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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

INTERVIEW
理事
コマツ
取締役会長
大橋 徹二

1977年、コマツ入社。真岡工場長、コマツアメリカ社長、生産本部長等を歴任。2009年、取締役就任。2013年、代表取締役社長(兼)CEO。2019年、代表取締役会長。2022年より現職。

大橋 徹二 氏

具体的な指針と価値観の共有が
組織を強くし、事業のスピードを加速する

―これまでご担当されてきたお役割やご経験についてお聞かせください。

コマツには1977年に入社し、主に生産畑を歩んできました。建設機械は自動車とは違い多種少量生産ですが、入社以来、グローバル化や生産の現地化、独自の生産システム構築などによる効率化などに取り組んできました。

1979年に日本能率協会の生産分野の事例大会が大阪で開かれ、私が勤務していた粟津工場(石川県小松市)の管理室長の発表に同行したことがあります。仕掛りやリードタイム、在庫などをいかに評価し、無駄を減らすかなど、工場のストックフロー活動についての発表でした。私は発表の原稿づくりを担当したのですが、まだ経験が浅かったので相当鍛えられました。日本能率協会の活動内容を知るきっかけにもなりました。

その後、もっと技術を極めたいと思い、スタンフォード大学に留学しました。専門は数理工学(応用数学)で、OR(Operations Research)やIE(Industrial Engineering)を学びました。当時、工場の自動化や最適化のコンセプトが出てきており、スタンフォードで学んだことを研究に応用したいと考えていました。

1984年に帰国しましたが、当時はコマツがグローバル化を進めている時期だったので、すぐに欧州へ飛び、足かけ10年ほど現地で生産拠点の立ち上げから安定化まで担当しました。

欧州から日本に戻り、工場の管理職を務めながら、生産現場の具体的な課題と一つひとつ向き合ってきました。コンピュータ統合生産(CIM)やフレキシブル生産システム(FMS)といった自動化システムを導入し、多種少量である建機生産のボトルネックを見極めながら全体の最適化を図ってきました。

生産工程におけるそれぞれの工程や工程間の微妙なバランスを自動化・最適化しながらコントロールすることで、そこで働く人々の安全性が向上することも実感しました。第二次大戦後、工場での労働安全規制は厳しくなり、労働災害はかなり減っていましたが、それでも労働災害はなくなりません。工場の自動化が加速され、工程の流れをスムーズにする搬送装置が導入されると、機械のそばで働く必要がなくなり、労働災害は大幅に減少しました。それでも段取り作業や機械保全の際の労働災害はまだ残っていましたが、全体としては製造業の事故は減ってきました。

このように製造業では自動化の普及により労働災害は減っていきましたが、建設現場では今でも動いている機械の周りでの作業が多くあり、安全性の面でも生産性の面でも課題があります。そのような気づきが、現在進めている建設現場の無人化や機械の遠隔操作につながっています。

―お客様との関係において心掛けていたことをお聞かせください。

私は2001年から2年間、栃木県の真岡工場で工場長をしていました。コマツのなかでも大型の建設・鉱山機械を生産する工場です。お客様の機械の使い方などを理解するために、国内外の現場にも赴き、課題を見つけて、開発や生産に結びつける経験をしました。

その後、米国に赴任し、2004年からはコマツアメリカの社長を担いました。主要なお客様として鉱山ビジネスの企業がありますが、採掘現場ではお客様自身が課題を理解していないこともあります。我々が製造現場で実践している総合品質管理(TQM)を応用して、鉱山の現場を見える化し、数値化して、解析を進め、工程を大幅に改善したところ非常に喜んでいただき、「もうちょっと一緒にやらないか」と仕事がつながりました。

その後は、「継続的改善」の契約を結び、現場の課題を一緒に改善していきました。改善の内容は、コマツとお客様企業の両方の経営トップに報告し、その重要性を共有しました。

率先して改善に取り組むリード・カスタマーは、自社や社員の成長だけでなく、業界や社会の成長を目指しています。そういった企業とお互いのメリットを高めながら、徹底的に改善を積み重ねてきました。そこで生まれた製品やサービス、ソリューションを他社にも広げていき、今まではコマツを単なる機械メーカーとしてしか見ていなかった企業からも改善を要望されるようになったのです。コマツでは、その取り組みを「ブランドマネジメント」活動として推進し、今も継続しています。

また、当社ではお客様の企業とは階層ごとに課題と対策を共有し、そのつながりを上位階層までエレベートしてフォローアップしています。現場の担当者同士は日々、マネージャークラスは週単位で、エリアマネージャークラスは月単位で発生した問題や課題とその対策内容を確認し、半年に1回は本部長クラスの会合を持ちます。そして、社長クラスは1年に1回、必ず会います。組織と組織のビジネスですから、責任の押し付け合いのような状態になることもあります。そんなとき、社長クラスが定期的に会って、フェアに話ができていると両社の部下たちも合理的にビジネスを進められます。私も社長時代は毎年、世界中のお客様企業のトップに必ず会いに行きました。

―経営者として大切にしていることをお聞かせください。

まず、経営者は先を見なくてはなりません。しかし、山登りに例えるならば、「あの山に登ろう!」は誰でも言えます。リーダーの役割は具体的にどのルートを選択し、どのような準備をするかです。今、カーボンニュートラルをはじめとする社会課題の解決が重要視されていますが、経営者は具体的な道を示さなければなりません。自身が詳細に勉強し、皆で方向を確認し、確信したゴールを社員に示して、皆が腹落ちして同じ方向を目指せるよう気運を高めていくことが重要です。

社会課題についても、当社が全てを解決することなど無理です。お客様の現場の課題でさえ、解決できるのはごく一部です。でも、ごく一部でよいから、お客様と一緒に議論し、取り組むことが大切です。結果としてお客様との強い関係性が育まれ、お客様から見てコマツがなくてはならない存在となり、お互い永続的な発展につながっていくと思います。

課題解決に向けてかつてない新規のコンセプトを進める場合には、プロジェクトが目指す方向を社員が理解・共有するためにモーション・ピクチャー(動画)の制作が有効です。文章や絵での説明では関わる人々を動かせません。内容を掘り下げた文章を書いたところで全員が読み込めるわけではないし、絵だと人それぞれ解釈が異なります。コンセプトを動画映像として視覚化することでイメージが具体的になり理解度も高まります。社員のワクワク感も高まり、仕事にも熱が入ります。

このように社員が同じ方向を目指していくには基本的な価値観の共有が大切です。当社には、価値観を行動様式としてまとめた「コマツウェイ」があり、明文化したものをグローバルで全社員が共有しています。具体的な方法としては、総合品質管理とブランドマネジメント、さらには品質工学によって、社員の動作に関する標準化がある程度できており、これが価値観の共有につながっています。

私は工場長時代から「SLQDC」というキーワードを言い続けてきました。これは、ものごとを考えたり意思決定する際に優先するべき順序を示しており、コマツウェイにも取り入れています。
Sは“Safety and Health”。一番大切なのは安全と健康です。自分自身や同僚、お客様、サプライヤーなど関わるすべての人々の安全と健康を最優先する。生命に対するコミットメント(責任)です。
L は“Law(法律)”です。 “Regulation(規制)”や “Rule(規則)”だけでなく、“Environment(環境)”も含みます。社会やコミュニティに対するコミットメントです。
Qは“Quality”、品質ですが、これは製品・サービスだけにとどまらず、組織や社員の品質と信頼性も含みます。お客様に対するコミットメントです。
Dは“Delivery、直訳だと「納期」となりますが、「タイミング」です。いくら完璧な製品を開発しても、お客様のニーズから1年遅れで届けたら意味がありません。
Cは “Cost(費用)”です。“Profit(利益)”という考えもありますが、我々自身でコントロールできるということで、コストとしています。

工場勤務だったころ、ある上司は「品質第一だ!」と言うが、次の上司は違うことを言う。人が代わってもぶれないことが大事と考え、自分たちが優先すべき順番を整理して「SLQDC」を提唱しました。この順序によって、社員や社会、お客様への責任を優先することを明確にすることができました。

企業経営は人がすべてです。社員が価値観を共有したうえで、経営者の指針とビジョンを視覚化したモーション・ピクチャーを共有しながら同じ目標を目指すことができれば、組織として強くなり、事業を推進するスピードが格段に早くなると思います。

―日本能率協会に対する期待をお聞かせください。

「教育・研修」「専門展示会」「審査・認証」の3事業があり、それぞれが重要です。

私自身、1979年に日本能率協会が開催した生産分野の事例大会で他社の取り組みを知る機会があり、生産に関する課題を共有することができました。自社の取り組みが他社と比べてどうなのか進捗状況が分かり、とてもよい学びになりました。

今、企業はデジタル・トランスフォーメーション(DX)や、カーボンニュートラル達成を目指すためのグリーントランスフォーメンション(GX)、働き方改革など、やるべきことが山積みであり、なおかつ正解はひとつではありません。他の企業の取り組みを共有できる機会づくりは非常に重要です。時代の変革期ですから、ぜひ、教育・研修事業では、幅広いテーマを取り上げてほしいです。企業事例は他の企業にとって参考になると思います。

そして展示会は「国力」を示す場だと感じています。日本能率協会ではアジア最大規模の展示会を開催しています。私が会長を務めるJILS(公益社団法人日本ロジスティックスシステム協会)と日本能率協会が共催する「国際物流総合展」も規模が大きい展示会です。ぜひ、アジア全域から日本の展示会を訪れてもらいたいと考えています。展示会への訪日外国人が増えて、MICE(ビジネスイベント)が盛り上がり、観光や留学も活性化していくことに期待しています。