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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第14回】2026 GOOD FACTORY賞® 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(5) ものづくりプロセス革新賞
花王株式会社 豊橋工場
Release June. 2026

2026 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]市場連動型生産に対応した「高品質・高効率」体制の確立
花王株式会社 豊橋工場
工場長
宮野 真臣 氏 ※掲載の所属役職については、2026年3月時点といたします。

工場の特徴、活動背景

花王豊橋工場は、国内10カ所の生産拠点の中でも、シャンプー、ボディソープ、ヘアカラーといったビューティケア製品、ニベアブランド製品、一部のケミカル製品などの製造を担う工場です。社員数は218名ですが、協力会社、派遣を含めると約1000名が働いています。
当工場の一番の特徴は、生産品が「多品種少量品」という点にあります。SKU数は約700と社内では群を抜いて多く、1年間で約400SKUが入り替わります。一方、1ライン当たりの生産数は他工場より少なく、川崎工場の20分の1程度です。また、扱う製品の粘度の幅が広いことも特徴で、それに合わせて容器、ポンプ類、キャップなどの形態も非常に多様です。
豊橋工場は1990年代後半以降、少品種生産から、パーソナルケア中心の多品種少量品にシフトして成長してきました。多品種少量品の生産には、大きく3つの苦労・課題があります。1つ目は、技術特異性の低下やコスト競争力向上に伴う外部委託先との競争です。2つ目は、品種切替が多いという点です。多様な粘度の製品を1つのラインで生産するため、それに対応する手順書も整備する必要があります。しかも、計算上は2年で全SKUが入れ替わるため、それを常にブラッシュアップしなければなりません。3つ目は、多様な容器やキャップを使うことから自動化が難しく、人依存の作業が多いという点です。この3つの課題に対応し、私たちは「低コストで高品質のモノづくり」「型替え・洗浄等のロス削減」「ヒューマンエラー防止」により豊橋工場の存在価値を追求する改善活動を展開しました。

改善活動を支える3つの仕組み

改善活動を支えるため、いくつかの仕組みをつくりました。まず1つ目に、感謝と称賛を与える「ファインプレー賞」を設けました。その目的は、感動、憧れ、元気を与えるかっこいい行動を表彰し、工場全体に共有することで、モチベーションアップや認め合い褒め合う文化を醸成することにあります。そのため、協力会社も含めた事業所内の全従業員、安全・品質・生産に関わる全般を表彰の対象としました。
これまでの受賞事例として、ライン内で製品の整列乱れを確認する作業を担当する従業員が、監視項目以外の材料不良を発見し、素早く報告してくれたという例があります。小さなことだと思われるかもしれませんが、不良品流出の防止に大きく貢献したと判断し、表彰対象となりました。
表彰式では賞状と自社製品を贈って花王への愛着を高め、社内新聞でも広報しています。協力会社には外国籍の従業員も多いことから、新聞はタガログ語やポルトガル語でも発行し、事業所全体のモチベーションアップとDE&Iの尊重にもつながっていると思います。
2つ目の仕組みは、挑戦と評価を与える人事評価制度「OKR(Objectives and Key Results)」です。当工場では、社員の自律的な挑戦の促進、部門や職務を超えた連携と組織全体の活性化、ESGへの貢献を目的とし、2021年からOKRを花王流にアレンジして採用しています。
達成目標(Objectives)は、「事業貢献」「ESG」、さらに「One team & My dream」(部門連携と成長)の視点で設定を進めました。また、世の中と花王を良くする「良きモノづくり」のために達成したいことを自ら設定する、頑張れば6~7割の達成が可能なストレッチ目標を設定する、といった点も重視しました。特に「頑張れば6~7割達成可能」であることがポイントで、「3~4割は達成できなくてもいい」と失敗を許容することが、挑戦する意欲をかき立てると考えています。
目標設定後は、直属の上司との対話、合意、進捗・レビューだけでなく、他部門で同じ関心を持つ仲間との連携を図ります。その取り組みに対して、挑戦と貢献を評価して讃え、次の目標設定につなげるというサイクルを回していきます。
3つ目の仕組みとして、充実した教育システムを設けています。製造部門では、新入社員へのインターバル教育に始まり、メカニカル・プロセス・安全の基礎講座を実施。中堅以降はプロフェッショナル教育としてリーダー育成や選抜型専門教育を行い、役割に応じた教育を受ける環境が整っています。

投資規模に応じた4種の改善活動

ファインプレー賞、OKR、教育システムの3つの仕組みを支えに、私たちは4つの仕組みで改善活動を実行しました。その4つとは、投資規模が小さい順に、①TPM活動(課長決裁レベル)、②改善提案システム(部長決裁レベル)、③工場投資検討会(工場長決裁レベル)、④投資委員会(部門統括決裁レベル)です。
①TPM活動は、若手を中心としたロス削減活動として始動しました。その背景には、現場の若手が抱いていた「現場の仕事は達成感がない」という思いがありました。TPMは「豊橋(T)プロダクション(P)をみんな(M)で盛り上げよう!」を意味し、コスト意識、全員参加、現場現物主義、常識の新陳代謝の4つを基本理念として、若手のモチベーション向上とコストダウンを進めていきました。
TPM活動の例として、歩留まりロスを削減した事例があります。TPM活動では、まず経理グループがロスの多い品目をターゲットに設定し、現場が調査や検討を行います。ある製品の配合槽で残液が多いという課題に対し、現場は残液を減らす方策として配合槽から液を抜き出す際の回転数の最適化を検討し、それが品質に影響がないかテストを行った上で、改善を実行しました。その結果、残液の減少とコストカットが実現し、ほかの配合槽へも水平展開されました。こうした取り組みによって若手の停滞感が払拭されただけでなく、毎年多くのロスが削減されています。
②改善提案システムは、100万円未満の投資案件を部長決裁で即実行できる仕組みです。提案者は職制(上司)に提案を申請し、職制がそれを評価して、部長がすぐに決裁します。全ての提案に評価と小さな報酬があり、実行された改善提案の中でも優良案件には、表彰やより大きな報酬が与えられます。例年100件以上の提案があり、こちらも多くのコスト削減につながっています。
中~大規模提案を扱う③工場投資検討会、④投資委員会は、難度の高いテーマを関連部門が協議して実現していく仕組みです。豊橋工場は毎年多くのSKUが入れ替わるため、関係部門と情報交換する機会が多く、活発な人財交流により他部門に気軽に相談できる環境があります。この「現場起点のスクラム体制」によって、事業部、本社技術、研究所、現場が1商品の新発売・改良ごとに対面で3回議論を行い、現場の声を聞きながら作業性、生産性を意識したモノづくりを実践しています。
具体的な成果事例として、ヒューマンエラー防止につながるバーコードを利用した「間違い防止システム」、形状記憶樹脂を使って容器搬送用のハカマを兼用化した「自在バカマ」、部品などの標準化・共通化により多様なキャップに対応できる「マルチキャッパー・マルチキャップハンド」などが挙げられます。

今後の方向性

豊橋工場は現在、柔軟で効率的な生産体制と新たな物流モデルによる、生産・物流機能一体型サプライチェーン拠点「豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリー」への変革を進めています。2023年3月には新自動倉庫が稼働を開始。新倉庫では、人作業だったピッキングや仕分けをロボットとAGVが行い、さらなる無人化にもトライアル中です。今後は、製造棟同士や製造棟と倉庫を結ぶ無人トラックの導入なども視野に活動しているところです。
私たちは、製造から物流までを支える人、機械、知恵・技術が互いにつながる「コネクテッド・フレキシブル・ファクトリー」の実現を目指して、他部門と協働しながら日々活動を積み重ねていきます。

コーディネーター総評

市場連動型の多品種生産の難しさに対して、褒める文化と仕組み・場、定量的な経営・目標管理と挑戦、そしてフランクで高頻度な部門横断によって個人と組織のパフォーマンスを向上させ、継続的な変種変量のプロセス革新を成し遂げた取り組みだったと思います。現地審査では、大企業でありながら、事業部や技術部門ともフランクに話せる協力関係が印象に残っています。そうしたスクラム体制と、各社員が挑戦できる仕組み・仕掛けとしてのOKR、褒める文化などの価値観・風土が重なり、パフォーマンス向上が実現したのではないでしょうか。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
取締役 シニアコンサルタント 石田 秀夫氏
GOOD FACTORY賞®を受賞して

GOOD FACTORY賞®は他社の発表内容を拝聴したとき、教科書に載せても恥ずかしくないレベルの高さであることに感銘を受け、なんとか自分たちもと応募にいたりました。受賞の知らせを聞いたときは、最初は間違いではないかと思ったほど驚きました。これからも新たな目標に向かって、他部門と協働しながら日々活動を積み重ねていきたいと思います。この度は本当にありがとうございました。