花王川崎工場は1962年に操業を開始し、衣料用洗剤、住居用洗剤、シャンプーなど、ご家庭でお使いいただく商品を中心に生産しています。社員数277人、敷地面積10万平方メートルと、規模はそれほど大きくありませんが、東日本、特に大消費地である首都圏への家庭品の供給拠点として効率性が求められる工場です。
今回GOOD FACTORY賞®をいただいた活動の背景には、近年の衣料用洗剤市場の大きな変化があります。
まず、2000年以降、粉末タイプから液体タイプへの移行が急速に進み、2011年には販売量が逆転。当工場では2017年に粉末タイプの生産を停止しました。さらに、詰替え用商品に対して複数回詰替え可能な大サイズのニーズが高まり、パッケージの大型化が進みました。こうした市場の変化に追随すべく、当工場ではラインの増設・増強を図りながら、プロセスイノベーションや品質保証活動に取り組み、省人化や生産効率の向上を達成してきました。その活動内容を4項目に分けてご紹介します。
省人化のためにまず行ったのが、充填包装機械への空パウチ供給の自動化です。本社技術開発部が開発した自動供給機を導入したのですが、目標の機械稼働率に達成していなかったので、工場内で設備改造やパラメータの調整を繰り返して安定した生産性を実現しました。さらに自律走行搬送ロボット(ARM)を導入し、材料の搬送でも自動化を図りました。
また、大型パウチの製品は、形状が一定ではない上、1~3㎏と重く、乱暴に扱うと傷が付いて液漏れを起こします。小型パウチ用自動箱詰め機で獲得した技術を応用し深化させることで自動化を達成しました。つかみ位置を3カ所から2カ所に変え、グリップの形状を工夫して最適化を図ることで、機械でもパウチを傷付けることなく高速で箱詰めすることが可能になりました。
これらの活動の結果、累計で200名の省人化を実現し、人を増やすことなくラインの増設に対応することができました。
2017年頃から、アルミ蒸着のパウチの増加に伴って、パウチ下部に穴が空き、液漏れする工場内品質以上が発生しました。アルミ蒸着のパウチは、角が擦れると摩擦で穴が空きやすいことが試験で確認できたことから、ラインの中でパウチが折れて角が擦れてしまう箇所を特定。角ができないように装置の位置をずらし、コンベアーベルトの材質を変えて摩擦抵抗を減らし、改善を図りました。
その結果2021年以降、穴あきや液漏れの工場内品質以上は起きていません。
花王では、全社のターゲットとして、温室効果ガス排出量を2030年までに55%(2017年比)削減するという目標を掲げています。液体洗剤への移行に関連する省エネ活動として、コジェネレーション設備の総合効率改善の事例を紹介します。
川崎工場の生産設備には、コジェネレーション設備による電気と蒸気が供給されています。コジェネ設備は、購入電力、小型貫流ボイラーなどと統合制御され、コジェネ設備を最適に動かすことで日々変化する蒸気のデマンドに対応していました。
しかし、蒸気を大量に使う粉末洗剤から液体洗剤へ生産が移行したことで、蒸気デマンドが減少し、電気と蒸気の総合効率が低下してしまうという課題が生じました。デマンドの変動にもコジェネ設備で追従しようとしたのですが、追従遅れによってガスタービン翼が焼損するというトラブルが発生。制御システムの見直し、メーカーと協働で定期点検や開放点検の範囲を拡大することで対策を講じ、一度は低下した総合効率を以前と同等の水準に戻すことができました。苦労して導入した統合制御から蒸気量固定制御に切り替えることになりましたが、既存のものに固執せず、変化への対応を優先するのが川崎工場の持ち味です。
この総合効率改善などの取り組みにより、2023年にはCO2排出量を2017年比で35%まで削減し、2030年の目標達成に向けて順調に歩を進めています。
川崎工場の取り組みを地域のみなさまにも知ってほしいという思いから、川崎市が実施する「かわさきSDGsゴールドパートナー」認証を取得し、SDGs活動を積極的にアピールしています。工場内の緑地保全、ビオトープの設置などの活動が認められ、2023年には川崎市のスマートライフスタイル大賞優秀賞を受賞しました。
また、コロナ禍による工場見学の受け入れ休止をきっかけに、見学コンセプトを見直し、これまで以上に幅広い層のみなさまと繋がることができるリモート工場見学をスタートさせました。従来から見学を受け入れていた小学生のほか、保育園・幼稚園の園児、介護施設の高齢者、院内学級や障がい児施設の子どもたちなど、直接工場に来られない方々にも見学の機会を提供し、社会との繋がりを広げています。
これまでお話ししてきたプロセスイノベーションや品質保証活動を支えているのは、①部門間コミュニケーション、②挑戦・成果を推進・称える仕組み、③品質異常を予防・再発防止する仕組み、の3つの仕組みです。
川崎工場は、ほかの工場に先駆けて新規技術の導入、新製品・改良品の生産などを行っているため、事業部、本社の技術・生産計画部門、研究所、品質保証部門など、関係部門と情報交換や議論する場が多くあります。研究所、技術、生産計画の出身者が工場に異動してくることもあり、わざわざ会議の場を設けなくても、他部門とは電話やチャットで気軽に相談できる関係です。分科会も積極的に行い、先ほど紹介した我々の省人化事例も、分科会を通して他工場に横展開されています。
優れた挑戦や成果に対する工場長表彰の制度を設け、全ての部署のGL、職制、工場長が審査、決定して表彰しています。また、工場独自の取り組みとして、小さな改善提案には1件当たり数百円を職場親睦会に振り込み、提案の中でも有効だと承認・評価されたものには、さらに表彰や報酬があります。また、100万円未満でできる提案は部長決裁ですぐに実行できる、提案者だけでなく改善を実施した人にも報酬がある、といった仕組みを設け、改善提案の活性化やスピーディな実現に努めています。
その結果、川崎工場では、委託会社を含め、年間1,500件程度の提案が行われ、1件1件の提案は小さくても、累積で大きな改善・効果に繋がっています。
よきモノづくりを支えるため、品質異常の「予防」と「再発防止」の仕組みを設けています。予防の仕組みの一つとして、工場の品質保証、技術、製造現場が一体となり、品質、防菌、防虫防鼠にもスポットを当てたパトロールを実施しています。さらに、新規設備の導入時は、安全検収だけでなく品質検収も行い、品質目線で設備の適正、改善点を確認しています。
また、再発予防の仕組みの一つに、現場ナレッジシステムの活用があります。これは花王の全工場に導入されているシステムで、品質のエラートラブルやお客様からの指摘の登録、品質保証グループの是正要求、担当部署による対策立案と有効性確認、という一連のフローを記録し、共有するものです。川崎工場では、最終段階に当たる担当部署の有効性確認の1カ月後、その活動が本当に定着しているかを品質保証グループが再確認するというステップを加え、再発防止の仕組みを強化しています。
はじめにもお話しした通り、川崎工場のミッションは、家庭品の東日本供給拠点、首都圏工場としての役割と責任を果たすことにあります。そのために、今後我々は、人生産性ダントツNo.1にこだわり、新規技術・システムの導入、DX、知恵を絞った改善提案に加えて、何でも言い合える心理的安全性も大切にしていきます。人生産性については、石けん・合成洗剤製造業の平均14.9倍に対し、川崎工場はその2倍の数字(20年実績)を出し、2027年には同業の3倍の数字という目標を十分達成できる見込みです。さらに、脱炭素・ごみゼロ実践の最先端工場、働きやすさと働きがいのある笑顔あふれるスマイル工場を目指していきたいと考えています。
さまざまなプロセスイノベーションが実現できたのは、研究所、本社の生産技術など他部門と密度の高いコミュニケーションで協業していること、それが可能な企業風土があることが大きな力になっていると思います。現地審査では、工場の皆さんが自社や製品のことが好きだという気持ちが伝わってきました。その「製品愛」と社内連携が相まって、良いプロセス、良い工場になっていったのではないでしょうか。