TECHNO-FRONTIER 2018 技術シンポジウム 幕張メッセ・国際会議場 技術者のための専門展示会 TECHNO-FRONTIER 企画委員インタビュー

第26回 磁気応用技術シンポジウム
企画委員長が教える今年の注目ポイント

東京大学 大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 教授
古関 隆氏

「鉄道車両」「磁気浮上」「リニアモータとその制御」「旅客輸送のIT 化」など交通システムへの電子情報学・電気工学の応用に関する研究で知られる古関氏。磁気応用技術シンポジウムでは委員長を努めていただいています。

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TECHNO-FRONTIER 2018 磁気応用技術シンポジウム 委員長インタビュー
──古関さんの現在のお立場を教えていただけますか?

 現在、私は東京大学大学院 工学系研究科の電気系工学専攻に在籍しています。磁気応用分野との関わりで言えば、変圧器・モータ・発電機などの一般的な電気機械の基礎について、学生に教えています。
 大学院では、交通システムへの電気工学・情報通信技術の応用について教えていますが、授業は留学生を考慮して英語でおこなっています。研究室の活動には、電気鉄道や電気自動車への応用を想定した電機駆動の研究と、運行の制御にかかわる研究の双方があります。後者について、一般に「列車ダイヤ」と言われていますけれども「どのように計画を立てるか」「運行が乱れた時に、どうやって立て直すか」という問題に対して、コンピュータを応用し数理的最適化を適用し運行を支援する技術に挑戦しています。

──先生のご専門の中で、磁気に関することとは何ですか?

 委員長として磁気応用技術シンポジウムのセッションの取りまとめを仰せつかっていますが、私自身は磁性材料技術の専門家ではなく、その成果を実際に使わせていただく立場にいます。したがって、先ほど話をした鉄道などの応用システムの見地から、新しい材料がどのように設計に活かされるかについて関心があります。その意味で、磁気応用技術シンポジウムに加えていただいているのは、とてもいい勉強になっており、専門家の皆様と直に最新技術の動向について議論できる良い機会をいただけていると感謝しております。

──今回の磁気応用技術シンポジウムですが、どのような方針でプログラムを組んでいますか?

 この磁気応用技術シンポジウムは、比較的小規模のプログラムなので身軽なところがありますので、テクノフロンティア全体の大きなプログラムの計画に先立つ形で、比較的早い時期にセッション内容を決めることができています。磁気応用技術は、同時開催される「モータ技術シンポジウム」とは切っても切れない関係にありますので、最初の企画会議を一緒におこない、モータ技術のキーワードやセッション企画の方向性についてのお考えを教えていただきながら、磁気応用技術シンポジウムの企画具体化を進めました。このことで「モータ技術シンポジウム」の講演に配慮しつつも磁気応用シンポジウムとしての特徴を出すことができていると思っています。

パワーエレクトロニクスやEMCも関係していますので、横通しのセッションとして、どのような講演があった方が良いかも考慮しながら、プログラムを設計することができていると思います

──今回のセッションの内容をご紹介いただけますか?

 磁気応用技術シンポジウムは、いつも6コマの枠をいただいていますのが、毎年、キーワードをほぼ固定しておこなっているプログラムが5つありまして、残りの1つはその時々の新たな話題のプログラムにしています。

 簡単にプログラムを紹介します。近年の高性能なモータ設計では「どうやってうまく計算機を用いて磁界計算をするか」が非常に重要です。最近では数値計算のツールが行き渡っており、現場の技術者は多様な機能を持つそれらのツールを、物理現象を理解しつつ上手に使いこなす必要があります。そこで、少し古典的な方法かもしれませんが、専門家の先生が、「紙と鉛筆」で記述できる理論で磁気回路を計算しそれを設計に結びつける考え方を解説するとともに、高度なツールの上手な使い方をあわせて解説する講義を予定しています。すなわち、重要な実務の基本を学べるチュートリアル的なプログラムですね。これがA3セッションの「磁界解析の基礎と最新適用事例」になります。

 今年の産業界の動向を考えながら、徐々に変えていますけれども、磁気応用技術シンポジウムでは、設計の基礎を支えるような若手の技術者や、電気工学以外の分野から入ってきた技術者に向けた内容をいくつか揃えています。

 たとえば、磁気応用では材料が重要ですので、ハード磁性材料・ソフト磁性材料について2つの独立したセッションを設定しています。ハード磁性材料としては様々な種類の永久磁石があると思いますが、それを磁石メーカの方を中心に比較し論じていただく。加えて、それらを実際に使っていただいている応用技術の専門家にも入っていただきます。それがA4「永久磁石の最新動向 ~EVシフト/電動化に向けて~」です。

 一方で、鉄心や磁気コアと呼ばれる部分の技術の進歩がモータの高性能化・小型化に非常に重要になっています。その意味で、ソフト磁性材料についても、理論的な研究をしている方から材料を提供しているメーカの方まで幅広く議論していただくセッションを予定しています。それが、A5「次世代磁気応用デバイスの材料・製造面の重要技術 ~Additive manufacturingとflexible成形~」です。

 また、A2「次世代車載用磁気センサ技術 ~電動化と自動運転に向けて~」では、センシングについて、IT化やIoTの文脈で議論します。基本技術としてのセンサ技術、磁気を応用したセンサについてのセッションですね。

 やや特殊と思われる分野かもしれませんが、電磁気的な場の伝達を通じて非接触で比較的大きな電力を送る「Wireless Power Transfer」(非接触電力伝送技術)がここ数年間、急速に進展、普及し、注目されています。このセッションがA1「ワイヤレス給電 ~コイルからシステムまで~」になります。

 この5つが磁気応用技術シンポジウムの定番、いわゆる定食メニューのようなセッションになります。そして残る1つが季節の特別ディナーとでも言いますか、少し挑戦的なセッションになります。聞きたい人は多いけれども、まだ外向けに話ができないという話題もあって、企画が難しいため、ある意味、攻めたセッションになると思います。

──今お話いただいたプログラム内容の中で、個人的に注目しているセッションは?

 私自身が普段の仕事の中で関係が深いのは、A3「磁界解析の基礎と最新適用事例」ですね。自分自身の研究に直接関わるという意味で、興味を持っています。正直言うと、材料の話は、私には難しくてわからないことがたくさんあります。ただ、新しいものを開発していくために物理をきちんと理解して設計に反映させることが技術者には大切ですから、着目していくべきテーマだと思ってます。

──磁気については、解析が最先端の技術に繋がっているのですか?

 設計時には、今日必ずコンピュータを使います。 高機能なCADやCAEが必須で、それをどうやって使いこなしていくかということが常に重要です。自分自身はそういうコンピュータ上の便利なツールが十分にない時代に育った人間ですので、むしろ、そういう初期のプログラムを自分自身で書いてきました。今の大学院生は既にプロが作ってくれたプログラムを使って、数値的設計をしますが、一方で、中身をよくわからずブラックボックスで使っている、その結果、物理的に不合理、あるいは不適切な使い方を自分で気づかずにしてしまう場合も散見されます。自分でプログラムを組めば、そんな使い方をしてはいけないことは自然にわかるのですが。このシンポジウムに来ていただいている先生方は、ご自身でプログラムを開発されてきた専門家ですので、より深いレベルでそういう難しいところに手が届くお話もしていただけると思っています。プログラムを日頃使いなれている方も、一度こういうところでお話を聞いていただいて「中身を知っている人間か見ればここに注意しなさい」という話を聞いていただくことは、とても有益だと思います。

──最先端の技術を知る場として、学会がありますが、学会とこのシンポジウムの違いとは?

 学会では「お前のオリジナリティはなんだ」と常に新しい視点での議論が求められます。
したがって、産業界でみんなが普段使っている技術が有用であっても議題にならいないことが多いと思います。学会では、常に最先端に注目するわけですから。

 磁気応用技術シンポジウムは他の応用技術に近いところから見れば、地味な基礎研究的に見えるところが多い。しかし、学会では当たり前のこととして話されないことでも、大事な技術であれば注意深く取り上げています。したがって、新入社員や新たな技術分野に入って1~2年目の技術者にとって学ぶべき重要なことを親切に解説してもらえると思います。これはテクノフロンティア全体に言えることだと思います。

 さらに、テクノフロンティアは、学会でもなかなか話が出てこない世界レベルのビジネスの分野で熱い競争になっている技術や、製造現場での実務に基づく経験が聞ける場でもあります。ここでは一般の参加者が、名刺交換もできるし、質問もできる。学ぶ気があれば、同業のレベルの高い仲間? or ライバル?とより親しく交流できる場として活用できます。この点が、エキスパートとしての発表という形で、積極的に情報発信できないと参加のしにくい学会との違いだと思います。

──参加される方へのメッセージをお願いします

 日本能率協会としては面白くないかもしれませんが、公開情報で全体のプログラムは無料で見ることができますから、それを見て「今、こういうことが話題になっているんだな」「こういう技術が重要なんだ」と大まかに把握してもらうことがまず重要だと思います。そのあと、実際にシンポジウムに来ていただいたときには、フォーカスを絞り、目的意識を持って参加をしていただく。良い講師の方がたくさん参加くださっていますので、ぜひ直接お話をしてみて欲しいです。短い時間でたくさんの方とのお話は難しいでしょうが、ご自身が持っている課題に絞って、専門家の意見を聞いてみることも可能と思います。全般的に地味に見えるセッションタイトルが多いですが、学会の論文発表とはまた異なる最先端の技術に関係する基本理論や基礎的チュートリアルの内容があります。

ぜひ、同業、関係技術者の交流の場として積極的に活用していただきたいと思います。 【インタビュー記事(PDF)ダウンロード】
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