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小会のさまざまな活動を紹介しながら、これからの経営課題を予見し、課題解決のヒントを探っていきます

ものづくりの課題を高く広い視座でとらえ将来の変革を担うリーダーを育成する

産業振興センター
ものづくり支援事業グループ
Release January. 2023

研修プログラムイメージ

産業振興センターものづくり支援事業グループは、ものづくりの課題解決を支援する短期セミナー、長期研修、資格試験の実施、優秀事例発表会、表彰などを通して、製造業の経営革新を支援しています。グループの事業の一つとして行われているのが、ものづくりを担う次世代の役員・幹部育成プログラム「生産・開発マネジメントコース」(9ヶ月間の長期選抜研修)です。ものづくり支援事業グループリーダーの斎藤由佳が、人材育成でものづくり経営革新を支援するこの研修の特色や強みについてご紹介します。

産業振興センター ものづくり支援事業グループ リーダー 斎藤由佳
産業振興センター ものづくり支援事業グループ
リーダー 斎藤由佳
大学卒業後に就職した企業で勤務する中で「働くことで幸せになりたい」という思いがつのり、働く人を支援する事業に興味を抱く。転職活動中に日本能率協会を知り、自らの希望にマッチした仕事ができると感じて転身。入職後は人材育成、専門展示会の開催、広報を担当した。

生産・開発部門の幹部候補が集まる研修プログラム

産業振興センターは、経営や技術革新の支援を通じて産業の発展に貢献する部門です。大きく分けて、産業別・課題別のBtoB展示会や技術シンポジウムを行うグループと、製造業の経営革新支援を行うグループの2つがあり、私は後者の「ものづくり支援事業グループ」に所属しています。

ものづくり支援事業グループでは、製造業の各部門に関わる人材を育てる短期セミナーや長期研修、事例発表会などを提供し、ものづくり力の強化をサポートしています。グループの担当業務の一つに、人材育成プログラム「生産・開発マネジメントコース」の企画・運営があります。このプログラムは、次世代の幹部育成を目指す選抜型研修「JMAマネジメントインスティチュート(JMI)」で開講しているコースの一つです。製造業大手の約20社から生産部門、開発部門で将来基幹人材として期待されている部課長の方々が集まり、プログラムを通してものづくり企業の経営に必要な知識、課題設定・解決力、構想力を磨きます。私は、このコースのメイン担当として、プログラムの企画・運営に力を尽くしています。

一番の強みは異業種で真剣勝負の議論ができること

生産・開発マネジメントコースのポイントは、受講者に「高い視座・広い視野」で物事を捉える力を養っていただくことにあります。

このコースでは、日本を代表する製造業の企業から受講者が集まり、自社や他社の経営課題は何か、その根っこには何があるのか、日本のものづくりの将来をどうしていくのか、顔を突き合わせて徹底的にディスカッションしていきます。同じ「部課長」というポジションでも、企業の規模によって部下の人数や課題意識には違いが生じますが、このコースでは、受講者の企業の規模感やバックグラウンドがある程度そろっているため、より深い議論が可能です。実際の業務から切り離された研修という“安全な修羅場”で、異業種のメンバーが安心して真剣勝負の議論ができることが私たちが提供するプログラムの最大の強みだと考えています。

また、参加企業の多くがこのコースに期待しているのは、部門最適を超えて、問題をより高く広い視座でとらえ、全体観を持って変革を行うリーダーの育成です。

自動車業界では今「100年に一度の大変革期」と言われているように、日本の製造業は今、大きな環境の変化にさらされています。経営層の方々のお話しをうかがうと、先の見通しが難しい時代で自社がどう生き残っていくか、非常に強い危機感をお持ちだと感じます。

ただ、一方で、経営層と同じ危機感を部課長層が持っているかといえば、なかなかそこまでには至っていないという現状があります。会社に将来を期待されている生産・開発マネジメントコースの受講者のみなさんも、その点は同じです。もちろん自分が所属する部門に関しては、成果を上げ、高い問題意識を持っています。しかし、少なくともコースが始まる時点で、全社を俯瞰した課題認識を持っている方はそれほど多くありません。

そのため、プログラムでは、現在のポジションである部長や課長の視点を離れ、経営の視点に触れてもらうことを重視しています。第一線で活躍した経営者の方々に講師を務めていただき、受講者同士の議論でも、経営者の目線で経営課題やあるべき姿を深掘りしていきます。講演では、語られる言葉そのものからの学びはもちろん、講師が全身から発するオーラや立ち居振る舞いからも多くの気づきが得られます。リーダーとして「こうなりたい」という姿をイメージしてもらうことも、このコースの重要な要素です。

「私は」から「私たちは」へ。
意識が変わると主語が変わる

産業振興センター ものづくり支援事業グループ リーダー 斎藤由佳 その2

9カ月にわたるプログラムで「経営者の視点」に触れていくと、次第に受講者の語り方が変化していきます。主語が、「私は」から「私たちは」「我が社は」に変わり、会話に「仲間と」「みんなと」という言葉が増えていくのです。何かを成し遂げるには、自分だけの力ではなく、仲間をつくり人を巻き込んでいくことが重要だという気づきが、言葉を変えていくのだと思います。受講者のみなさんと一緒にそうした変化を感じ取ることが、私自身の仕事のやりがいになっています。

また、コースのOG・OBの方に、受講してどんな変化や収穫があったかをうかがうと、多くの方が一生の財産になる仲間ができたことを挙げてくださいます。プログラムには、少人数で長期にわたって経営課題の解決策を検討する「共同テーマ研究」、企業視察、合宿などがあり、深い議論や経験の共有によって受講者同士の距離感がおのずと縮まります。コロナ禍以前はプログラム後の飲みニケーションも盛んでした。濃密な時間を一緒に過ごし、一生ものの絆ができるという人脈形成の面でも、資するところの多い研修になっていると思います。

このコースも、コロナ禍により、リモートでの実施、交流会の自粛など、これまでの「当たり前」を変えてきました。しかし、やはり本気の議論や絆づくりには、実際に顔を合わせることがとても重要です。2022年度は、感染対策を取りながら対面での実施にこだわり、相互ディスカッション、気づきの共有をしてもらう時間を意図的につくりました。受講者には、10年後、20年後を見据え、自社のものづくりの変革を実現し、経営にインパクトを与えられる人材になっていただきたいと願っています。

ものづくりの人材育成で変わるものと変わらないもの

企業の幹部や役員に求められる人材像、知識やスキルは、その時々の社会経済状況に応じて変化していきます。たとえば、生産・開発マネジメントコースが始まった1990年当時、製造業では「いかに効率良く作るか」が課題であり、それを実現する人材の育成が求められました。グローバル化が進展した2000年代には、海外での現地生産を支える能力が重視されました。そして今は、急激なビジネス環境の変化に対応し、新しい価値をつくる提案力と実行力を備えた人材が必要とされています。求められる人材の変化をとらえ、必要な力を伸ばす学びをどう設計していくかは、プログラムの企画において強く意識している点です。

一方で、どれほど社会経済の潮流が変化し、勝ち方のパターンが変わったとしても、ものづくりには大切にしなければならないテーマがあります。それは、品質・安全・人材に対する考え方、企業の存在意義や理念といったものです。変わっていくもの、変わらないものの双方をカバーしながら、その時々において有益な研修になるよう、毎年プログラムの検討に心を砕いています。派遣企業からのヒアリングや産業界のトレンドを踏まえて企画を考え、講師や視察先を選定するのですが、やはり初めて実施するプログラムには不安がつきものです。企画がうまくフィットし、受講者に「とても良い気づきが得られました」と評価していただくと、励みになります。

さらに現在、2023年度に向けて、プログラムを全面的に改定する作業を進めています。一度原点に立ち返って現状とあるべき姿のギャップを分析し、あるべき姿になるためにはどのようなプログラムが必要か、どのような講師陣や事例企業が必要なのか、本当にまっさらなところから検討し、形にしているところです。検討においては、同僚はもちろん、ほかの研修やセミナーの担当者にも知恵を借り、参考にしています。それができるのも、多種多様な人材育成のプログラムを持ち、職員それぞれが幅広いお客様企業との接点や知見を持っている日本能率協会ならではなのかもしれません。

生産・開発マネジメントコースのほかにも、日本能率協会には開発、生産、調達など、ものづくりの課題に対して幅広く提案できる総合力があります。お客様の課題やお困りごとをしっかり聞くことを出発点に、これからもより質の高いサービスを提供していきたいと考えています。