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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第14回】2026 GOOD FACTORY賞® 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(7) ものづくりプロセス革新賞
デンソー DENSO MANUFACTURING VIETNAM CO.,LTD
Release June. 2026

2026 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]DXによる働き方改革で、持続的な競争力強化基盤づくりと裾野産業育成への取り組み
デンソー DENSO MANUFACTURING VIETNAM CO.,LTD
Production Engineering Division, Managing Director
碓井 健一 氏
Vice General Director
Pham Minh Hao(ファン・ミン・ハオ) 氏
※掲載の所属役職については、2026年3月時点といたします。

DMVNの特徴と活動背景

DENSO MANUFACTURING VIETNAM CO.,LTD(以下、DMVN)は2001年に輸出加工企業として設立され、エンジン関連部品、トランスミッション向け部品、熱マネジメントバルブ等の生産を行っています。日本人出向者が21名、マネジャー以上のローカルは56名在籍し、現地化を推進しながら25年にわたってベトナムに根付き、成長を続けてきました。
近年、自動車産業は、環境対応を背景にEV化が加速する中、内燃機は縮小し、電動化製品の競争が激化しています。ベトナム社会に目を向けると、高い経済成長率に比例して労務費が上昇傾向にある一方、発展途上の地場産業は品質の底上げが求められています。こうした環境の中、ベトナム政府はIT化と裾野産業育成で高度成長を目指しています。
当社は創業以来、人の力(フィジカル)を生かした改善活動で体質を強化し、売上を伸ばしてきました。しかし、コロナ禍を起点とする大きな売上減少により、社内では「輸出企業として競争力なしでは生き残れない」という強い危機感が生まれ、ローカルスタッフが変革を決意。日本人依存から脱却し、自分たちの手でDMVNの明るい未来を築くため、競争力の源泉を変革しようとする取り組みがスタートしました。その取り組みを支える新たな会社のビジョンとなったのが、ローカル主体で策定された「DMVN Vision 2030」です。
DMVN Vision 2030は、「モノづくり革新」と「社会貢献」を両輪とし、フィジカルの競争力にデジタルによる新たな強みを加えて働き方を変え、オープンイノベーションによる外部との連携によって競争力の変革を目指しています。このビジョンの実現に向けて、「LASI-VN2.0」という方針を立案。「進化」「深化」「拡大」「社会貢献」の4ステップを設定し、従来の改善の延長ではない飛躍的な競争力強化を実現するため、ベトナム有数のITアウトソーシング企業であるFPT Software(以下、FPT)との協業を開始しました。
LASI-VN2.0による4ステップの具体的な取り組みは、当社副社長のハオより説明いたします。

①進化:DX開発の風土づくり

1つ目のステップとなる「進化」では、FPTと共創し、ムダ取り後のDX化とやり直しレスにより競争力あるシステムの構築を目指しました。
そのために最初に行ったのが、やる気の醸成です。ボトムアップの意見提案が少なく、意見しにくい風土を変えるため「Ykien(意見)活動」を実施。記名式でオープンな意見を出すホワイトボックスと、匿名可で言いにくい意見を出すピンクボックスを設けて上司が意見を吸い上げ、その声に応えて改善のサイクルを回して職場の満足度を高めました。当初はピンクの件数が多かったのですが、次第にホワイトが増加し、意見提案ができる人財、職場風土に変化させることができました。
また、DXを全く知らない従業員にも「DXは味方」と理解してもらうため、バイク通勤の入場手続きにIDスキャンとカメラ認証を導入しました。それまでは門に到着してから入場まで5分ほどの待ち時間が生じていましたが、導入後はわずか5秒に短縮され、多くの従業員がDXの利便性を実感。「ほかの待ち時間削減にもDXを展開したい」という声が上がるなど、意識の変化につながりました。
こうしてやる気を醸成した上で、業務フローを可視化してムダを洗い出し、「無くす」「減らす」「DX化」を進める全員参加のムダ取り活動を実施。さらに、DMVNとFPTが同じ目線・スピードで開発を進めるため、当社の管理責任者がサイバー知識を学習する一方、FPT社員は当社に常駐して困りごとを理解し、相互理解と要件定義の明確化を図りました。

②深化:DXでモノづくり現場の働き方改革

2つ目のステップである「深化」の段階で取り組んだのは、DXによる職域の拡大と新たな価値の創出です。そのために、生産課は現場改善のDXを進めて主体的に改善を加速させ、保全・生産技術部門はライン開発のDXにより開発にシフトする取り組みを進めました。
生産課の取り組みでは、班長が設計部門に“留学”してCAE(コンピューター支援工学)の知識を習得。3Dプリンタで治具を製作し、すぐに自ら効果を検証、評価するサイクルを回して課題を改善するなど、自ら改善を進めるCPS人財の育成につながりました。
また、ライン開発のDXでは、部品受入れ倉庫の物流自動化を推進。低付加価値作業である“歩く”“探す”作業を自動化するとともに、AIを活用してAMRの台数をミニマム化しました。この方法により、ベトナムの労務費に合った自動化を素早く導入することができました。

③拡大:経営管理(工場管理)DX

3つ目のステップは「拡大」です。ここでは、予知予測で未来に手を打ち、世界一のコスト競争力の実現と経営状態の見える化を目指しました。取り組み事例として、工場管理DXを実現した「未来コマンドルーム」、ローコストデータ接続のためのハッカソンの2つを紹介します。
未来コマンドルームでは、製品在庫、生産ラインの稼働率などのデータを集約し、一元管理しています。情報が見える化されたことで、問題発生時に即時対応できる仕組みが構築されました。さらに今後は各データを利用した異常の予知予測を進め、AI活用による故障予知を段階的に手の内化していきます。
また、アナログデータを安く、速く、安全に接続するアイデアを求めて、ハッカソン※を実施。優勝チームのアイデアを元に、スマートフォンの撮影画像を利用して、設備改造不要で品質リスクのないデータ接続システムを構築することができました。
※プログラマーなどがチームを組み、特定のテーマに沿ってソフトウェアを開発し、成果を競うイベント

④社会貢献:裾野産業へのノウハウ還元

最後のステップは、ベトナム社会への貢献です。DMVN発の技術やソリューションを広く展開し、地場産業の発展、ベトナム産業全体の底上げに貢献するため、オープンファクトリー、産学官連携による裾野産業育成に取り組みました。
オープンファクトリーは、DMVNのノウハウを取引先に共有し、取引先と当社の競争力強化につなげる活動です。取引先のニーズを調査し、ニーズに応じた教育プログラムを実施してノウハウを共有。その後、取引先の問題を共有し、現場で改善を支援しました。
さらに、裾野産業の成長によって現調化を加速させ、地場メーカー育成に貢献するため、産学官連携でローカル企業のニーズに対応したトレーニングコースを設置。政府とMOUを締結し、2025年度までに327社、1871人を育成しています。また、当社の強みである車載技術を生かして農業生産の課題解決を図るなど、さまざまな形でベトナム社会に貢献を続けています。

活動成功のポイントと今後の方向性

この活動が成功した理由を私なりに振り返ると、ポイントは3つあったと思います。まず1つ目は「ビジョンの柱に社会貢献を加えたこと」です。ベトナムのみなさんは愛国心が強く、モータリゼーションへの強い思いを持っています。そのため、ベトナム社会のため、というビジョンがベトナムの人々に響き、従業員だけでなく産学官の仲間も増えていきました。
2つ目のポイントは「失敗を恐れずチャレンジする」ことにありました。DX化への挑戦は、仲間を作って技術やアイデアを補完し、最も大事な品質と安全に関わるものでなければ、多少不完全でもやってみようという姿勢で取り組みました。その結果、日本でもまだやっていないことを自分たちで実現したという成長実感を生み、社外の仲間とチャレンジするマインドに変わることができたと考えています。
3つ目は「世界初のモノづくりハッカソン」です。ソフトウェア業界では一般的なハッカソンですが、工場を舞台にした実施は世界初だったと自負しています。このハッカソンを通じて、プログラマーは「開発したソフトが世の中の役に立つ」というやりがい、当社従業員はDXで工場と働き方が変わるという実感を得ることができました。この両者の刺激が、活動を加速させる原動力になりました。
今回ご紹介したこれまでの方針に加え、今後は、中華系メーカーに勝つ経営スピード、判断の質を向上させるローカル化、CPS人財をより早く計画的に生み出す仕組みを構築し、2030年の売上目標に向かって経営力、改善力を強化していきたいと考えています。

コーディネーター総評

「DXに自分の仕事を奪われる」というイメージを持つ方がいる中、そうではないことを最初に打ち出したことが重要だったと思います。リスキリングを前提に、DXすべき仕事と人が担当すべき仕事を明確に定義したことで、成長のチャンスが実はDXにあることが従業員に伝わりました。さらに、ベトナムに徹底的に根付いた活動になったのは、ハオさんのような活力あるローカル幹部管理職が推進キーマンとなったからでしょう。ベトナムへの貢献を掲げ、会社、従業員、ベトナムが互いに助け合う場作りを徹底的に行ったことが、現在の活力につながっています。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
シニアコンサルタント 石山 真実氏
GOOD FACTORY賞®を受賞して

このたびはGOOD FACTORY賞®のものづくりプロセス改革賞、本当にありがとうございました。デンソーベトナムの従業員一人一人が本気で改革に取り組み、品質と現地現物へのこだわりとDXの融合が成果につながったと思っています。これまでの方針に加え、今後は、経営スピード、判断の品質向上のためのローカル化、CPS人財の仕組みを構築し、経営力、改善力を強化していきたいと考えています。