富士フイルムマニュファクチャリングは、富士フイルムビジネスイノベーションの国内生産拠点です。本社を含む海老名、鈴鹿、富山、そして竹松の4拠点で事業を運営し、富士フイルムブランドの複合機・プリンターと部品などを製造しています。神奈川県南足柄市にある竹松事業所は、周囲を閑静な住宅街と田園風景に囲まれ、私たち従業員はその美しい環境を守ることを最優先としています。製造高では4事業所中4番目の最も小さな事業所であり、複合機・プリンターの消耗品の生産を担っています。事業領域としては、感光体を生産するOPC生産領域、トナーやデベロッパーといった現像剤を生産するTNDV生産領域、マーキングユニット生産や消耗品リサイクルを行うMU生産領域の3つで構成されています。
私は2019年から竹松事業所長を務めていますが、元々はプラント建設のエンジニアで、開発、製造、富山事業所と複数の異動を経験してきました。自らの経験として、外の世界を見ることは重要で、得るものも大変大きいと感じています。竹松事業所でも、部長、次長クラスは全員、会社間移籍や拠点移動し、マネジメントの経験を積んでいます。
我々富士フイルムマニュファクチャリングが進める改善の源流にあるのは、IPW(Innovative Production Way)という考え方です。これは、サプライチェーン全体で「現場に立脚した付加価値を高める全ての活動」であり、「高いQCD」と継続的な社会への「環境対応」を両立させるモノ作りへの進化を目指す活動です。
IPWの活動は全事業所で実施され、毎月社長による確認会が開かれています。竹松事業所では期間契約社員を含め全員参加型で取り組み、良い改善事例を提案してくれた期間従業員にはIPW確認会に出席してもらい、経営層に顔と名前を知ってもらうチャンスにもなっています。社内には期間従業員から、準社員、社員へとステップアップする制度があり、竹松事業所では他事業所よりも多くの従業員が、この制度で社員になっています。
竹松事業所が好調だった2000年代、事業の第一線で働くメンバーは、日々明るく、元気に改善に取り組んでいました。しかし2010年以降、製造高が右肩下がりとなり、かつて強みだった「自由・自立」の精神が一転して弱みとなりました。各生産領域ごとの個別最適化や新しい考えへの拒否感を生み、いつしか「ムラ社会」と言われるまでになっていました。改善活動が停滞する中、従来のやり方では高機能に進化した感光体の改善ができなくなり、2013年にはOPCの廃棄ロスコストが年間3億円を超えるまでに膨らみました。
この状況を見かねた当時の経営トップ3(社長、会長、事業所長)は、生産設計力の進化・深化を掲げ、現場の直接指導というトップダウン型改善に乗り出しました。
我々が掲げる「生産設計力」とは、製品の機能を正しく理解し、開発・設計部門に対して製品仕様や加工方法を提言、具現化し、品質、コストを作り込む力です。トップダウンによる改善は、担当者の論理的展開力、マネジャーの指導力強化、経営判断のスピードアップという効果を生み、2年間の活動によってロスコストは4分の1まで減少しました。さらにこの間に活躍した主任や係長クラスが成長し、次々と竹松事業所から巣立っていきました。
2013年に始まったトップダウン型改善は、その後、事業所長、製造部長により継承され、私が竹松事業所長になった2019年の時点でも、生産量減少にもかかわらず生産性は向上していました。ところが2020年、コロナ禍により複合機用消耗品の需要は急減。従業員に閉塞感が漂う中、かつて改善リーダーとしてトップの直接指導を受け、竹松事業所から巣立っていったメンバーが、“武者修行”を終えて帰ってきたのです。
ミドルマネジメント層となった彼らは、中期計画によって従業員に向かうべき道を示すことを提案。さらに、業務の担保や会社存続ために「やらなければならないこと」だけでなく、安全や環境などみんなが「やりたいこと」も合わせて提案してもらい、2つを両立させる計画にする方向性も示しました。こうしたミドルマネジメントの思いが、現場のメンバーにも伝わり、従来の良い部分を残しつつ、改善スタイルはボトムアップ型に進化しました。
改善事例1:OPC生産領域
期間契約社員として入社したKさんは、OPC調液工程で、自ら率先して3K作業改善などに従事し、準社員に登用後は開発と協業で新工程の立ち上げにも携わりました。数年後に正社員となり、新たな液材料の導入に関わる中で、開発から提示された処方に課題を発見したKさんは、自ら分散の原理原則を習得し、装置の機能や役割を理解した上で仮説と検証を繰り返し、品質と生産性を両立する生産条件を確立しました。
この改善によるKさんの「個の成長」のポイントは、彼の好奇心を尊重してサポートした先輩や部長の言動にあると思います。また、開発担当との距離が近く、日常的に部門の壁を超えたコミュニケーションがあったこと、経営層に直接改善を披露できるIPW確認会の存在も大きかったと思います。
改善事例2:TNDV生産領域
ある工程では、中期計画に基づいて生産能力を向上させ、他拠点の生産を取り込む活動を行っていました。ただ、工程内には、重量物の運搬、現像剤の手計量など、昔ながらの3K作業が残っていました。そこで現場のメンバーは、生産性の改善という「やらなければならないこと」と、自分たちが安全で楽に作業をするという「やりたいこと」を両立させる活動を上長に提案。IPW活動を通じて見事両立を成し遂げ、長年続いてきた3K作業を一掃しました。
この成功の陰の立役者となったのが、Tチーム長です。全く違う工程から異動してきたTチーム長は、解決策は部下自身が持っているという信念のもと、部下との全員面談で本音を引き出しました。まさにボトムアップの好事例であり、業績の貢献だけでなく、働きやすい職場を自分たちで作り上げることができた事例です。また、異動した長が新しい職場で部下との信頼関係を築き、上司部下ともに成長できたという「組織の成長」の好事例にもなりました。
改善事例3:MU生産領域
コロナ禍の上海ロックダウンで部品在庫が逼迫した際、リサイクル事業を行うMU生産領域に、リサイクル部品の緊急供給要請がありました。当初は到底困難と考えられていましたが、関係部門や協力会社とのマイクロコミュニケーションにより、通常4カ月かかる生産準備を10日間でやり遂げ、お客さまへの供給を止めることなく完遂することができました。
それだけでも大きな成果ですが、ロックダウン解除後には、培ったリサイクル技術を武器に徹底したコストダウンや新規リサイクルパーツの拡充を行い、中国に勝るコストを実現。リサイクル部品生産の国内回帰を達成しました。
リサイクルチームには、期間契約から登用された女性社員で、ITを駆使した改善で彼女の右に出る者はいないと言われるMさん、聴覚障害があり入社以来一人で軽作業をしてきたものの、先輩に促されて改善活動に参加し、「協力会社の方々の作業を楽にしたい」とライン設計に携わるようになったHさんもいます。背景はさまざまですが、自分たちの力で「未来をつかむ」という熱い思いに満ちあふれた、頼もしいメンバーです。
改善事例4:製造技術グループ
竹松事業所には、長年積み上げてきた設備保全技術があり、故障強度率は業界トップレベルを誇ります。ただ、製造高減に伴い保全費比率は上昇しており、会社の負担が大きくなっていました。
そこで、製造技術のグループ長が中期計画で打ち出したのが、「自給自足」の方針です。これは、長年培ってきた保全技術を活かして、社外でアドバイザリー活動を行い“外貨”を稼ごうというアイデアです。これに賛同したメンバーは、スパナをノートPCに持ち替え、全国各地に飛び出していきました。全国に販売網を持つグループ会社のチャンネルを使ってすでに数件の契約をいただいており、お客様から高い評価と契約の更新をいただくまでに至っています。
これからの竹松事業所は、仕事量は増える一方、新規採用は困難で、仕事の高度化や複雑化に伴い、仕事の質の変化が求められています。効率的かつ戦略的に仕事を行う手段こそがスマートファクトリーであり、竹松事業所ではスマートファクトリー化により、やるべきことが明確な「存続できる工場」への変革、安全・安心でカッコいい「誰もが働きたくなる工場」の実現を目指していきます。
また、本日紹介したさまざまな事例が成功したのは、竹松事業所には、人と人との繋がりを大切にし、人を見放さず、寄り添って一緒に考える文化が根付いているからこそだと考えています。この良い文化がこれからも継承されていくことを願っています。
2024年1月、富士フイルムは創立90周年を迎えたことを機に、「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」という富士フイルムグループのパーパスを制定しました。長年にわたり写真事業を通じて世界中の人々の笑顔を見つめてきた富士フイルムグループは、これからも幅広い事業領域で人々に寄り添い、従業員一人一人が志を持ってこのグループパーパスの実現を目指していきます。