私たち関ケ原製作所は、天下分け目の戦いで知られる岐阜県関ケ原町に位置し、大手建機メーカー向けの油圧装置、商船向けクレーン、防衛や海洋開発における船用特殊製品など、“大手では手掛けず、中小企業では難しい”というニッチな領域で事業を展開しています。オーダーメイドの製品を中心に、100トンを超えるものからサブミクロンの精度が求められるものまで、幅広い製造技術を有し、技と技術を活かして手作業で丁寧に作り上げていく「工業製品の宮大工」のようなものづくりを得意とする会社です。売上高259億円、社員数389人と決して規模は大きくありませんが、その分、一人一人の力がそのまま会社の力に繋がりやすい会社でもあります。
当社のものづくりの背景には、創業者のルーツである矢橋家の家訓から生まれた、「会社はみんなのもの」という創業の精神があります。さらに、当社は「社員にとって会社は明るく楽しい生活空間である」「社員にとって仕事は生きがい・やりがいを感じる自己実現の場である」と定義し、それを“ひろば”という言葉で表現しています。そうした人間を中心とする経営理念は、1970年代の造船不況、1980年代の円高不況、バブル崩壊という3度の危機を乗り越えながら形作られ、「限りなく人間ひろばを求めて」という基本姿勢の下、社員が生き生きと生きられる会社づくりを進めてきました。
しかし、2000年以降、当社は急増産と急減産を繰り返す中で生産が最優先され、教育が手薄になり、24時間稼働によってコミュニケーションも希薄化しました。また、市場や技術が急速に変化し、生産対応や効率化だけでは競争優位性が築けなくなるなど、さまざまな課題が積み重なっていました。理念と現実が乖離していく中、2018年、4代ぶりに創業家が経営トップに就いたことを機に、創業の精神や“ひろば”の信念に立ち返って人財育成や技能伝承活動を再起動させる取り組みを開始。目指す会社の在り方として「ひろば:51%と事業:49%のバランス経営」を掲げ、会社の理念を一人一人の日常の行動に落とし込む「セキガハラウェイ」が作成されました。
セキガハラウェイは、次世代社員による「社長塾」のメンバーが自社の歴史や理念を紐解き、自分たちがどうあるべきかを行動規範として明文化したものです。上が作って配布するものとは違い、自分たちで苦労してつくったものだからこそ、朝礼での読み合わせ、全社員研修、職場対話などで浸透が図られ、社内の一体感の高まりを実感しています。
理念を中心とした人づくりのため、当社では「学び舎」「文化村」「技術村」の3つの村活動を展開しています。
「学び舎」は社長塾や社外への武者修行制度などの人財育成、「文化村」は経営層と社員の懇話会、地域に開かれたレストランやカフェの運営など、地域共生や楽しい会社づくりを目指ざすものです。そして、今回の受賞テーマに最も強く関係しているのが、「技術村」の活動です。
技術村は1991年に誕生し、2003年に「ものづくり学校」を開設、2021年に「匠道場」へと進化しました。途中、活動が停滞していた時期もありましたが、2019年から技能伝承活動として再注力、再活性化が図られています。
技能伝承活動においてまず行ったのは、技術村の目的の再確認でした。“ひろば”の理念と、「宮大工のようなものづくり」を掛け合わせ、単に生産のために技能を磨くのではなく、技術・技能の研鑽と伝承を一人一人のやりがいにつなげていくことを「ありたい姿」に位置付けました。次に、技能伝承を継続・進化させる体制づくりに取り組み、①技能の見える化、②挑戦・実践、③成長支援、④評価・継承の4つのフェーズを循環させる仕組みを整えました。
①技能の見える化では、部門最適になっていた個人カルテの評価項目を、専門性と共通性の両面から再設計し、配置、育成、多能工化に活用可能なカルテに転換。若手が成長目標を自分事化し、自分の意思と成長をしっかり結び付けられる研修を実施しています。
次の②挑戦・実践のフェーズでは、技能伝承の中核施策として「セキガハラ技能競技大会」を実施。成績優秀者は上位大会へと進み、好成績を収めたメンバーが指導者として次世代を育成しています。近年は、工業高校生の招待、間接社員向け競技の設置などの仕掛けで来場者も増え、技能向上、成長実感、さらに健全な切磋琢磨や信頼関係が生まれる活気あふれる大会に成長しています。また、外部表彰や外部の技能競技大会に積極的にチャレンジし、一昨年、当社では初の「現代の名工」が誕生しました。さらに、若手社員が工業高校生や協力企業へ技能を教える場を設け、若手が技能を高めつつ自信や責任感を持つ機会を創出しています。
さらに③成長支援のフェーズでは、間接社員を含めた全社員が何らかの資格を取得する「全社員有資格者」の取り組みを実施しています。資格取得をゴールとするのではなく、成長に向き合う姿勢を育てるための活動として推進し、難度の高い資格取得者は全社朝礼で社長が直接表彰するなど、やりがいに繋がる仕掛けも大切にしています。また、ものづくりマイスター制度を活用し、マイスターが外部企業や工業高校で技術指導する技能伝承活動を展開。それがきっかけで当社への入社を希望してくれる高校生が増え、最近では工業高校から毎年安定して採用できるようになりました。社内で磨いてきた技能が地域社会に役立ち、それが人財という最高の形で自社に戻ってくるという好循環が生まれています。
最後に④評価・継承のフェーズでは、年2回の「技能委員会」を実施し、各フェーズの取り組みを現場と経営が一体となって議論しています。その際は一人一人がいつ、何に挑戦するか、キャリアパスを共有し、技能継承の計画を見える化し、現場で「もうすぐ次の大会だけど調子はどう?」などと声を掛けてモチベーションアップにつなげています。また、挑戦事例の発表や各種競技大会の表彰を行う能力開発大会を開き、社員全員にスポットライトを当て、全員が「会社はみんなのもの」という創業の精神を実感できる場を設けています。
「技術村」による理念を核とした技能の研鑽・伝承は、現代の名工の輩出、外部大会での好成績、工業高校生の安定採用といった成果につながりました。さらに、「学び舎」「文化村」を含む日々のさまざまな活動の積み重ねにより、離職率1%未満という成果も生まれています。事業面では、人と組織が成長した結果、難度が高い新規開発案件や高付加価値案件が着実に増えてきました。こうした案件は社員のやりがいを高め、さらに人と組織の成長につながるものです。
理念を中心に、人、組織、事業が互いに作用し合い、全体が同時に育ってきた。この成果こそ、私たちがこれからも大切にしていくべき強みになるものだと考えています。
これまでの取り組みを通して、私たちがこれからも大切にしていくべきことをまとめました。まず1つ目は、理念を軸に人を大切にする経営をつなぎ、貫くということです。理念や軸という「変えてはいけないこと」と、挑戦し次の一手を仕掛ける「変え続けること(姿勢)」を分けて考え、時代に合わせてやり方を変えながら、「なぜそれをするのか」という軸は決してブレないようにすることが、理念経営を継続させる上で非常に重要だと捉えています。
2つ目は、楽しさ・好奇心から始まる人財育成の好循環です。会社がお膳立てした仕組みだけでは、人は育ちません。あくまでも初めはものづくりの楽しさや技能への好奇心を原動力として、目標の共有や成長実感によって自分事化し、挑戦した結果から感じる喜びや悔しさがさらなるパワーアップの原動力になる。この自律的なサイクルが人を成長させるのです。
理念を中心に、さまざまな取り組みの点がつながって線となり、そこに社員が参加して大きな面になり、会社全体が大きく変化してきていると実感しています。私たちはこれからも「限りなく人間ひろばを求めて」という理念を軸に人を育て、挑戦を続けながら社会に貢献する価値創造を追求し続けていきます。
取り組みのポイントは、理念と組織文化、人財育成の2点にあります。まず「会社はみんなのもの」を徹底し、利益よりも人の成長や交流をわずかに優先する人間性重視の姿勢を打ち出し、単なる工場ではなく人が集い、学び、憩う場づくりに投資したこと。さらに、楽しく自律した成長を促し、先輩が熱心に育てる仕組みができていたことです。「工業の宮大工」という言葉がありましたが、技術への高いプライドを持ち、技術ファーストの環境で切磋琢磨して成長する宮大工が育ち、組織、人、事業を磨いて素晴らしい事業所になっていたと思います。