自分たちで工程を変えられる」というパッションに変化し、活動に手応えを感じ始めました。
そして現在はフェーズ#4、輪の拡大の段階です。得られた知見とゼロベースのエッセンスをTMT内、アジアの他拠点、トヨタ自動車元町工場、サプライヤーへ展開し、取り組みの輪を広げています。サプライヤー数社でトライを開始していますが、正直に申し上げると、大変難しいと感じています。各社の環境や現状を確認しながら、結果を急がず、密なコミュニケーションによって活動と心をセットで伝えていくことが肝要だと考えています。

これまでの活動成果とまとめ

AJITO活動は、まず58のモデル工程から始まり、昨年は237まで範囲を拡大。2028年までに473の活動を推進します。本活動は「目標設定をしない」「KPIを追わない」活動で、数値を目的とはしていませんが、ゼロベース思考を適用して工程レイアウトを最適化した結果、従来の生産性と品質を犠牲にすることなくスペース、Work in Process、リードタイムが減少。安全性や作業性、メンバーの幸福度が向上し、競争力、やりがい、人材育成のサイクルが回るようになるなど、有形無形のさまざまな効果が得られました。なにより、いま現在、現場でメンバーが自信を持っていきいきと活動を推進してくれていることこそが、今回の活動を通じて得られた最大の効果にほかなりません。
私たちの活動のポイントは、①従来のKPI思考からゼロベースの考え方へ転換し「正味を追求する」活動コンセプトを確立したこと、②トップマネジメントの意識改革、失敗してもメンバーを責めずにゼロベースとは何かを問い続けるトップの揺るぎない覚悟、③メンバーの心(ソフト)が変わることで工程(ハード)が変えられると実証したこと、④メンバー全員と将来像を共有し、自律的に競争力を高められる、成長を感じられる一体感のある全社活動となったこと、の4点にあったと考えています。これからも、ゼロベース発想の活動の中でメンバーが変化し、10年後、20年後も成長し続ける“人中心”の工場であり続けることを目指して、活動を推進していきます。

コーディネーター総評

2011年に「ものづくり人材育成貢献賞」を受賞した活動を基盤としながら、さらなる発展を続け、改革の考え方の大転換を成し遂げています。特に素晴らしいと思ったのは、ボトムアップとゼロベース発想による「真の自律化」にこだわっていたこと、これまで徹底してきた「標準の遵守」からあるべき姿を追求する意識に変革したこと、さらに、周囲の「本当にできるのか」という視線を跳ね返して変革をやり遂げるトップの覚悟と本気、の3点です。中でも、トップの覚悟はとても重いものだと感じました。これが新しいものづくりの考え方になるかどうかは今後の展開次第ですが、みなさんにとって参考になる点の多い活動ではないでしょうか。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
シニアコンサルタント 石山 真実氏
GOOD FACTORY賞®を受賞して

GOOD FACTORY賞®大賞受賞、ありがとうございました。タイでの取り組みがこうして日本のものづくり評価制度の大賞として認めていただけましたこと、メンバー全員が喜びにあふれ大変誇りに思っております。これまでのKPI型マネジメントからの転換と将来に向けた工場トランスフォーメーションをテーマとした活動について、まだ道半ばではありますが、真価の追求に向けた取り組みを継続してまいります。