TECHNO-FRONTIER 2018 技術シンポジウム 幕張メッセ・国際会議場 技術者のための専門展示会 TECHNO-FRONTIER 企画委員インタビュー

第26回 バッテリー技術シンポジウム
副委員長が教える今年の注目ポイント

九州大学 先導物質化学研究所 先端素子材料部門 大学院 教授
岡田 重人氏

コストパフォーマンスが要求される大型蓄電池実現のための研究をされている蓄電池の第一人者。バッテリー技術シンポジウムでは、副委員長として、セッションの企画立案にご協力いただいています。

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TECHNO-FRONTIER 2018 バッテリー技術シンポジウム 副委員長インタビュー
──今年のバッテリー技術シンポジウムの特徴について、お話し頂けますか?

 まず電池業界、自動車業界を取り巻く社会情勢が前回のバッテリー技術シンポジウムの時から大きく様変わりし、この1年で世の中のEVシフトのギアが1段上がりました。

 昨年イギリス、フランスはガソリン車の販売を2040年までに禁止すると表明していますが、ドイツやインドは2030年まで、ノルウエーでは2025年までとEV化の時限をさらに前倒した待ったなしの公約が矢継ぎ早に打ち出す国が続出しており、あと20年もすればガソリン車を今まで通り販売できる国は日本とパリ協定から脱退表明したトランプ政権のアメリカだけになるのではと不安になるほどです。

 この政治状況を受けて、メーカー側の動きも活発化しています。VWは2030年までに全300車種のEV化とそのための総額2兆6000億円もの巨額投資を公表していますし、国内の自動車各社もブレイク寸前のEV時代への生き残りをかけて巨額な開発費の負担軽減のために日産+三菱自やトヨタ+マツダなど合従連衡の動きが活発化しています。また、新興勢力の方でもテスラのみならず、開発費3000億円で2020年までにEVを販売すると発表しているダイソンなど異業種からのEV市場への算入の動きも活発化していますし、世界のEV市場の半分の規模にまで急成長した中国の動向も見逃せません。これら国内外の蓄電池の市場動向についても、シンクタンク3社に独自の視点からアップデートされた情報をE1セッションで解説頂いており、毎年好評です。

──今回のバッテリー技術シンポジウムでは、電気自動車関連のセッションが3つありますね。

 E5「電気自動車用電池開発の最前線」では、昨年全固体電池搭載EVを2022年から販売開始するとの報道があったトヨタ自動車による全固体電池についての講演もあり、注目のセッションだと思います。

 また、E1「リチウムイオン電池とその関連領域の最新動向」ではEV用蓄電池のマーケット予測、E6「車載用リチウムイオン電池の現状と安全性評価試験」では、EV用に特化した大型リチウムイオン電池の安全性や出力特性について専門家から最新動向を聴いていただけるセッションになっていると思います。

──これから、電気自動車の開発競争はますます激化していくのでしょうか。

 昨秋、エコノミスト、日経ビジネス、週間ダイヤモンド、週間東洋経済等日本を代表する4大経済誌が軒並みEV特集を組んで話題となりましたが、自動車業界におけるガソリン車からEVへの変革は、100年に1度の大変革とも言われ、その社会的インパクトはブラウン管から液晶へ、レコードからCDへ、銀塩カメラからデジカメへ、携帯からスマホへ置きかわってきた市場再編の比ではありません。

 特に、80年代以降電子立国日本を支えてきた我が国の半導体産業が壊滅的な打撃を受けた今、蓄電池は半導体に替わる「新たな産業の米」として、電気通信から自動車、電力にわたる広範な業界のキーデバイスとして日本の産業界の牽引役になることが託されています。ニッカド電池から、ニッケル水素電池、そしてリチウムイオン電池に至るまで3大蓄電池をことごとく世界で始めて市販化させてきた我が国にとって蓄電池はお家芸の1つでもあり、蓄電立国として再浮上できるかどうかの鍵は、まさに今ブレイク寸前のEV市場での成否に掛かっていると言っても過言ではないと思います。

──電気自動車における蓄電池の課題はなんでしょうか?

 目下最大の課題は、「充電時間」と「航続距離」の両立です。普通車の場合、ガソリン車並の航続距離を確保するには100kWhの電池を必要とします。しかし、家庭での充電にこだわると6kWh(=100V×60A) の契約電気量の上限があり、寝ている間に充電が完了しません。しかし、これは蓄電池の問題ではなく、より大電流で急速充電できる充電スポットの充実、さらには、走行中の無線充電といったインフラ側の対策によって大幅な緩和が期待されます。

 一方、太陽電池でも蓄電池でも、およそ蓄電デバイスはそのサイズが大きくなるにつれてコストパフォーマンスが重要になります。また、電池の熱暴走を防ぐため、常に放熱量(∝電池表面積r2)>発熱量(∝電池体積r3)を維持せねばなりませんが、この不等式は電池が大型化するほど安全のマージンが減ることを示しています。これらの経済性、安全性の課題については電池自身の技術開発で克服せねばなりません。

 その他、リチウムなどの資源確保とリサイクルの問題も急速な市場拡大に付随する政治に絡む問題として注意が必要です。

──自動車関連の他にはどのセッションがおもしろそうですか?

 最近急速に顕在化してきた市場として、E4「新規IoTデバイスやドローン市場を支える中小型蓄電池」のセッションで、多様なビッグデータを活用した各種IoTデバイスやAIにより自動飛行性能が飛躍的に進化したドローンについての紹介があります。例えば、警備や宅配、農林業や土木建設業界におけるドローンへの期待は非常に大きいものがありますが、分単位の飛行時間の制約はEV以上に深刻で、我が国の高性能蓄電池の実力を発揮するには格好のマーケットです。

 また今回は、全固体電池のセッションとしてE2「加速化する全固体電池の研究開発の最新動向」を企画しました。真空管が固体のトランジスタになって信頼性が飛躍的に改善されたように、電池も固体化することが正常進化の規定路線であることは電池研究者、技術者が薄々感じていたことですが、ここ数年で従来の液体電解液を凌ぐイオン伝導度が固体電解質で開発され、この夢がより現実に近づいたと言えます。そのキーパーソンである東工大菅野了次先生はじめ、注目の全固体電池のベンチャー企業、Ilika社にも講演頂きます。

──それでは、リチウムイオン電池の性能を今以上にあげるためには、どうすれば良いのでしょうか?

 現在最新の周期律表に記載されている元素は118個ですが、経済性、安全性、環境負荷の観点から大型蓄電池に使える元素はごく限られています。しかし、シリコンや光ファイバーの発見が情報革命をもたらしたように、電池における1つの革新的材料の発見が1国の産業構造や国家間のパワーバランスを大きく変えかねない状況にあり、蓄電池研究開発競争は産官学軍を巻き込んで激化の一途です。これまでの人類の知見を踏まえ、ビッグデータを使ったマテリアルインフォマティクス技術(ALCA)や、スーパーコンピューターを駆使したAI技術(元素戦略)、最先端高精度オペランド解析技術(RISING2)など、様々なアプローチで国家の威信をかけた国家プロジェクトがEV 時代を牽引するポストリチウムイオン電池実現に向け、目下しのぎを削っています。

──最後に、バッテリー技術シンポジウムに参加される方へメッセージをお願いします。

 電気化学会や電池討論会などの学術的学会と違い、バッテリー技術シンポジウムでは、川上の電池材料研究者だけでなく、電池周辺回路技術者や川下のユーザー企業担当者からも幅広く直接的に情報交流、意見交換できることが有意義な点です。東日本大震災以降、電源不足、財源不足、資源不足、食糧不足等々、我が国を覆う閉塞感が増す中、レアメタルに頼らない日本製の高性能大型蓄電池を新規開発することで、外貨獲得のみならず、地球温暖化防止に国際的に貢献し、蓄電立国日本のプレゼンスを高めることが日本再興にもつながる道と思います。
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TECHNO-FRONTIER 2018 バッテリー技術シンポジウム 副委員長インタビュー


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