JMA MANAGEMENT ロゴ

小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

意思決定に込める“思い”で人と事業を動かす

2022年10月14日、JMAトップマネジメント研修・新任執行役員セミナープログラム内/経営者講演より

自身の使命を果たすべく社長に就任

1990年5月に創業したブックオフは、立ち上げ早々は大きく成長し、1990年からの10年は全国に店舗を広げました。2000年からの成長期には、海外への店舗展開、秋葉原や新宿、池袋などで都市型大型店を出店、さらには本だけでなくあらゆる物を買い取る「ブックオフスーパーバザー」を立ち上げました。しかし、2010年代になるとネットの隆盛などにより、大変厳しい時代が待ち受けていました。

私自身の経歴としては、事業畑ではなく、経営企画やIT部門などコーポレート畑を歩んできました。2010年以降の変革期には経営企画の担当役員として、当時の社長とさまざまな企画を進めていました。

ブックオフグループは2012年3月期に過去最高の経常利益を出しましたが、その後は右肩下がりで業績が悪化。2016年3月期には経常利益がほぼゼロになり、最終赤字に転落。有利子負債も増え、自己資本比率も低下していきました。

私は、2期連続で赤字決算となった後、2017年4月に社長に就任しました。正直なところ経営企画の役員として業績不振の責任は私にもあると感じていました。しかし、社外取締役から「今の会社の状態はあなたが一番分かっているはずだから、あなたが社長をやりなさい」と指名されました。指名された以上、自分の使命を果たさなければと思い、お引き受けしました。

家賃の値下げ、店長との対話、そして中長期的な方針策定

私自身が財務に明るかったこともあり、経営を立て直すためにまず、店舗に負担のないコスト削減を行いました。最も大きかったのは店舗家賃の縮小です。私も含め社員が大家さんに頭を下げて家賃の引き下げをお願いしました。数多くの大家さんが、店舗の店長の働きをきちんと見てくださっていて減額に応じてくれました。私ではなく、店舗の現場がしっかり店舗運営をし、評価を積み上げてきた成果が表れたと思います。

私たちは地域でモノを買い取って、地域の方々に売っているのだから、地域ごとに営業施策をアレンジすべきですが、それができていませんでした。神奈川県相模原市の本社では福岡や札幌など地域の状況は分かるはずがありません。ですから、社長就任1年目に約150店舗を周り、店長たちと膝を付き合わせて、対話をしました。店舗にいきなり社長が来ると、店長は「なにかチェックしに来たのですよね」と身構えるものです。「自分たちの言うことはどれだけ聞いてくれるのだろう?」という雰囲気があった中で、とにかく店長との対話を重ねました。

そして2020年5月の創業30周年に向けて、中長期視点での方針策定にも着手しました。小売業は日々現場でお客様に向き合い、日々の売上に一喜一憂することもありどうしても視野が非常に狭くなってしまいます。私自身もやはり来月の売上や利益が気になります。とりわけ業績が厳しいときは、どんどん近視眼的になります。そして、「小さな良いこと」よりも、「小さな悪いこと」に目が行くのです。

中長期の方針では、「何をやるか」ではなく、「どう考えるか」に力点を置きました。どこに向かって、どう考えながらやっていくかの道筋を再セットアップしたのです。その道筋を踏まえて、一人ひとりの社員が自分の持ち場に対してどのような役割を担っているかを言葉で表現し、実践することをお願いしました。

会場風景
不採算事業の整理とともに組織の構造改革を実行

こういった動きをする中で、大きく三つの意思決定のポイントがありました。

まず、不採算事業の整理です。その代表例が百貨店の利用客層向けの買い取りサービス「ハグオール(hugall)」です。2010年代に入り主力のブックオフ事業が厳しくなる局面で、新たな未来を創るために立ち上がったビジネスです。短期間で事業規模を急拡大するために、千葉県の南船橋に8,000坪の物流センターを立ち上げました。百貨店の窓口や外商だけでなく、イベントや宅配、催事などで買い取りを行い、物流センターの効率を最大まで引き上げる計画でしたが、赤字は年々広がっていきました。

私は、固定費として重くのしかかっていた南船橋の物流センターを横浜市瀬谷区にあるブックオフオンラインの物流センターへ移転統合することを考えました。しかし、南船橋で働くパートやアルバイトは横浜には通えませんので、移転はすなわち働く場所が失われることを意味していました。

物流センターの移転は心の中で決めていたものの、ハグオール事業の当事者たちには納得して移転の判断を受け入れてもらいたかった。そこで、意思決定にあたっては半年判断を先延ばしにしました。その間は全力を出し切って事業の立て直しに挑戦してもらい、回復しなければ移転の意思決定をすると担当の執行役員と決めました。彼は私と同い年であり、盟友です。しかし、すぐに結果が出るものではなく、物流センターを移転する最終決断となりました。悔しくつらい思いではあったと思いますが、担当の執行役員そして現場の責任者は200名程度のパートやアルバイト全員との面談や移転統合の準備・実行に協力し、決定から短期間で移転を完了することができ、そこを起点に改善を進めて3年で黒字転換することができました。

二つ目の意思決定はマネジメントスタイルの変更です。本やソフトが以前ほど売れなくなる中で、店舗を運営する店長やスタッフの意識が低下し、売上が落ちていました。私は人の意識と事業の成功は相互作用するものだと考えていますが、まさにその状況でした。

これを変えるために本部主導での動きから、地域への権限移譲を進めました。全国を5つの支社に分割し、執行役員を配置しました。予算に関しても本社がすべて握るのではなく、一定金額を地域で差配できるように配分していきました。すると変化が起き始めました。例えば、神奈川県の茅ヶ崎駅北口店は、1階をすべてサーフボード専門の売場にするなどこれまでの考えに囚われない思い切った動きをしました。現場はそこまで振り切れる力を持っていたのです。やれない、と思っていたのは本社の人間でした。現場にはいろいろなヒントがあり、それを引き出せるかがポイントだったのです。

こういった取り組み全国各地で広がり地域に根ざした運営によって業績回復につながりました。結果国内のブックオフ事業は、2018年半ばから前年同月の売上を上回るようになり、売上と利益が回復軌道に入りました。

意思決定の三つ目のポイントは、グループ再編と持ち株会社化です。私たちのビジネスそのものが、各店舗での買い取りと販売のビジネスであり独立採算ですが、世の中が変化する中で例えば店舗とネット販売のように連携・協力の必要性が高まっていました。改めて自分たちの力を再結集するために、持ち株会社化によりグループ再編を機動的にできる形を整える。そこはトップダウンで進めました。3つの会社(ブックオフコーポレーション(株)、ブックオフオンライン(株)、(株)ハグオール)に分かれていたのを、ブックオフコーポレーション(株)にまとめて成果を上げやすい組織環境をつくることに合わせて将来の事業拡大の器としてグループの形を整えました。

現在、弊社グループの執行役員は12名です。国内ブックオフ事業の5つの地域支社トップと本社機能に5名、さらにプレミアムサービス事業と海外事業にそれぞれ1名の執行役員がいます。一方、取締役(社内3名、社外3名)はコーポレートガバナンス、コンプライアンス、リスクマネジメントなどを見守りつつ、成長戦略を後押ししていく立場として位置付けています。

リーダーの意思決定には社員の心を動かす“思い”が必要

意思決定をする上で、私が大切だと気づいたのは、まず、「スピード感と一体感」です。スピード感とは早くやることを意味するのではなく、時間軸を設定し、その時間内に収めるためにきっちりと前に進んでいくという意味です。そしてトップは情報をオープンにして、対話をしながら信頼を積み上げていく。その対話を通じて、必要な決定をしていくことを意識しました。やるべきことを決める上では、「それは正しい判断か?」にとらわれがちです。でも、正しいかどうかは分かりません。少なくとも今よりも少しでも良くなるように意識を向けて決めてきました。

非常に苦しい反省としては、私との距離の近い社員が辞めていったことです。社長に就任して、さまざまな取り組みによって業績が回復し始め、「さぁ、これから」というときに信頼していた力のある社員が去っていきました。リーダーは何のために意思決定をするのかを改めて考えさせられました。自分の意思決定には、そこに含めるべき何かが足らないと私は思いました。

私をブックオフに採用してくれた当時の社長から言われた「リーダーは、チームを勝利・成果に導く存在でなければならない」という言葉が心に残っています。チームを導くためにリーダーは意思決定をしますが、意思決定には「〜〜したい」「〜〜するべき」という2種類があります。どちらも、正解です。

創業者は「こういうことをしたい」「世の中をこう変えていきたい」という強い思いを持っています。一方で、経営企画の役員時代の私に多かったのは、「〜〜〜すべき」という発想でした。社長という立場になってもそのスタンスは変わらず「こういうジャッジがあるから、こういう意思決定をすべき」と考え、伝えていました。

「堀内さんは正しく伝えるのは、うまいね。でも、心が動かないんだよね」と言われたことがありました。とても耳が痛い言葉でした。

リーダーの意思決定には、「人が動く」という連動が必要です。必要なコミュニケーションを取り、関係性を構築しながら、リーダーが意思決定したときに、働く人々に仕事をやり切る原動力を生み出すことが大切なのです。

意思決定をする上で大切なことは、正解を見つけることではなく、いくつもの可能性の中で道を選択していくことです。その意思決定に、リーダーは一緒に働く仲間への思いをしっかりと乗せる。その思いを受けた仲間たちはワクワクして夢や情熱を持つことができる。それが「意思決定」という言葉には込められていることを社長となってからの6年間で学びました。

執行役員たちに「失敗には学びという対価 成功には報酬という対価」があることを伝えています。立場が上がるほど失敗が苦しくなり、責任として跳ね返ってきます。だからこそ、「言われたことをやる」のではなく、「これをやらせてほしい!」と言う執行役員であってほしいと思います。

若くてやんちゃな執行役員が多いので、どんどん新しいアイディアが生まれ勝手に進むところもありますが、一緒に働くグループの従業員が自信と情熱を持ち続けていけるようにグループとして執行役員を中心とした未来を創っていきたいと思います。