TECHNO-FRONTIER 2018 技術シンポジウム 幕張メッセ・国際会議場 技術者のための専門展示会 TECHNO-FRONTIER 企画委員インタビュー

第26回 バッテリー技術シンポジウム
企画委員長が教える今年の注目ポイント

首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 都市環境科学環 分子応用化学域 教授
金村 聖志氏

金村氏は、革新的な蓄電池および燃料電池の開発、全固体電池やリチウム金属を用いた電池に関する材料および電池化学の研究を推進。バッテリー技術シンポジウムでは委員長として、ご協力をいただいています。

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TECHNO-FRONTIER 2018 バッテリー技術シンポジウム 委員長インタビュー
──金村先生の現在のご所属を教えていただけますか?

 首都大学東京の研究室で、エネルギー貯蔵や発電について研究をしています。バッテリー技術シンポジウムでおこなっている電池一般、それに燃料電池、その二つが主な研究対象です。
 また、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)では、チームリーダーとしてプロジェクトを進めています。

──どのようなプロジェクトなのでしょうか?

 一つは全固体電池のプロジェクトです。それからリチウム硫黄電池ですね。リチウム空気電池、最後がマグネシウム電池ですね。こういった革新電池に関する研究をおこなっています。
 それ以外では、電池メーカーさんや材料メーカーさんと共同研究もしています。ビジネスの観点から「どのような電池がいいのか」「電池はどうあるべきか」をアドバイスすることもしています。
 また、首都大学東京には水素エネルギー社会構築研究センターがありますが、そのセンター長も務めさせていただいています。水素だけではなく、蓄電池などのエネルギーデバイス全体を含めた省エネルギーについて研究をしています。

 このようにいくつかのテーマを並行しておこなっていて、蓄電池についてはJST と研究し、燃料電池に関しては東京都と一緒におこなっています。それ以外にも、海外との共同研究もいくつかありますし、基礎的なデータ取りをしている場合もあります。新しい材料の合成をする場合もあります。蓄電池に関しては、全般的に研究をしているといえます。

──バッテリー技術の動向は?

 ご存知のように電気自動車が話題になり、蓄電池も注目されています。「2030~50年に全てを電気自動車にする」という方向の中で、蓄電池に対する期待が増しているのだと思いますが、意外と日本の方が冷静に見ているような感じがします。ただし、日本の企業も、日本の市場だけではなく、インドや東南アジア、もちろんアメリカ・ヨーロッパといった市場に出ていかなければいけない時期に来ていると思っています。

 日本のリチウムイオン電池は非常に高い性能を持っていますが、値段がかなり高い。日本がリチウムイオン電池で勝つためには、おそらく「コストをどうしていくか」にかかっています。ただし、コストは作った時の値段ではなくて、電池を使い切るまでの期間を含めた値段と考えることができますので、日本の技術によって、より長い寿命が可能になれば、実質的なコストは下がります。そこが非常に重要になると思います。

 そういう意味では、電池の劣化モード、劣化解析、寿命予測がリチウムイオン電池では非常に重要になっています。エネルギー密度が足りないので、いろんな新しい材料で工夫して、エネルギー密度の向上を図っている企業が多いわけですが、しかし、それでもまだエネルギー密度が足りない。もっと良い蓄電池ができないか試行錯誤していかなければいけません。

 また、電気自動車を入れるだけではなくて、スマートグリッドと呼ばれる視点も考慮しなければいけません。実はライフサイクルアセスメントというものを計算しているんですけれども、電気自動車を普通の火力発電の電気で動かすと、ガソリンよりも二酸化炭素を増やしてしまうんですね。計算上はそうなってしまいます。

 だから、少なくとも、電気を自然エネルギーから取るようにしないといけない。それをいかにしておこなうか。実際に、低地用の電池が開発されていて、一番有名なところではナトリウムイオン電池があります。今回のシンポジウムでも取り上げられていますが、東芝さんのSCIBもあります。インフラとして、こういった蓄電システムを構築しなければいけない。

 しかし、問題もあります。それらは、大きさがサッカー場3つくらいの面積になってしまう。体積エネルギー密度が低いからです。「土地はいくらでもあるから」と言われれば、確かにそうなんですが、もう少しコンパクトに作りたいわけです。実は、私も、数年前までは「それほどエネルギー密度を上げなくてもいいかな」と思っていたのですが、電力中央研究所の方にお話しを伺うと「もう少し小さくして欲しい」と言っていました。そういう意味では結局、電気自動車もグリッド用の蓄電池もエネルギー密度を上げないといけない。

 現状では、リチウムイオン電池が主として活用されていくと思います。しかし、それで、果たして良いのか。そういう意味では、今回のシンポジウムでも取り上げられる全固体電池は将来を見据えた新しい技術展開になっていく可能性があると思います。全固体電池の一番の欠点は値段です。すごく高い。安全性が高くなるのは当たり前なのですが、しかし、一番重要なことは、それ以上に寿命が長くなることです。つまり、液体だから劣化していたが、固体なら劣化しにくい。寿命が3倍くらいになれば、コストが1/3になるわけですから、大いに期待しても良いかもしれません。

──今回のシンポジウムのプログラムについて、解説していただけますか?

 E1「リチウムイオン電池とその関連領域の最新動向」では、電池全体の現状の話をします。E2「加速化する全固体電池の研究開発の最新動向」では全固体電池の話をします。先ほど言ったように、すごく問い合わせが多いホットなトピックです。
 それから、E3「エネルギーマネジメントの価値と展望(仮)」がエネルギーマネジメントについてで、「低炭素社会実現に向けた二次電池技術への期待」とありますが、まさにこのとおりで「電池がいい」というのはなんとなくわかるのですが、実際にどのように良いのかをしっかりと議論します。
 E4「新規 IoTデバイスやドローン市場を支える中小型蓄電池周辺技術」では小型の電池がテーマですね。ドローンやIoT、自動運転もその中に含まれると思いますが、そういったものに必要な電源があって、研究の対象としていかなければいけません。ドローンの例で言いますと、グーグルさんからも問い合わせがあったのですが、飛行時間が短すぎるという点があります。エネルギー密度を2倍、3倍にすることができれば、飛行時間は長くなり、使い勝手が変わります。
 電気自動車の話題が、E5「電気自動車用電池開発の最前線」で、大型電池の開発に関してのセッションです。どちらかというと、E1がビジネスサイド、技術に関してはE5で話をしていただきます。E5E6「車載用リチウムイオン電池の現状と安全性評価試験」は、どのような電池を実際に開発しようとしているかについてのお話です。セッションごとにそれぞれ特徴があるし、全体としてバランスが取れたプログラムになっているかと思います。

──参加者へのメッセージをお願いします

 リチウムイオン電池で日本はトップを走っていましたけれども、最近では中国や韓国に挽回されています。しかし、それは単純にコスト競争の面が強い。そのコストの差がどのようになっているのかを日本のメーカーも理解した方が良いと思います。ある意味、日本のメーカーの考え方がハイスペック過ぎる部分とも言えます。確かに、一度、ハイスペックで作るとスペックを落とすことが難しいかとは思いますが、市場に合った製品づくりも考えなければいけないのかもしれません。
 最近、私の救いになったのは、先ほどお話ししたコストと寿命の考え方です。長期間に渡って使い続けることができる電池ならば、それに越したことはありません。日本の技術が長寿命化を可能にすれば、世界で勝負ができます。電池メーカーさんには長寿命化に資するような電池開発をぜひやっていただきたいと思います。そうなると、「日本の電池がやっぱりいいよね」となる。
 それから、新しい電池の開発に向けて、いろんなメーカーさんが取り組んでいます。なかなか難しいと思いますが、諦めずに取り組んでいただきたいと思います。少なくとも固体電池については、先が見えてきていますので、みんなで一緒に進めていければいいなと思っています。 【インタビュー記事(PDF)ダウンロード】
TECHNO-FRONTIER 2018 バッテリー技術シンポジウム 委員長インタビュー


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