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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

成長領域へのシフトによる企業価値最大化と社会からの視点に応えるガバナンス改革

2023年2月17日、JMAトップマネジメント研修・新任執行役員セミナープログラム内/経営者講演より(役職講演当時)

多様性とテクノロジーからイノベーションを引き起こす

マネックスグループの創業は1999年4月です。インターネットを活用し、取引の手数料を抑え、一般の方々がしっかりとお金を増やして資産形成ができる「投資の民主化」を目指し、オンライン証券の事業を開始しました。社名のMONEXには、「MONEYのYを先に一歩進め、一足先の未来における人の活動」を実現する企業理念が込められています。

この理念に基づき、創業者である松本大(まつもとおおき)のもとで、国内証券会社のM&A、アメリカや香港のオンライン証券会社の買収によるグローバル化、暗号資産交換業への参入などにより事業を拡大してきました。

私は2013年からマネックスグループの執行役員となり、2019年にはマネックス証券の社長に、2022年にはマネックスグループの代表執行役Co-CEO兼CFOに就任しました。

マネックスグループの理念の根底にあるコアコンピタンスは「多様性の尊重」「テクノロジーの活用」「イノベーションの追求」「グローバルな展開」です。理念を達成するには、この4つが必要であり、これらがあるからこそ、未来の金融や自己実現を果たしていけるのだと考えています。

事業のセグメントとしては、日本、アメリカ、アジア・パシフィックにおけるオンライン証券やアセットマネジメント事業、投資事業、クリプト(暗号資産)があります。さらに、個人の自己実現や生涯のバランスシートの最良化を考え、教育やヘルスケアのビジネスもM&Aをしながら事業の幅を広げています。現在、グローバルでの従業員数は1,500人に上り、アメリカに最も多くの従業員がいます。

イノベーションの実現には新しいテクノロジーを活用して、一歩先の未来を創ることが必要です。金融の企業でありながら、社内に多くのエンジニアを擁して、オンライン証券や暗号資産の基幹システムを内製化しています。テクノロジーによって、お客様の声をサービスにつなげ、そしてイノベーションを起こしていこうとしています。

女性社員と女性管理職の比率が比較的高いのも弊社の特徴です。コアコンピタンスで「多様性の尊重」を掲げていますが、多様な考えがなければ、イノベーションという新しい価値は生まれません。性別だけでなく、年齢、国籍など、多様な方が活躍していける会社でありたいと思っています。

OECD加盟国で男女の賃金格差で日本はほぼ最下位であり、格差がかなりあります。弊社ではウェブサイトを通じて、男女のペイギャップを公開しています。多様性にとって大切なのは、数ではなく、質です。そこから目を背けずに、ペイギャップの改善に取り組んでいます。

このように、マネックスグループは理念とビジョンを持ち、それを実現するための戦略と戦術を考え、M&Aによって事業を拡大してきました。

会場風景
33歳で子会社の社長に。改革の実行により黒字化を達成

私がマネックスグループのM&Aアドバイザリー会社、マネックス・ハンブレクトに入社したのは2009年です。2001年に大学を卒業し、都市銀行に5年間勤務した後、プライベート・エクイティ・ファンドに参画したのが2006年。その後、リーマンショックが起き、ファンドを退職しました。転職市場には金融業界の人材が溢れ、就職活動に苦労するなか、採用してもらえたのが、マネックス・ハンブレクトだったのです。社員5人の小さな会社でした。

入社2年後の2011年、社長に任命されました。赤字続きで累積損失もありましたが、当時33歳と若かった私は「失敗してもなんとかなるだろう」と社長を引き受けました。オフィスを移転してコストを削減しつつ、会社の目的と営業の方法を明確に再定義し、報酬制度にインセンティブを導入しました。チームでゴールを共有し、成果を挙げることで、初年度で黒字化を達成し、2年目には過去の累積赤字をすべて解消できました。

2013年にはマネックスグループの執行役員に着任し、自社のM&Aを推進する部署の責任者となりました。私は、M&Aなど法人向けの金融サービスを提供する仕事をしてきましたが、マネックスグループの屋台骨である個人向けのオンライン証券サービスについては、業務の経験も事業の専門知識もありませんでした。とにかく、自分で情報を集めて、方針を決めて、意見を言い、人を巻き込みながら一緒に手を動かしました。今、振り返ると、一緒に手を動かしたことで、周囲に溶け込むことができ、ある一定の実力を認めてもらえたのだと思います。

今も大切にしていることですが、当時の私はいかに「自分ごと化にどうできるか」を心がけました。執行役員としてグループ全体の企業価値を向上するには何をすべきか? 自分で悶々と考えていても良いアイデアは浮かびません。いろいろな人に聞き、知識を吸収して、自分の意見として別の方に話して意見をもらう。それを繰り返し、執行役員として自分ができる範囲を広げてきました。

そして、持っている権限は使い切りました。とにかく自分で意思決定をスピーディーに行い、失敗したら戻る。経営陣には必ず報告をする。それを続けていたので、「清明に任せておけば、自分なりに考えて進んでいく。間違いが起きても報告してくる」という経営陣との信頼関係を育めたのだと思います。

2018年、暗号資産交換業のコインチェックを買収する話が来ました。弊社では暗号資産が次なる金融のパラダイムシフトの鍵となると考えており、コインチェックについても事前に調査を進めていたので、セキュリティやガバナンスなど買収におけるポイントを理解しており、すぐに改善提案を作成できました。

時間がまったくなかったので、M&Aのアドバイザリーでの経験を生かして、私自身で書類作成の大半を行いました。当然、取締役会の承認が必要なので臨時の取締役会を何度も開きました。社外取締役の方々が「挑戦して未来を開いていくのがマネックスだから、このM&Aは応援します」と協力的だったこともあり、2週間でスピーディーに意思決定し、コインチェックを買収することができました。

カリスマ創業者から脱却し、社員みんなの会社をつくる

2019年4月、マネックス証券の社長になりました。メディアでは「41歳女性社長」という部分が強調され、取材では「カリスマ創業者の後で大変でしょう」と聞かれました。しかし、創業者である松本大と私は、経験も、性格も、すべてが違います。絶対に同じようにはできません。松本を継がないのが私のやり方です。

社長に就任するとすぐに、「松本大のマネックスから、私たちのマネックスをつくっていきます」と外部に発信し始めました。グループの執行役員になったとき、私は周りを巻き込み、みなさんに教えてもらいながら、仕事の幅を広げてきました。だからこそ、「みんなの会社であるマネックスを自分たちでつくっていこう」と思えたのです。

マネックスグループに入社して14年。続けてこられたのは、この会社の理念やビジョンが好きだからです。「好き」が一番のエネルギーであり、だからこそ「自分ごと化」していろいろと考えられるのだと思います。そして、「成功への執着心」。ちょっと間違っていると思ったら、すぐに修正して、決して失敗では終わらせない。これらを大切にずっとやってきました。

2023年の6月には単独社長CEOに就任する予定です。今度はグローバルへの挑戦です。いくつになっても「はじめて」はあります。逃げずに挑戦し、常に未来志向で次世代づくりに努めていきたいと考えています。

私も、みなさまと同じく現在進行形で苦労しながら企業経営に取り組んでいます。「清明にもできるのだから、自分にもできる」と感じていただければと思います。