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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

新たな市場創造に必要な経営者の人間力と戦略的視点

2022年11月12日、JMAトップマネジメント研修・新任執行役員セミナープログラム内/経営者講演より

面白いものにはお蔵入りすることなく世に出てほしい

株式会社マクアケは、株式会社サイバーエージェントの社内ベンチャーとしてスタートし、2013年5月に創業しました。事業の柱はまず、新商品や新サービスを発売前に先行販売するマーケットプレイス「Makuake(マクアケ)」です。2つ目は、大手企業と新規事業をプロデュースする「MIS(マクアケ・インキュベーション・スタジオ)」。そして3つ目が、マクアケでデビューした新商品のみを扱うeコマースサイト「Makuake STORE(マクアケ・ストア)」です。

マクアケは中小企業から大企業まで幅広く活用されており、これまで提供開始された商品は2万8,000アイテムに上ります。また、マクアケのサイトは四半期で1,300万人ものユニークユーザーが訪れる大きなメディアになっています。

私は大学生時代から起業家に憧れ、サイバーエージェントに入社しました。クレジット会社のインターネット事業を担当するなかで、単に事業を興すだけでなく、世界の隅々まで価値を残したいという思いが募り、自分の思考を一新するために、ベトナムでのベンチャーキャピタル事業への異動を希望しました。

2010年から年間の半分をホーチミン市で過ごすようになりました。暮らしながら気づいたのは、大手量販店では韓国や中国の製品が売れ筋で、日本製品が隅に追いやられている事実でした。

当時、ベトナムの給与水準は月収数万円でしたが、1台14万円するiPhone4が年間200万台売れていました。消費者は、頭ひとつ突き抜ける商品を作れば、努力をしてでも買ってくれることに気づいたのです。でも、そういった魅力的な商品を作る環境が日本には乏しい。新たな技術、新たな発想の商品を企画しても在庫リスクによって、事業化が難しく、投資も受けられない状況にあると感じました。「面白いものがお蔵入りすることなく世に出てほしい」という思いが私のなかで強くなっていったのです。

時を同じくして、サイバーエージェントはクラウドファンディングの新規事業を決定しました。私は入社以来、新規事業をやりたいと言い続けてきましたから、「一度、やらせてみよう」となり、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング(現・株式会社マクアケ)の社長に抜擢されたのです。

利用者から教わったマクアケの役割

2013年5月の創業以来、私が経営者として取り組んできたことを6つのテーマでお話しします。

1つ目は、「新事業の市場フィットの模索」です。創業の3カ月後には「Makuake」のサイトを立ち上げました。爆速でリーンスタートし、見えるものを作ってから市場の反応を見るインターネット事業ならではの手法です。

当時の私はクラウドファンディングを具現化する伝道師のような気持ちで、「新商品を作るのにネット上で募金しませんか?」と営業トークをしていました。クラウドファンディングは東日本大震災と同じ時期に輸入された言葉なので、ネット上の募金というニュアンスが強かったからです。ただ、まったくマッチせず、400社ぐらいに営業しましたが、採用は10社ほどでした。

そんな状況のとき、Makuakeを採用した2社から同じ趣旨のことを言われたのです。

「Makuakeは資金調達じゃない。在庫を作る前に先行販売とマーケティングができて、先にお客様を抱えられる。これはメーカーにとってすごくよいこと。」

ベンチャーキャピタルを経てマクアケを始めた私は、資金調達がすべてを救うと思っていたので、「新しい商品にお客様がいると事前に分かることで事業を前に進めることができる」と知ったときは目から鱗が落ちる思いでした。それからは、「社長、新商品の在庫を作る前に先行販売しませんか?」という営業トークに変え、続々と使ってもらえるようになったのです。紆余曲折を経て、1年半をかけてマーケットフィットしました。

会社のビジョンを言語化し、徹底的に浸透させる

2つ目は、ビジョンづくりです。モノが流通する前に取引をする市場が非常に大きな規模であると気づいた私は、Makuakeのサービスを愚直に磨き上げていきました。しかし、社員が50人を超えた頃から、「会社の方向性が分からない」という声が聞こえるようになったのです。

いよいよ言語化した方がよいと思い、みんなでビジョンづくりを始めました。ビジョンは浸透させることが何よりも大事だと思いましたので、つくる前から浸透させるプロセスを描き始めました。

趣味嗜好が多様な社会になっていくなか、自分が使うもの、便利だと思うものを自分で決めていく社会。それを実現する経済システムを提供できる会社になるという思いをビジョンとして表現したい。外部のファシリテーターとのワークショップを経て、最終的には、私と役員、数名の社員によるプロジェクトチームで練り上げて、次の言葉がビジョンとして生まれました。

「生まれるものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」

ビジョンを浸透させるには、とにかく言い続けるしかありません。私は今も愚直に言い続けています。

会場風景
貢献できているという社員の「実感値」を高める

3つ目は、「人的資本戦略のコア」です。私は「シンプルな流れをつくる巨大なニワトリの卵のエンジン」が必要だと考えています。そのエンジンがあることで、自然にモチベーションが上がり、人が育ち、新規事業が生まれ、新たな人が入社してくる。そんな魔法のエンジンがつくれるといいと思いました。

そのためには会社独自のカルチャーの源泉を見つけて、徹底的に投資することが必要です。私たちは、Makuakeを活用する企業の新規事業が羽ばたいていて、そこに貢献できているという社員の「実感値」を高めることへ惜しみなく投資すると決めました。

実施しているのは、定期的に社員20人ほどを連れて実行者(Makuakeを活用する企業)の工場を訪ねることです。自分たちが関わって何か「アタラシイ」が生まれている現場に行き、作られている様子や喜ぶ方々を実感するのです。

また、作り手の話をリアルに聞きながら、新商品の製品やサービスを買えるイベントも実施しています。全社員に業務としての参加を呼びかけ、イベントに携わることで「自分たちが関わっているものを買ってくれているコンシューマーがいるんだな」と実感できます。

こういった実感値が高まると、例えばプロジェクトがうまくいかないときにも、「自分はこのままじゃ貢献しきれない、もっと腕を磨かなきゃ」とより一層思うようになり、実行者に対しても「消費者に貢献するために、もっと機能を高めましょう」と熱意を持って語れるのです。

外部からの投資を契機に “公の会社” へ

4つ目は、「資金との戦い」です。創業以来、3度にわたり資金ショートとなり、親会社のサイバーエージェントから追加投資を受けてきました。その理由は、私の性格がアグレッシブなゆえに事業計画で売上の伸びを大きく描きすぎて、実際には下回っていたことにあります。

4度目の資金ショートが起きそうになったときは、売上もかなり伸びてきており、あと数カ月でキャッシュフローが黒字化するという状況でした。がんばっていれば、よいことは起きます。当時、イタリアのACミランでプレーしていたサッカー選手の本田圭佑さんが出資を申し出てくれたのです。

本田さんからは「チャレンジャーを応援したい。『Makuake』は素晴らしい事業になる」と言っていただきました。本田さんからの出資資金がブリッジとなり、キャッシュフローが黒字化していきました。

本田さんからの投資をきっかけに、公の会社になるべきだと決意しました。サイバーエージェントに対しても上場路線でいきたいと直談判し、役員全員の転籍を申し出ました。任命権のある役員となり、株にも出資する。私はこの時に完全な起業家モードに変わりました。株式会社マクアケは2019年12月、東京証券取引所マザーズ市場へ上場しました。

コロナ禍で実感した会社の “自力値” を見極める大切さ

5つ目は、「風を読む」です。2020年に入り新型コロナウイルスの感染が拡大し始めました。しかし、この状況でも伸び代がある分野はどこなのかを徹底的にヒアリングをしました。

すると、燕三条のメーカーの方から「キッチン用品が爆発的に売れている。とにかく今、新商品を作りたい!」という声が得られました。コロナの巣篭もり需要でキッチン用品の需要が高まっていたのです。そこで私たちはコロナ禍でも伸びる業界に向けて営業に注力し、結果として2021年は大きく売上が伸びました。

私はさらなる成長を見込んだ2022年の事業計画を立てました。しかし、2021年はコロナの追い風があったことを忘れていたのです。一般的に可処分所得の半分が物品の購入、もう半分が外食や旅行に充てられます。つまり、コロナで外出制限があったときは、可処分所得のすべてを物品の購入に使えていたのです。もちろん、外食や旅行ができるようになれば、物品の購入は減ります。会社の自力値を見誤り、2022年9月期の最終損益予想は2度、下方修正をしました。

今は、とにかく地道に自力値を見定め、これからどのような風が吹くかを読み、手を打っていくことに注力しています。絶対に繰り返してはいけないと思える本当によい失敗経験だったと思います。

一方で株価の自力値は見誤りませんでした。時価総額が1,500億円に達した時点で、資金調達をしっかり行い、次の規模の成長に向けた新規事業への投資を積極的にしていきます。

一枚岩の経営チームが迫力ある行動を生む

最後は「経営チームの考え方」です。私が理想とする経営チームはメンバーの力が集まったとき、そこに隙間のない綺麗で迫力のある一枚岩になっている状態です。そこでのキーワードは「補完」です。

人それぞれ得意、不得意があります。不得意な部分をリスキリングしている時間はありません。得意な人が補完し、横軸連携を図り、継ぎ目のないチームワークを構築する。その連携がガチッとハマると、組織の行動に迫力が出てきます。とにかく、10倍速ぐらいのスピードで事業を進めていくには、迫力のある一枚岩の経営チームが必要です。

この10年間、ただひたすら全力疾走で経営に努めてきました。今日の話が何かみなさんのヒントになればうれしく思います。