JMA MANAGEMENT ロゴ

小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第14回】2026 GOOD FACTORY賞® 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(1) ファクトリーマネジメント賞
本田技研工業株式会社 鈴鹿製作所
Release June. 2026

2026 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]軽自動車Nシリーズ お客様に支持される製品を産み出し続けるものづくり
本田技研工業株式会社 四輪生産本部 生産統括部 鈴鹿製作所
生産業務部 部長
宮﨑 直樹 氏 ※掲載の所属役職については、2026年3月時点といたします。

事業所概要と活動背景

本田技研工業鈴鹿製作所は、小型車と軽自動車、特に「N-BOX」をはじめとするNシリーズの生産を担う事業所です。2本の生産ラインは年間53万台の生産能力を持ち、No.1ラインは小型車と軽、No.2ラインは軽専用とし、最多生産機種であるN-BOXを両方のラインで生産可能とすることで、市場のニーズに合わせた生産数変動に対し、フレキシブルに対応できる高効率な生産体制を取っています。
今回ファクトリーマネジメント賞を受賞させていただいたのは、2011年に発売を開始したNシリーズの初代から2025年まで3代に渡る商品進化に伴う、開発・生産・調達が連携した当事業所の課題解決の取り組みについてです。
2000年代初頭、ホンダは軽自動車市場においては低燃費低価格競争に苦戦し、販売台数も低迷していました。そこで、従来の価格競争から脱却し、安全や快適装備など新たな付加価値によって市場を切り開こうと企画されたのが、「New Next Nippon Norimono(あたらしい日本ののりもの)」をコンセプトとするNシリーズでした。
新たな装備を加えれば、当然製造コストは上がり、売価に反映されます。あたらしい商品でお客様の期待に応えるためには、付加価値を向上させると同時に売価の低減を図るという二律背反の課題をクリアする必要がありました。しかし、Nシリーズ生産以前の新機種開発では、商品性が最優先され、生産側の設計変更など要望が通りにくく、生産体質の悪化からコストアップの要因となっていました。以前より開発部門と生産部門が議論する場として通称「ゲバ会」が設けられていたものの、互いが意見を主張するのみの一歩通行で議論が深まらず、相互理解が得られない状況が続いていました。そこでNシリーズでは、商品性向上と製造コスト削減を両立させ「真の商品競争力」を高めるための全体最適を目指した、生産現場の要望を製品仕様へ反映できる仕組みづくりが大きな課題となりました。

そこで我々は生産現場の要望や要件をものづくりに反映できる仕組みを構築するため、当事業所では、「内作コストダウン」「軽特化仕様/生産」「クルマ1台分コストダウン」の3ステップで施策を展開してきました。

1st N:内作コストダウン

1ステップ目(1st N)で取り組んだのは、内作コストの低減です。まず、栃木地区にあった軽自動車の開発と調達機能を鈴鹿製作所に集約し、生産、開発、調達、営業のメンバーがワンフロアで顔を合わせて仕事ができるSKI(Suzuka Kei Innovation)を構築しました。さらに、生産、開発、調達のマネジメントと実務者が一堂に会する「生産戦略会議」を設け、衝突を恐れず、喧々諤々議論することで、開発設計と生産現場の相互理解を深化させていきました。
ただし、ワンフロア化したとはいえ、それだけでスムーズに理解が進んだわけではありません。相互理解のポイントは、各部門の実務者が一緒に生産現場に行って困りごとを直接見る、現場・現物・現実の「3現主義」にありました。話だけでは「コストアップになるから」と前に進まなかった問題が、各部門の全員がそろって現場を見ることで、「部品としてはコストアップしても解決した方が全体最適になる」と話がまとまり、一気に解決に向かったケースもあります。また、マネジメントが協議に参加することで一段階上の視点が加わったことも、全体最適の議論の深化に効果を発揮しました。さらに、以前は出図後に行われていた内外作要件の議論を前倒し、構想段階で要件を明確にして出図後の調整を削減することで開発工数の削減にも大きく寄与しました。
3現主義と多角的視点を取り入れたSKIオペレーションにより、全体最適の視点が生まれやすくなり、かつての「ゲバ会」では7割がNGだった設計変更要望の採用件数が、約2倍に増加。より商品性が高く、造りやすい商品を実現することができました。さらにNシリーズ内で部品や生産設備の共用化も進み、内作投資削減による大幅なコストダウンも達成しました。

2nd N:軽特化仕様/生産

1st Nによる内作コスト削減に続き、2ステップ目(2nd N)では、1st Nで構築したSKIオペレーションを活かしながら第2工場を軽生産に特化してリニューアルし、さらなる競争力の強化を図りました。
1st Nの段階では、小型車と軽を同じラインで生産していたことから、N-BOXには小型車と同等の内作コストがかかっていました。そのため、第2工場の老朽化更新に併せ「軽世界最高効率コンパクト生産プロセス」の実現をコンセプトに、まずは徹底した他社分析で競争力を検証し、目標KPIを設定。目標達成のために、溶接工場では工程の集約化を徹底し、自動化、設備やJIGの汎用化、車体組立工場では装置化、部品の最適化、内外作の最適化、準備工数の極小化などに取り組み、高効率化を進めました。また、生産要件をさらに深く、詳細に整合できるよう仕様開発基準書を進化させるとともに、クルマをエリアごとに分割して高精度の「DEB構想書」を発行し、製造プロセスをシンプル化しました。
仕様の最適化、工程集約、新規技術投入などを図った結果、各工場の生産体質が向上し、「軽世界最高効率コンパクト生産プロセス」と内作コストの削減目標を達成することができました。

3rd N:クルマ1台分コストダウン

2nd Nまでの取り組みは内作のコストダウンが主体であり、コストの大半を占める直材に対する展開が不足していることが課題として残りました。そこで3ステップ目(3rd N)では、「クルマ1台分」のコストダウンを目指し、取引先にも取り組みを展開していくこととしました。
3rd Nのポイントになったのは、いかに早くメーカーレイアウトを決定し、サプライヤーが造りやすい仕様を意思入れするか、そしてサプライヤーが自らの生産体質改善に本気になってもらうかの2点です。これまではメーカーレイアウトの決定が商品開発の終盤に行われていたため、図面にサプライヤーの要望を入れ込むことが困難でした。さらに、単一機種のみの都度契約だったため、サプライヤーは生産体質を変えることに消極的になっていました。
そこで、まずはメーカーレイアウトの決定を従来より約1年早め、商品の構想段階から要件や要望を意思入れできる仕組みを整えました。また、設計部門はプラットフォームの長用化(10年超)を約束し、購買調達部門はサプライヤーに対して長期適用の担保に取り組み、生産部門も取引先に入り込んで一緒に生産体質の向上を図ることで、費用改善を推進しました。取り組み当初、サプライヤーには多くの不安がありましたが、トップマネジメントも巻き込んだ丁寧な協議と目的の明確化、成功事例共有や成功体験の積み重ねで不安を解消し、最終的には本気になって一緒に活動を推進することができました。
各サプライヤーごとの特性に合わせて効率化のポイントを分析し、改善を実施した結果、各社とも生産体質の大幅な向上を達成しています。また、早期に意思入れする体制が整ったことで設計変更要望件数が激減し、直材でも10%超のコスト削減を達成しました。真の意味で絆の強いものづくりを実現することができたと考えています。

こうした3つのステップによる取り組みにより、商品の進化と共に、当事業所の生産体質、お取引先様の生産体質がともに向上し、2015年以降、N-BOXの国内販売も、軽自動車で11年連続No.1を維持しています。

まとめ・ものづくりシステムの進化

我々はクルマ1台分のコストダウンを目指し、1st Nでは「3現主義のワンフロア化/生産戦略会議」「目標・目的の明確化と共有化」「偏りのないスピード決裁体制」、2nd Nでは「対他競争力から目標/KPI設定」「仕様開発基準書」、3rd Nでは「早期メーカーレイアウト決定」「プラットフォームの長用化/長期適用担保」「取引先の生産体質向上支援」を進め、高い商品力と生産体質改善を実現。コスト目標を達成することができました。3つのステップで築き上げこのSKIオペレーション体制により、当事業所は、商品価値向上と製造コスト削減を両立する真の「ものづくりシステム」に進化しました。
今後はSKIのシステムを軽から小型車へ展開し、「Suzuka Kei(軽) Innovation」から「Suzuka Kurumazukuri(くるまづくり) Innovation」として、グローバルに発信していきたいと考えています。

コーディネーター総評

成功のポイントは、商品性と生産性・原価競争力を両取りする“アンド思考”、「軽世界最高効率」など高い目標を立ててベクトルをそろえたこと、さらに社内だけでなく取引先を含めた上流からの巻き込みという3点にあったと思います。現地審査では生産戦略会議にもお邪魔したのですが、各部門のトップの前で現場の方が「ここがやりにくい」「こうしたらいいのでは」と話していたことが印象的でした。開発設計と生産が喧々諤々で“深く混じる”高いレベルの共同活動が実を結び、工場発の活動が全社に認められた事例ではないでしょうか。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
取締役 シニアコンサルタント 石田 秀夫氏
GOOD FACTORY賞®を受賞して

本田技研工業として初めてGOOD FACTORY賞®を受賞できました。13年間温めていたSKIシステムを掘り起こして準備しましたが、二次審査前に何を見せるべきか迷い、最終的に臨場感を重視して開発ミーティングに審査員に参加いただく形で対応しました。GOOD FACTORY賞®最後の回での受賞を光栄に思っています。