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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

【第12回】2024 GOOD FACTORY賞 受賞企業講演会〜優良工場の実践事例に学ぶ〜

受賞講演(5) ファクトリーマネジメント賞
株式会社リコー 環境事業開発センター
Release May. 2024

2024 GOOD FACTORY賞 表彰式イメージ
[講演内容]リユース・リサイクル機能と新造生産機能を備えた複合型工場の取り組み
株式会社リコー
環境事業開発センター リコーデジタルプロダクツBU OC事業本部 OCセンター兼グローバルRRセンター
所長 鳥山 幸弘氏

3K作業が残る再生品生産現場での働きやすさと安全性向上が課題

リコーは1936年に創業し、「“はたらく”に歓びを」を企業理念の使命と目指す姿に位置づけ、「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」の三愛精神のもと活動を行い、私たちの事業もこの精神が生きています。リコー環境事業開発センターは、1985年に弊社の御殿場工場として設立されました。一旦生産を終息した後、2016年に環境関連事業を創出する拠点として再出発しています。当センターは、使用済みの商品を再生する「リユース・リサイクルセンター」「環境技術の実証実験拠点」「環境活動の情報発信基地」の3つの機能を有し、本日は一つ目のリユース・リサイクルセンターの活動について紹介します。

弊社では、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減していく資源循環の考え方を「コメットサークル」と表現しています。使用済みの製品は、なるべく環境に負荷を掛けずに再び製品として送り出すことが重要で、それが難しければ、素材やエネルギーとして再資源化することになります。コメットサークルでは、環境負荷が抑えられる製品や部品としての再利用を目指しており、環境事業開発センターは、その実践を担っています。

リユース・リサイクルセンターでは、同じ工場内で、全て新品の部品を組み上げる「新造品」と、使用済み製品を原資として元の性能に再生した「再生品」を生産しています。新造品については、一部のデジタル複合機と交換部品を中心に多品種少量生産を行っています。

再生品の生産は、新造品の生産に比べて、より多くの手順が必要です。回収した使用済み製品は、再生可能かどうかの診断、分解、洗浄・清掃を経て再び製品となりますが、その過程ではまだ人に頼る作業が多く、粉塵や騒音を伴う“3K”の作業も残っています。また、1台1台状態が異なる使用済み製品を同じ品質に仕上げるという、再生品特有の難しさもあります。そのため、品質を担保しながら、いかに作業者の働きやすさ、安全性を向上させるかが当センターの大きな課題でした。

また、安全な環境を構築しても、従業員が手順やルールを守らなければ、安全は実現しません。危険な作業に対して自律的に改善できる人財も不可欠です。当センターでは、安全と品質、働きやすさ、そして人財育成を同軸で進める必要があると考え、さまざまな施策に取り組んできました。

危険感受性の高い人財を育成して災害防止

災害発生ゼロに向けた安全活動として、私たちは3つの柱を定めました。それが「多様化する雇用形態への対応」「作業における危険源の発掘・特定」「働きやすい職場の継続的強化」です。このうち、「多様化する雇用形態への対応」として、危険感受性の高い人財の育成に取り組みました。非正規を含めた全ての従業員を対象に、危険敢行性と危険感受性に関するアンケートを実施し、KKマッピングを用いて個々のタイプを把握。結果を1on1ミーティングで個別にフィードバックし、行動特性を生かした災害防止を実践しています。さらに、360度カメラで撮影した危険予知教材を月1回以上、全従業員に配信し、危険箇所の抽出を行っています。従業員から、運用側が意図していなかった危険箇所の指摘があるなど、改善に繋がる効果も生まれました。
また、「作業における危険源の発掘・特定」の活動として、手首に負担が掛かるゴムローラーの清掃作業を自動化するなど、デジタルマニュファクチャリング・自動化にも取り組んでいます。さらに、「働きやすい職場の継続的強化」のため、環境測定ツールを工場内の9カ所に設置して常時モニタリングを実施。温湿度、照度、粉塵量、熱中症警戒度などを測定し、その数値を従業員が支給されたスマホで24時間閲覧できるようにしました。測定値が閾値を超えた場合は、担当者にアラームで知らせ、すぐにアクションが起こせる状態にしています。こうした活動により、安全意識調査の結果が少しずつ上向いていますが、「ついやってしまう」という危険敢行性の数値がまだ高く、今後の課題と考えています。

若手メンバーのアイデアから生まれた働きがい向上活動

2020年から、工場で働く生産部門ならではの働き方改革、働きがいの向上のためのプロジェクトチームを作り、活動しています。生産現場特有の課題として、時間に縛られる、情報が伝わりにくい、コミュニケーション不足、自律的な取り組みの難しさなどが提起され、こうした課題に対して若手メンバーを中心に数多くのアイデアが生まれました。

アイデアを元に働きがいが改善された取り組みの一つは、「サンクスポイント」による繋がり強化です。働きがいの向上には“褒める文化”が大切だと言われており、社内ツールを使って従業員同士が小さなことでも感謝を伝えやすい仕組みをつくりました。私自身も、部下からのサンクスポイントを受けるとうれしく、今日もこの講演会に参加している弊社メンバーから「良い講演でした」とサンクスポイントをもらえるのではないかと期待しています。

もう一つ、若いメンバーのアイデアを元に実践しているのが、スキマ講座です。「ライン業務の工場は集合教育が困難」という課題に対し、短時間の動画を作って小刻みに提供し、都合のいい時間、好きな場所で学べる環境を整えています。自分のペースで繰り返し視聴し、理解しにくい箇所を学習できるメリットもあり、受講率は93%と高く、自律的に学ぶ文化が少しずつ醸成されているのを感じています。

職場の働きやすさを可視化し「働きにくい」がゼロに

また、業務に関する技術、技能、知識などに秀で、継続的に組織に貢献できている人財を「オンリーワン人財」に認定する活動も実践しています。これも非正規を含めた全従業員を対象とし、上長からではなくメンバーからの推薦で選考し、認定する仕組みをつくりました。オンリーワン人財は、技術や知識の伝承だけでなく、相談役として改善活動やコミュニケーションを活発化させ、現場力向上に貢献する役割を果たしています。

さらに、働きやすさの向上に向けて、作業者自身が職場の働きやすさを採点し、6段階評価で可視化する活動を実施しました。その結果を元に作業者と管理者が1on1で話し合い、改善に取り組んだ工程に、大型の集塵機を使うトナーの清掃作業があります。従来は騒音対策で耳栓を着けて作業していましたが、騒音を遮断しきれず、周囲の作業者との会話もできない状態でした。そこで、耳栓をノイズキャンセリングイヤホンに変更したところ、騒音だけをカットして、会話やアナウンスは聞こえるようになり、作業者からの評価が「非常に働きにくい」から「普通」に改善されました。同様の改善がさまざまな工程で行われた結果、工場全体で活動開始当初40%あった「非常に働きにくい」「働きにくい」工程を撲滅することができました。

人財育成の取り組みの結果、グループ全体で行っている意識調査においてエンゲージ率が2年連続で上昇しています。能力向上のためゼロから勉強してロボットを開発する従業員や、創意工夫によって社内外の表彰を受けている従業員の姿から、自律的にチャレンジする組織風土が定着しつつあるのを感じています。

リコーグループでは、ESG目標を5年後10年後の財務に繋がる「将来財務」と位置付けており、当センターも、自動化による高効率化の追求、リユース率の向上、事業性成長と社会貢献の両立を目指しています。リユース率の向上については、2030年までにグループ全体で製品の新規資源使用率60%以下を目標とし、新造品の小型軽量化と長期使用、我々が生産している再生品の提供、再生材料の採用を進めていきます。

これからも、当センターは、ESGと事業成長の同軸化に向けて、引き続き安全と人財をベースに、通常の組み立て工場にはないさまざまな創意工夫を行いチャレンジし続けます。