Japan Home Show & Building Show 2024
会期
2024.11.2011.2210:00-17:00
会場

東京ビッグサイト東展示棟ACCESS

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インタビュー商業空間・オフィスの
未来を考える展示会

>城ヶ野 修啓氏 x 山本 想太郎 氏

「『ボーダーレス』な空間を生み出すために」

ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター ブランドインキュベーショングループ
城ヶ野 修啓 氏(左) 

山本想太郎設計アトリエ
建築家・一級建築士
山本 想太郎 氏(右)

城ヶ野 修啓 氏ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター ブランドインキュベーショングループ

Ginza Sony Park プロジェクトは、ソニーの新しいブランドコミュニケーションの場をつくること、人々にリアルな体験を感じてもらえること、銀座をより心地よい街にすること、この三つを実現することを目指した、ソニービルをリニューアルするプロジェクトです。現在は、2024 年完成を目指し新たなGinza Sony Parkを建設している最中です。
このプロジェクトに関わっている城ヶ野 修啓さんに、「未来の商業空間・オフィス」というテーマでお話を伺いました。城ヶ野様には「店舗・オフィスの未来を考えるワーキンググループ」にご参加いただいています。
聞き手は、ワーキンググループの座長である山本様に務めていただきました。

城ヶ野 修啓氏
INTERVIEW

ソニーが「空間」をデザインする理由

山本:「ソニー」と言えば、誰もが製品・プロダクトを思い浮かべると思いますが、なぜGinza Sony Park を作ったのでしょうか?

城ヶ野:ソニーグループの経営方針に「人に近づく」があるのですけれども、ソニーの事業に共通することは、「好奇心」だと私は思っています。創業者の井深 大や盛田 昭夫は、「人を喜ばせたい」「生活を楽しくしたい」という純粋な思いを持っていたと思います。私たちがGinza Sony Park という「場」を作ったのは、特別なことではなく、新たな「ソニーの楽しさ」を提供したいという思いからでした。

山本:GinzaSony Park は「建物」でもあり、「公園」でもあり、「通り」でもあるような気がしますが?

城ヶ野:そうですね。私たちもそのような自由度が高い空間になるように考えて設計しました。
それは、数寄屋橋のあの立地が高いポテンシャルを持った都市のジャンクションであったことにも理由があります。地上は三方通りに開かれた空間で、地下2階は地下鉄コンコースに面しています。そして、地下3階は、西銀座駐車場に接続しており、様々な場所から入ることができます。そのような都市機能と関係がある動線の空間で「どのようなことができると面白くなるか」ということをまず考えました。

「面白がる」という
ソニーのDNA

山本:今回、このワーキンググループにご参加いただいているのは、これからは空間をデザインし、ブランディングしなければいけないということを、みんなが考えていかなければいけないと思ったからです。その部分を考えないで、未来のオフィスや商業空間を作ることはできないと思います。Ginza Sony Park は、どのようなことを考え、デザインされたのでしょうか?

城ヶ野:これはソニーのDNA だと思いますが、一番最初にあったのは、「人のやらないことをやる」ということでした。プロジェクト当初、東京では2020年に向けスクラップアンドビルドが進んでいました。議論の中で普通に建てたのでは他の都市開発と変わらない。周りが「建てる」なら「建てない」というはどうかというアイデアが出てきて、それは「面白い」とチーム内で合意しました。
そこから、「どういうことをしたら来園される方が面白がってくれるだろうか」を考え、議論を深めていきました。全体を俯瞰して考えつつも、「こういうことやったら、面白いよね?」と自分たちも楽しみながら、実験的に進めていきました。
メンバーは社内だけではなくて、社外のメンバーもおり、雰囲気としては、雑誌の編集会議のようなものでした。「こういう人を呼んだら、面白いのではないか?」「こういう企画をやった方がいいのではないか」という感じですね。

山本:Ginza Sony Park は端的に言うと、パブリックスペースですよね?新しいタイプの空間だと思うのですが、民間企業の運営とはいえ、「パブリック」ということが、原動力になっているのではないでしょうか?
これまでは、商業施設とパブリックの間には、境界線があったと思います。Ginza Sony Park はそれに対する新たな問いかけだったと思うのです。おそらく「プライベートな空間では、もう新たな価値を構築できない」という時代ではないのでしょうか?そう意味で、今の時代を象徴していると思います。

インタビュー風景

城ヶ野:Ginza Sony Park が普通の建築と違うのは、建築デザインのバイネーム(個人名)が薄いということです。
普通であれば、「ファサード(建築物正面部のデザイン)は、建築家の○○さんにお願いしました」「インテリアデザインは、この会社にお願いしました」というようなバイネームを強調しますが、そのようにしていません。
もともと公園は、周りの景色と一体になることで、公園の景観を構成していますよね? 日本には借景(庭園の構成に背景景観を取り入れること)という技法が昔からありますが、それと同じです。周りのビルや装飾といった環境をそのまま生かすように考えました。そのような点が、さらに「パブリック性」を強調しているのかもしれません。

山本:建築の材料や仕上げはどのように選定されたのでしょうか?

城ヶ野:建築家の方や施工業者の方もチームに入っていただき、ご提案をいただきました。提案を踏まえて、決めたわけですが、そこでも、できるだけ余計なものを加えないようにしました。「今年の流行はこうだから」というトレンドは考慮していません。

山本:具体的に、教えていただけますか?

城ヶ野:例えば、床材ですね。基本的には、床材を新規には貼っていません。天井も、一部は仕上げていますが、それ以外のところは手を加えていません。
Ginza Sony Park は期間限定と決まっていましたので、余計な加飾はしませんでした。
なるべくピュアなマテリアルの状態を維持して使う、人の営みのベースを下支えするような最低限のことだけを提供するように解体をデザインする手法をとりました。

あえて「未完成」
のままにする

インタビュー風景

城ヶ野:企業は営みを作るのが目的ですし、その営みをどのように続けていくかを考えます。なのでソニーという企業が主体であるGinza SonyPark は、単なる建築でもなく、単なるパブリックスペースでもありません。現在、新たなGinza Sony Park の建設を進めていますが、ビルが完成しても、それで完成ではなく、営みを続けていくプロジェクトです。

山本:プロダクトデザインの世界ではパッケージ化させることが目的になります。近代的なものの作り方なわけですが、消費者には製品がどのように作られているか、その中身はわかりません。その仕組みがわからずに機能だけをメリットとして享受します。一方で、Ginza Sony Parkは自由な空間であり、その機能を理解することも容易です。自由度のある空間というのは、誰もが入りやすく、親切である動線の点でも言えるかと思います。

城ヶ野:そうですね、プロダクトの場合は、パッケージ化されているからこそ安心して使えます。逆に言うと、このプロダクトをさらによくするために自分が参画する余地はあまりないように思えます。
建築や空間の場合は、そこが違いますよね。自ら参加することができます。そういう意味では、Ginza SonyPark は「プラットフォーム」と言えるかもしれません。自由に加わる余白があります。一つだけ埋まっていないジグソーパズルを想像してみてください。完成されているものよりも、未完成で余白がある方が人は関与したくなります。
もちろん、パッケージングされた美しさもありますが、今は、体験する方法も多様になっています。五感を伴うリアルな体験の芳醇さは言わずもがなですが、現代ではさらに、実際の体験をネットワークに接続することができます。離れた場所でも体験の一部を享受することができます。
そして、空間には、多種多様な人が集まります。様々な人が集まれば、相互作用で、それ以上の結果を得ることができます。不確定要素を増やした方が良いアイデアが生まれやすいと思います。そのためにも、化学反応が起こるようなコミュニケーションの場を作ることが今は求められているのだと思います。

公園のように
出会いがあるオフィス

山本:このワーキンググループで議論を進めている「未来のオフィスや店舗のデザイン」は、どのようなものになると思いますか?

城ヶ野:現在、コロナ禍となり、状況が一変しました。以前はオフィスに集まっていたわけですが、半強制的に隔離が求められるようになりました。そのことで、メリットもあります。オンライン化によって、業務効率化が可能となりました。時間のフレキシビリティが増え、プライベートとの調整がしやすくなりました。
こういった点はメリットですが、逆に、偶発性が少なくなったのはデメリットです。予想外の人と出会うことが少なくなりました。自分が想定していない、全く新しいことに巡り合う場や機会が求められているように思います。

山本:その場合のオフィスデザインはどのようなものなのでしょうか?

城ヶ野:人が自然と集まりたくなるような場所が求められると思います。例えば、カフェと契約して、その一角にオフィスを構えるのはどうでしょうか?

山本:蔦屋書店のようなオフィスということですね。

城ヶ野:当然、働くことができますが、様々な人と交流することもできる。
テレワークが長期間続いていますが、オフィスで働く状況に戻る時がいずれ来ると思います。その時に、オフィスに戻りたくなる環境にすることが求められるでしょう。「これまでのような、無味乾燥なオフィスで良いのだろうか?」と考えると思うんですよね。そうではなくて、人が集まりやすい空間になっている方が良いのではないでしょうか? そのような偶発性を期待できるオフィスが理想的だと思います。

山本:重要なお話をありがとうございました。今後もワーキンググループでよろしくお願いします。

インタビュー風景
Ginza Sony Park東京都中央区銀座5丁目3番1号
※2024年まで一時閉園中