花王タイは1964年9月に設立され、1967年からはシャンプーなどの家庭品を、1971年には化学品を製造し始めました。花王は日本国外に27拠点の工場がありますが、同じ工場の敷地内で家庭品と化学品の両方を本格的に製造しているのは花王タイのみです。
2005年、事業拡大を目的に工場をバンコク近郊からチョンブリ県アマタシティ工業団地に移転しました。敷地面積は約3倍、生産量は約2倍に拡大する一方で、旧工場からかなり離れた場所だったため中堅社員が離職する問題が生じました。中堅社員、エンジニア、若手マネージャーの育成が急務の課題となったのです。
この課題をきっかけに花王タイでは以下の3つの活動に取り組みました。
(1)花王タイ独自の教育システムの構築
(2)学びを生かした自主保全活動
(3)オペレーションエクセレント活動の展開
花王の本社では、グローバルリーダーを育成する「グローバル教育システム」がありますが、1国あたり1〜2名と募集人数が少なく、また日本で研修が行われるため各国の工場にとっては時間的にも費用的にも負担が大きいという課題がありました。そこで「花王タイ独自教育システム」を立ち上げ、ローカルリーダーの育成に取り組みました。
生徒数は年間20名程度で、研修は実生産の影響がないよう自社工場で行います。教材はグローバル教育システムのテキストをタイ語に翻訳して、母国語で学べるようにしました。修了生は、2005年から2013年までの9年間で、「現場リーダー育成コース」が150名、「マネージャー育成コース」が64名に上りました。
現場リーダー育成コースを実施する「花王タイテクノスクール」の講義は約400時間です。午前中に授業を受けて、午後は現場で「自主保全活動」を実際に行いながら、成長をしていく方法を取りました。自主保全活動の目的は、学んだことをすぐに活かすことです。
講義で学んだ保全技術やエリアオーナーシップを定着すべく、きれいに保つことが難しいとされていた粉末洗剤設備を自主保全活動の対象としました。工場長を含む全マネージャーが集結し、4つのグループに分かれて造粒機の徹底的な清掃と検査を実施。グループを越えて改善方法を共有しました。この自主保全活動を通じて、内部に粉が溜まりやすい造粒機は蓋を透明にして点検部の見える化を実現。オイル漏れや振動などの異常がすぐに分かるようになりました。
造粒機以外の設備にも自主保全活動を展開しつつ、床の塗装もきれいにするビジュアルコントロールを図ったことで、花王グループで4つある粉末洗剤設備で最もきれいであるという評価を得られるまでになりました。
自主保全活動のさらなる展開として、2022年からは「保全パトロールミーティング」を実施しています。これは、技術メンテナンスグループが現場を訪問し、自主保全活動をサポートするもので、花王タイテクノスクールの修了生の発案から生まれました。パトロールを通じて、若手エンジニアと中堅メンテナンスメンバーの交流、生産部門と技術部門のコミュニケーションなども強化されています。
花王タイ工場は、「アジアの基幹工場として、花王タイ自立化」を目指し、自立した工場を次のように定義しました。
「グローバル花王共通の生産スピリッツとして、安全・安定操業のための基準や課題を共有・実践するとともに、競争力ある工場運営実現に、創意工夫や改善活動のPDCAを自らまわすことでスパイラルアップしており、さらにはそれら活動をグローバルに発信し、他工場にも気づきを与えている工場」
この定義に基づいた運営を行うために次のようなサイクルづくりに取り組んでいます。
まず、本部である花王SCM(日本)からミッション、ビジョン、価値観、運営方針などが降りてきます。それを工場のマネージメント層はトップダウンによって全従業員に示します。そして、全従業員が主体的にPDCAサイクルを回し、活動のボトムアップをしていけるようにマネージメントしていきます。不足の部分があれば、工場のマネージメント層は花王SCMにサポートを要請します。そして、よい部分については他の工場へも展開しながら花王全体でサイクルを回していくのです。
自立した工場は、社会的責任や地域貢献も果たせる工場であるとして、花王タイのマネージメント層は次の意識を持って経営に取り組んでいます。
まず、「全員を巻き込んだ活動展開と意識改革」です。注力しているのは、安全文化醸成活動です。各プラントに安全推進リーダーを1名もしくは2名設け、この方々自身が感じたリスクをみんなに反映させ、それが他者への思いやりとして感謝され、最終的に注意されたら「ありがとう」といえる文化を目指して、マネージメントをサポートしています。花王タイでは2022年、正社員、協力会社社員ともに完全無災害を達成することができました。
次は「ヒューマンセントリックなマネージメント」です。我々マネージメント層は、社員の誕生日、退職の出勤最終日、昇級時など、さまざまな場面を通じて感謝を伝えることを心がけています。また、コスト削減の提案会も毎月行い、素晴らしいものについては優秀提案賞を贈っています。
最後は「社会・地域を巻き込んだリーダーシップ」です。社会的責任、地域貢献といった部分ですが、花王タイでは廃棄物削減活動の目標は最終埋め立て処理量のゼロ化に取り組んでいます。徹底的な分別、サーマルリサイクル、セメント原料へのリサイクル、建材ブロックの園芸資材としてのリユースなどを実践。これにより、2020年には最終埋め立て処理量のゼロ化を達成し、現在も継続しています。
自立型経済支援活動としては、近隣の自治体や工場の周りでゴミに関する啓蒙を徹底しました。プラボトルやガラス瓶、アルミ缶などが収入源となることを説明し、分別かごも提供して、分別を啓蒙するプロジェクトを行っています。
こういった、自立した工場を実現するためのボトムアップ活動を実践しているのは、花王タイ独自教育システムの修了生たちなのです。
花王グループではオペーレションエクセレンス(OE)活動を実施しています。この活動の趣旨は海外の工場や倉庫で在庫管理や数量管理を改善することであり、人財育成活動も兼ねています。
このOE活動を最も成功させたのは花王タイとの評価を得ています。花王タイではOE活動を在庫管理や数量管理として捉えるのではなく、実践してきた自主保全活動の持続的に改善していく考え方を融合させ、現場力を強化し、安全や品質、持続性、スピードなどの改善にも展開しています。今ではOE活動のモデル工場と呼ばれ、花王メキシコの工場にアドバイザーを派遣するとともに、ベトナムや上海、インドネシアの工場の人々が花王タイを訪れ、我々の活動を学んでいきました。
花王タイは、アジアを代表する自立した工場として、これからも進化を続け、人財を中心とした温かく生産性の高い運営を達成し、花王の使命である「ESGよきモノづくり」を通じて、世界の人々の豊かな生活文化の実現に貢献していきます。そのために、持続可能な教育システムや、トップマネジメントとメンバーとの双方向コミュニケーションにより、グローバルに通用する人財育成と運営を進めていきたいと思います。