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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

INTERVIEW
マーケティング部門評議員会 議長
日本情報通信
株式会社

代表取締役社長執行役員
桜井 伝治

2011年、NTTコミュニケーションズ OCNサービス部長としてコンシューマ向け事業を担当。2014年、取締役 第四営業本部長。2018年、常務取締役として大口法人の営業を担当。2020年より現職。

渡邉 健二氏

マーケティングは情報を読み取る力が重要
また、異業種の方との議論で多角的に課題を捉えるきっかけに

―評議員会ではどのような活動をしているのでしょうか。

マーケティング部門評議員会は、昨年は二つの分科会がありました。一昨年は、それぞれの分科会で、DXがマーケティングに与える影響の議論、シナリオプランニング手法に基づいたコロナ禍や米中対立が及ぼすマクロ的な影響の分析に取り組み、その成果を互いに共有しました。昨年は、シナリオプランニングによる分析を継続する一方、新たに「食と地方創生」をテーマに検討を行いました。これは、マーケッターは自社の製品やサービスをプロモートしていくだけでなく、マーケティングの力やマーケティング的発想・手法をもっと社会課題の解決に役立てられるのではないかという話し合いから生まれたテーマです。議論の中で評議員のみなさんから多様な意見が提示され、その内容はFOODEX JAPAN 2022のステージセミナーで発表させていただきました。

―経営機能(部門・地域)に共通する課題を異業種企業で議論する意義をどのようにお考えでしょうか。

例えば、食と地方創生の議論をもし食品業界の方だけで行っていたら、とても詳細な話ができる反面、業界の常識に縛られた議論にとどまってしまっていたかもしれません。IT業界や部品メーカーなど、異業種のメンバーが参加していたからこそ、多角的に食を見つめ、業種の違いを超えてさまざまなアイデアを出すことができたと感じています。業種や専門性の異なる方からの意見はとても重要であり、それぞれが持つ経験や知見を共有することで、マーケティングの課題解決につなげることもできるはずです。評議員会のような役員クラスの方が集まる場では、そうした横断的な知見の共有が非常に役に立つと考えています。

―一昨年の分科会で検討されたDXとマーケティングの関係性については、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

デジタルの活用やDXとマーケティングは、特に深い関係にあると思っています。そもそもマーケティングとはお客様を知ることであり、そのためには多様なデータを集める必要があります。かつてはそのデータ収集に膨大なコストがかかっていましたが、クラウドサービスやさまざまなデバイス、4Gや5Gのネットワークの発展によって、現在はより楽にデータを集めることが可能になりました。

しかし、本当に重要なのはさらにその「先」です。マーケット、技術、人の好みがめまぐるしく変化する時代にあって、集めたデータからどうやって意味のある情報を引き出し、判断し、アクションに繋げていくか。まさにOODAループの流れをDXを活用してどうつくっていくかが、今後の課題だと考えています。そのためには、新しいテクノロジーに対応したリスキリング(職業能力の再開発、再教育)も重要になってくるでしょう。

これまでマーケティングは、感覚や経験、共感力を土台に、自分が想定するお客様にどう喜んでもらえるのかを考えてきました。一方で、簡単に大量のデータを集めることができる時代のマーケティングでは、便利なツールに振り回されないことも大切です。例えば、AIは大量のデータを分析して傾向を出すことはできますが、多くの場合、結果に対して「なぜそうなるのか」を説明することができません。その結果をマーケティングに生かすには、AIが提示した結果を人の本質や欲求に立ち返って考え、「なぜか」を説明できる能力が求められます。もちろん自分で一からシステムを構築できるほどの知識は必要ありませんが、AIやデジタルは何が得意で、何が苦手なのかといったレベルの勉強はしておくべきでしょう。また、データを正しく活用するためには、統計学の知識も求められます。従来のマーケティング理論が大切であることに変わりはありませんが、デジタル、統計、データサイエンスはその理論を補完し、活用するツールとして有用です。それらを正しく使いこなす知識と深い人間理解が、これからのマーケッターの基本的スキルになっていくと考えています。

―評議員会を通じて今後取り上げたいテーマを教えてください。

昨年の分科会で検討した食と地方創生に関しては、引き続き取り組んでいく予定です。FOODEX JAPANとも連携を図りながら、いかにしてマーケティングやデジタル活用の観点から食を通じて社会課題を解決していくことができるか、さらに踏み込んだ議論を行いたいと考えています。

―日本能率協会に対する期待をお聞かせください。

弊社では、今まさに社内のIT人材のリスキリングに取り組んでいます。ITの技術はすぐに陳腐化してしまうため、新しい技術に対応できるよう常に学び続けなければなりません。個々人が自主的に学ぶことが理想ではありますが、どうしても仕事に追われて勉強が後回しになる傾向が強いように思います。そこで、会社として時間を確保して導いていくことも大切だと考え、社内で独自に勉強すべき技術やカリキュラムを検討し、14分野ほどで目標とする資格を設定 して取得を目指す取り組みを始めています。

私たちは自前で必要なカリキュラムを作りましたが、教育研究を活動の柱の一つとする日本能率協会でもそうしたカリキュラムを構築し、目指すべきレベルや、そのために必要な学習内容を提示できるといいのではないでしょうか。特に高度デジタル人材のリスキリングは、国も助成金制度を設けて支援しているところですから、ぜひそれを推進する役割を担っていただきたいですね。

また、リスキリングには、知識や能力を身につけても、学んだことを実践する場が少ないという課題があります。実践の場として、社会人向けのインターンシップ、社内プロジェクトへの参画、社外のプロジェクトへの出向など、実践を通じて疑似体験できる機会を提供していただけるとよいかと思います。

―たとえば今のお話にあった実践の場をメタバース空間で提供するなど、私たちも新しいテクノロジーにキャッチアップしていく必要があると感じました。

弊社は現在リモートワークが8割で、社内にはメタバース空間で行っている会議もあります。一般的なビデオ会議とは違ってアバターから声がしますし、そちらを向くと私のアバターと発言者のアバターの目が合い、うなずきながら話を聞いている様子も分かります。そうなると半分ぐらいは「リアル」と変わらない感覚になります。おそらく今後数年の間でさらにVRの技術が進化して現実感も高まるでしょうから、いろいろな可能性が考えられると思います。

リモートワークでいえば、コロナ禍を機に、事業所から離れた場所でも仕事ができる“どこでもOffice”制度も設けました。短期間だけ実家や旅先から勤務できるプランと、移住した先で勤務を続けられるプランがあり、すでに10人ほどが移住先の地方から勤務を始めています。こうした働き方が広がれば、人口減少など地方が抱える課題の解決にもつながるかもしれません。

今リモートワークに使っているツールは、ここ数年で進化したものですから、5年後、10年後にはもっとリモートワークがしやすくなっているはずです。リモートワークで煮詰まってしまったらオフィスに来て誰かと話したり、子育て世代がリモートワークをうまく使って子どもと関わる時間を増やしたり、家庭や本人の考え方によってリアルとバーチャルを使い分け、その人がその人らしく、最もパフォーマンスを発揮できる働き方を選べる仕組みづくりが大切ではないでしょうか。