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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第13回】2025 GOOD FACTORY賞® 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(2) ファクトリーマネジメント賞
パナソニックホールディングス株式会社 杭州松下家用電器有限公司
Release May. 2025

2025 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]お客様視点のOPEX活動で安定した増収増益体質を構築
パナソニックホールディングス株式会社 杭州松下家用電器有限公司
顧問
中島 洋 氏

杭州松下家用電器有限公司(PAPWMHZ)は、年間400万台の生産能力を持つパナソニック最大の洗濯機の生産拠点です。パナソニックグループの8つの事業会社のうち、パナソニック株式会社傘下の中国・北東アジア社(CNA社)に属し、中国国営企業との合弁会社として1994年に設立されました。董事長、総経理、各部門長すべてに中国人を配置し、中国市場向け商品においては企画開発から販売まですべて自己完結で行う、中国現地人主体の「開・製・販」一体となった現地化経営を実践しています。

現地幹部主体で大胆な組織改革を断行

当社は創業以来、順調に事業拡大を続けてきましたが、2011年をピークに販売が低下。一方で固定費は年々上昇し、収益性も悪化していました。販売シェアでも現地メーカーや外資系ライバルの後塵を拝していたことから、2020年に大規模な構造改革を断行しました。

まず最初に取り組んだのは、一番の課題であった膨れ上がった固定費、重たい組織にメスを入れる組織改革です。中国・日本の限られた高級幹部で大きな方向性を決め、その後の改革断行は中国側に任せたことがこの改革の一つの特徴でした。総経理・副総経理の更迭、幹部の降格や退職要請、グループ会社への転籍など、大胆で厳しい改革をスピーディーに実現できたのは、日ごろから信頼関係を築いていた中国の合弁パートナーがいたからこそだったと思います。また、この厳しい改革を目の当たりにしたことで、従業員全員に経営の危機感が自分事として共有されました。実際には肥大した組織のスリム化を図り、25部門を15部門に、76の下部組織を42に削減。部門間の風通しが良くなり、決裁プロセスの迅速化、大幅な固定費の削減を図ることができました。

さらに構造改革を進めるために行ったのが、中国系競合他社のベンチマークによる自社課題の見える化です。販売規模がほぼ同じH社の工場と、SCM(サプライチェーンマネジメント)、人生産性、ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)の3項目を徹底的に比較した結果、いずれの分野でも当社が大きく後れを取っていることが改めて浮き彫りになりました。本日は、この結果を踏まえて取り組んだ経営改革について詳しく説明していきたいと思います。

SCM改革/工場合理化/ECM改革

まずSCM改革プロジェクトを設立し、製販、調達、製造、営業の4つのワーキンググループを発足して改善に取り組みました。「製販」では、3日前に3日間の生産を確定する「3-3サイクル」導入、「調達」ではJIT供給率と中国現調率アップ、「製造」では組立と連動したPSI計画することによる仕掛在庫削減、「営業」では前線在庫や流通在庫も考慮したISP管理の仕組み構築などに取り組み、製販サイクル短縮、在庫・調達リードタイム短縮、仕掛在庫の最少化、滞留在庫を含めた在庫削減などを実現しました。

また、工場合理化として、プリント基板工場の「黒灯工場」(無人化ライン)化、AGV搬送ロボット導入による成形部品搬送・保管の無人化を実施し、人員を大幅に削減しました。

ECM改革では、設計のモジュール化、設計・調達・製造のBOM管理の統一、CAE解析活用によって、開発リードタイムを25%短縮。その結果、開発機種数は4年間で約3倍に増え、他社に負けない商品ラインナップをそろえることができました。同時に、開発工数を要素技術にシフトできたことで、他社にはない業界初の商品を市場に投入することにも繋がりました。

市場投入した商品は、グッドデザイン賞やレッドドット賞など数多くの表彰を受賞し、中国のオンラインキャンペーンである「独身の日キャンペーン」では3週間で洗濯機・乾燥機のセット商品を約3万セットを売り上げる大ヒット商品が生まれました。

チャイナコストで他社に負けない原価力強化

原価力強化のために「チャイナコスト活動」を実施しました。この活動のポイントは、商品を徹底分析し、業界の標準設計や標準部品を積極的に使いこなし、他社に負けない原価力を目指すというものです。私たちは、部材を鉄板の「イタ」、樹脂の「コナ」レベルで分解して原価計算する「イタコナ活動」で他社製品を徹底的に分析してコストダウンを図り、2021年に市場投入したドラム式洗濯機は、他社に勝る直材費を実現しました。

コスト低減の具体例として、プリント基板ユニットの冷却ファン廃止、プリント基板のUVコーティング化、乾燥ファンユニットのモーターの一体化などが挙げられます。こうした事例は、イタコナ活動による比較分析により、実使用を想定すると過度な設計マージンであることに気づき、品質基準を見直すことで実現したものです。

また、チャイナコスト活動に合わせて、新規部品を中国で部品承認できる体制の構築にも取り組みました。日本の事業部と連携し、部品認証者のスキル基準を作成。中国で認証者を育成し、全部品100%中国承認を実現しました。Aランク部品は、日本で承認していた時期に比べ、認定までの時間を半減させることができました。

こうしたチャイナコストの取り組みは、ドラム式洗濯機からスタートし、その後すべての商品カテゴリーに展開しています。また、日本の事業部や海外の洗濯機生産拠点にも横展開しています。

業績ボーナスと連動した請負制

各部門に自主経営で責任感を持って目標達成を図ってもらうため、業績ボーナスと連動した「請負制」を導入しました。「請負制」とは、目標KPIを設定し、その目標以上の成果が出たら、成果の一部を業績ボーナスとして従業員に還元する制度です。日本ではまだあまり馴染みがありませんが、還元される額も大きく、中国に適した制度だと思います。

営業部門からスタートしたところ、モチベーションが上がって大きな成果に結びついたため、他部門にも取り組みを拡大しました。製造部門では、活動のグループリーダーを立候補制で決め、経営会議で進捗を報告してもらうことで、各リーダーの自主責任経営意識が向上するなど人材育成にも繋がりました。

取り組み定着化に向けた大部屋活動

パナソニックホールディングスでは、楠見雄規社長が自らトヨタ改善活動を学び、オペレーション活動(OPEX活動)の強化を国内外全拠点に発信しています。その社長方針を具体化したものが「大部屋活動」です。

大部屋活動は、目標達成のために組織をまたがる関係者が集まり、課題を見える化し、早いサイクルで改善するための仕組みです。具体的には、各工程の「小部屋」にWIPボードを設置し、その日発生した課題と対策を見える化した上で、現場レベルで解決できない課題を大部屋へ上申します。「大部屋」は週1回、各部門の責任者が集まり、その週の生産の進捗・ロスを共有し、上申された課題の方向性を決定します。この大部屋活動は国内外パナソニック全拠点で行われ、日々発生する課題を見える化し、スピード感を持って解決を図っています。

成果と今後の取り組み

これまで紹介してきた構造改革の取り組みは、確実に経営成果に結びついています。コロナ禍以降、中国市場が低迷する中、2023年の国内販売額は取り組み前の1.6倍で、過去最高の実績となりました。利益も2.4倍に伸び、4年連続の増収増益を達成しています。高騰する人件費の逆風においても、工場固定費は大きく良化。市場占有率でも外資系メーカーNo.1を獲得することができました。

そして何よりも、改革の取り組みが事業成長に繋がることで、従業員一人一人の経営に対する意識が高まったことが「数字に表せない成果」となっています。

パナソニックグループ全拠点で実施しているEOS(従業員意識調査)では、アンケートを元に従業員を「線引き社員」「あきらめ社員」「活躍社員」「イライラ社員」の4つに分類しています。2020年度と23年度のEOSの結果を比較すると、当社では「あきらめ社員」が半減し、活躍社員の割合が大きく伸びました。これは、さまざまな改革の結果、事業の成長と同時に、従業員のやりがいも向上したことを表しています。

改善前の当社を知っている幹部や日本事業部のメンバーからは「WMHZは大きく変わった」「従業員がチャレンジ精神旺盛で、明るく前向きになった」とよく言われます。経営改革の成果として、職場全体の風土が良くなり、活性化したことは、私たちの会社の大きな財産になっていると思います。

今後は、さらなる事業成長を目指し、洗濯ケア・ベランダ空間事業の拡大、パナソニック洗濯機乾燥機の専用剤ビジネスの展開、グローバル供給拡大の3つを新たな事業戦略に掲げ、さらに販売を伸ばしていこうと計画しています。現在、中国の洗濯機市場は、中国の大手メーカーが大きなシェアを占めていますが、彼らの動向を引き続きしっかり把握し、これまでの取り組みをさらに進化させていきたいと強く思っています。そして、お客様に喜ばれる商品を市場に投入し続けることで、中国最大手メーカーの牙城を崩し、シェアNo.1を目指して邁進していきたいと考えています。

コーディネーター総評

成功のポイントとして、中国の価値観で進められた組織のスリム化、イタコナ活動とベンチマークによる危機感の共有、大胆なエンジニアリングチェーン改革、積極的な先行投資と現地調達、人と組織のパフォーマンスを引き出すマネジメントの仕組みなどが挙げられます。

中国で勝負するため、現地のスタイルやスピード感を取り入れ、品質基準を大胆に転換したことも特徴的で、日本と中国の良いところ取りをした結果、数字はもちろん従業員の意識高揚という良い成果につながったと思います。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
取締役 シニアコンサルタント 石田 秀夫氏
GOOD FACTORY賞®を受賞して
外部からの評価が、従業員全体のさらなるモチベーションアップに!

パナソニックでは社内にも従業員のモチベーション向上として、ものづくり、商品開発、QCサークル活動などいろいろな表彰制度があるのですが、今回外部からの評価を聞きたくて応募しました。外部の方からみて、社内の人とは違う観点からいいところや悪いところを評価いただいたのはとてもいい経験でした。またこの評価が、従業員全体のさらなるモチベーションアップに繋がっていると思いますし、今後にもつなげていきたいと思っています。

海外工場における改善活動のポイントは、限られた6〜7人日本人スタッフで何か作るのではなく、私たちがいなくても維持継続できる仕組みづくりだと思っています。

受賞して終わりではなく、3年後、5年後の中長期目標を常に意識していて、従業員との目標共有が重要だと思っています。この講演では私たちと全く違うカテゴリーで、全く違う切り口で悩みごとを改善されている内容を拝聴できるのでとても楽しみです。