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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

INTERVIEW
理事
株式会社帝国ホテル
代表取締役社長 社長執行役員
定保 英弥

1984年入社。2009年、取締役 常務執行役員、帝国ホテル東京総支配人。2012年、専務取締役 専務執行役員。2013年より現職。

定保 英弥氏

従業員が活躍できる“舞台”をつくり
お客様に尽くすことで社会に貢献する

―現在のお立場やお役割についてお聞かせください。

新型コロナウイルスの感染拡大によって観光業、そしてホテル業は大きな打撃を受けてきました。しかし、ホテルの非日常的な空間を楽しみたいというお客様のニーズは確実にあり、我々、ホテル業の存在意義は変わらずにあると信じています。コロナ禍が収束すれば、たくさんのお客様がホテルにお見えになると思いますので、一緒に働く従業員の雇用をしっかりと守り、すべてのスタッフが笑顔でお客様をお迎えできる環境づくりに努めています。

2020年4月、最初の緊急事態宣言が出されてホテルの営業ができない状況の中、厳しい状況を打開するためのアイデアを約2,500名の全従業員にメールで求めました。うれしいことに従業員の半数以上から返信があり、5,473件のアイデアや提案が寄せられました。とても心強かったです。こういう仲間がいれば必ず乗り越えていけると確信できました。寄せられたアイデア一つひとつを精査し、優先順位を決め、予算を付けながら実行していく旗振り役を果たしていくのが私の役割です。

帝国ホテルは念願の京都出店を決めており、2026年に開業を予定しています。さらに、2024年度には帝国ホテル東京の建て替えにも着手します。営業を継続しながら工事を進め、すべて終了するのは2036年度です。立地する街区全体の再開発計画の波に乗り、建て替えプロジェクトの着手には、2040年に迎える開業150周年、さらにはその先の開業200周年へとつなげていきたいという思いが強くありました。次世代のホテルマン、ホテルウーマンが活き活きとお客様をお迎えできる舞台をつくるために、これらの大プロジェクトを推進する道筋をつくることが、今後の最も重要なテーマとなります。

―これまで担当してきたお仕事についてお聞かせください。

1984年の入社です。最初の1年半は研修期間であり、客室の清掃とレストランのサービスを担当しました。正直、先輩方の仕事に付いていくことができず、毎日が必死でした。振り返るとその経験を経て、ホテルマンとしての第一歩を踏み出せたと思います。客室の清掃、レストランでのサービスを通じて、帝国ホテルの現場がどのように回っていて、どんな人々働いているかを間近に知ることができました。研修後は、営業や企画など、さまざまな部署に分かれていきますが、最初にホテルの現場を知ることは非常に重要だと思います。現在でも、入社後の現場研修制度は続けています。

1991年からの4年間はアメリカのロサンゼルス案内所の駐在員を務めました。当時は1980年代の日米貿易摩擦から生じた「ジャパンバッシング(日本叩き)」が激しかった時期です。日本への旅行は人気がなく、事務所への問い合わせの電話が1件もない日もあったほどでした。そこで東京の大手ホテルの駐在員たちとチームを組み、西海岸の旅行代理店や企業を訪ね、日本や東京の魅力を伝える丁寧な営業活動をしました。幸い、帝国ホテルには、アメリカの著名な建築家、フランク・ロイド・ライトが建物を設計した歴史がありましたから、現地での知名度も高く、円滑にコミュニケーションを図ることができました。

2001年9月11日、ニューヨークで同時多発テロが発生時、営業部の大使館や外資系企業を担当するグループの課長になったばかりでした。帝国ホテルは海外からのお客様の割合が半分を占めていましたが、同時多発テロの影響によって海外からのお客様が激減しました。そこで国内のお客様を増やそうと決め、営業担当の垣根を超え営業部全体がチーム一丸となって、全国の旅行代理店に、がむしゃらになって営業をかけました。結果として国内の宿泊客を大きく増やすことができ、チームワークの素晴らしさを感じることができた経験でした。

ホテル業をはじめとする観光業は外的な影響を受けやすいビジネスです。入社以来、何度か利用客が大きく落ち込む時期がありましたが、営業職として得た幅広い経験を生かし、常に前を向き、課題に対応してきました。帝国ホテルの初代会長、渋沢栄一翁の「逆境のときこそ、力を尽くす」という言葉には何度も背中を押してもらいました。そして、帝国ホテルには、支えていただいているお客様と、お客様のために尽くしたいと願っているスタッフがいます。皆様の支えによって、私自身、粘り強く踏ん張り、逆境を乗り越え、未来に向かって事業を進めることができたと思います。

―経営者として大切にしていることについてお聞かせください。

帝国ホテルの初代会長、渋沢栄一翁は次の言葉を残しています。

「いろいろの風俗習慣のいろいろの国のお客さんを送迎することは大変な仕事だ、骨の折れる仕事だ。しかしながら君たちが丁寧に良く尽くしてくれれば、世界中から集まり、世界の隅々に帰っていく人たちに、日本を忘れずに帰らせ、日本のことを一生懐かしく思いださせることができる。国家のためにも非常に大切な仕事である。精進してやってくださいよ」

この言葉は、お客様に尽くせば、結果として「社会のために」なることを示しています。私たちはホテルの現場で、目の前の「お客様のために」仕事ができれば、ファンづくりにつながり、得られた利益を、従業員をはじめ、あらゆるステークホルダーに還元できます。渋沢栄一翁の言葉という原点に立ち返り、「社会のために、お客様のために」をぶれずにやっていきます。
帝国ホテルの企業理念には「最も優れたサービスと商品を提供することにより、国際社会の発展と人々の豊かでゆとりある生活と文化の向上に貢献する」という言葉があります。私たちの先輩たちは、最も優れたサービスと商品を提供する努力をしてきました。それが130年以上受け継がれてきて、見えないところの積み重ねによって、お客様のなかで信用と安心が醸成されてきました。それこそが帝国ホテルブランドです。

お客様のホテルの使い方、ご要望を知り、働いているスタッフがどのように対応しているかを知り、改善を重ねる、そのような現場での知見がDNAとして脈々と受け継がれてきました。ホテルの経営のヒントは常に現場にあり、それは今後もきちんと引き継いでいきたいと思います。

―今後、注力していくことについてお聞かせください。

2022年5月に世界経済フォーラム(ダボス会議)で発表された「2021年旅行·観光開発指数レポート」において、日本は1位の評価を得ました。これは、世界の人々が旅行先としての日本に魅力を強く感じている証であり、官民が連携して観光への取り組みを強化できれば、訪日外国人旅行者は必ず戻ってきます。

海外からの観光客が回復したときに重要なのは、観光業で働く若い世代の担い手が十分にいることです。帝国ホテルでは、京都の開業や東京の建て替えの計画を進めながら、採用を強化し、人を育てることにさらに注力していきます。2036年度に帝国ホテル東京の建て替えが完了したときに、完璧なかたちでスタートする道筋をつくるためにも、人材教育に力を入れていきます。今後も、社会ではさまざまな苦難が起きていくでしょう。だからこそ、経営者はぶれずに人を育て続けることが一番重要なテーマだと認識しています。

建て替えによって建物が新しく綺麗になっても、お客様にサービスするのはスタッフです。しっかりしたスタッフのサービスによって魂が入っていなければいけません。国内外のお客様のニーズを反映した新しい施設ができれば、スタッフがみんな笑顔で仕事ができると思います。ホテル経営で大切にすべき起点は従業員にあり、従業員がもっと活躍できる舞台を整えれば、結果としてお客様や株主の皆様にも喜んでいただけると考えています。

東京では外資系ホテルが続々と進出し、そして国内の大手ホテルも次々と建て替えを完了しています。帝国ホテルのお客様は比較的年齢層が高いので、次の世代のファンづくりをしていかなければならなりません。サービスアパートメントとしての提供、外販の強化、40代の若き料理長の抜擢などの施策を打ち出し、建て替え後の未来に向けた施策の実践と研究も行っています。帝国ホテルの伝統は常に革新と共にあります。その思いを社内で共有しながら、お客様にも発信していきます。

―日本能率協会に対する期待をお聞かせください。

日本能率協会の掲げる「企業、団体等の経営革新を図り、もっと我が国の経済の発展、国民生活の向上及び国際社会のへの貢献に寄与する」という目的に大いに共感しています。帝国ホテルの企業理念「最も優れたサービスと商品を提供することにより、国際社会の発展と人々の豊かでゆとりある生活と文化の向上に貢献する」とも根底で通じていると思います。

日本は今後、官民がしっかりと連携し、観光業の発信と取り組みを強化できれば、世界経済フォーラムの「2021年旅行・観光開発指数レポート」で得た1位の評価を維持できると思います。日本能率協会の活動においても、展示会やイベントを通じて社会への情報発信が活発に行われることで、より多くのステークホルダーの方々に観光業の持つエネルギーを感じていただき、結果として日本の観光業を盛り上げていく仲間が増えていくことに期待しています。また、協会の活動に参画する異なる業界の方々との交流を深め、観光業への助言をいただくとともに、観光業からも貢献を行い、業界を超えた連携を図っていければと思います。