
私はよく、日本能率協会(JMA)を「為すべきことがやりたくなる組織」だとお話ししています。
JMAには、産業界の課題解決や事業運営に助言をいただく評議員会があります。人事・教育、生産、開発・技術、マーケティング、購買・調達といった経営機能毎の評議員会に加え、関西、中部、バンコクにも評議員会があり、企業の第一線で活躍されている経営層や責任者(CXO)の方々に参加いただいています。
今から10年ほど前、私はこの評議員会に注力することにしました。それ以前は、私たちが研究成果や調査報告を行い、一方的な報告の場としての側面が強くありました。しかし私は、その場を相互的な「対話の場」に変えたいと考えたのです。
まずは評議員の皆様のお困りごとをお聞きする。そしてJMAに何を期待されているのかをお聞きする。その声に対して、各種ソリューションなどを通じて素早く応えていくことを大切にしてきました。すると、「こういうことに困っている」「こういう支援がほしい」という率直な声が数多く寄せられるようになりました。
「何を為すべきか」が見えれば、「ではやりましょう」と動くことができます。そして、その「何を為すべきか」という生々しい声が寄せられるのは、中立的な立場であるJMAならではの特徴です。だからこそ私は、JMAを「為すべきことがやりたくなる組織」だと考えています。
少し大きな表現になるかもしれませんが、日本の産業競争力の向上に貢献することが私たちの使命です。JMAは、あらゆる業界や企業に向けてソリューションを提供しており、会員様は大手企業から中小企業まで多岐にわたります。その知見を横断的につなぎ、新しい価値を生み出すことができる。それは個社だけでは実現が難しい、JMAならではの役割だと思っています。
企業や産業界の課題に向き合うなかで培われた原点私は1995年に大手建設会社へ入社し、約7年間勤務しました。当時は政府の改革による「脱ハコもの」が叫ばれ、建設業界にとって非常に厳しい時代でした。仕事自体は面白かったのですが、「違う世界も見てみたい」という思いが強くなり、2002年にJMAへ入職しました。
最初は展示会部門でした。入職してすぐに大阪へ行き、西日本エリアの営業を担当しました。電話営業もそこで学びましたし、現場で多くの経験を積ませてもらいました。その後は日本最大級の展示会である「FOODEX JAPAN」を担当し、全国の自治体を訪ねながら、地域の食品や特産品を国内外へ発信する取り組みに携わりました。自治体の皆様から「どんな企業とつながりたいのか」「どの地域へ進出したいのか」といったお話を伺い、それを形にしていく仕事です。
その後、教育・研修事業部門へ異動し、洋上研修を約9年間担当しました。企業のミドルマネジメント層が、船上で異業種交流やリーダーシップ研修を行うプログラムです。そこで私が大きな財産として得たのは、経済界を代表する経営者の方々との出会いでした。団長として参加される企業の会長や経営者の方々と食事をともにしながら、経営観や人生観について直接お話を伺う機会を得たのです。
そこでの学びやご縁は、今でも私の大切な糧になっています。
さらにその後は、生産革新センターで化学メーカー向けの生産革新手法の立ち上げに携わりました。展示会、教育・研修、ものづくり支援。振り返ると、常に企業や産業界の課題と向き合う仕事を経験してきたように思います。

私が「対話」を大切にする原点は、2004年に洋上研修でご一緒した、大手電機メーカーの当時の会長様との出会いにあります。その方から教わった言葉を、私は今でも大切にしています。
「対話が新たな価値を生む」です。
「胸を開いて対話をすれば、解決できないことはない」という意味です。
オープンマインドで接する心構えがあれば、相手と意見が違うからといって、感情的に否定する気持ちは生まれません。まずは「なぜそう考えるのか」をお聞きする。そして共感できる部分は共感し、自分の考えも率直に伝える。そうした対話を重ねれば、たとえ意見が一致しなくても、お互いを理解することができます。どちらが正しい、どちらが偉いという話ではありません。
まずは対話をすること。その土台が何より大切だと思っています。
この考えは、理事長という立場になった今のほうが、むしろ強く感じています。
時には耳の痛いことをお伝えするのもお聞きするのも私の役割です。しかし、それも日頃から対話ができる関係性があってこそ成り立つものです。企業の経営者や評議員の方々、理事の皆様と話をするなかでも、まずは相手の話を聞くことを大切にしています。JMAの価値も、結局は対話から生まれているのだと思います。
AI時代だからこそ、人と人をつなぐ価値をAIは非常に重要な存在ですし、活用も進めていかなければなりません。しかし、AIが得意とするのは、これまで蓄積された知識や経験を整理し活用することです。
一方で、2027年のJMA創立85周年、さらには2042年の100周年へ向けて何を目指すのか。誰も見たことのない未来をどう創るのか。その部分は人が担うべきだと思っています。
私は以前、人間国宝の方から「伝承」と「伝統」の違いについて教わりました。師匠から教わったことを受け継ぐのが「伝承」です。しかし、そこに新しい価値を加えて初めて「伝統」になるというお話でした。
「伝統」が認められて初めて人間国宝と認定されるからです。
JMAも同じです。これまで培ってきた知見や経験を受け継ぐだけではなく、AIやDX、さらにはアートやスポーツなど異なる領域の知見を取り込みながら、新しい価値を創造していきたいと考えています。
アートには創造性だけではなく、リベラルアーツの視点もあります。物事を多面的に捉える力を養ううえで非常に重要だと思っており、そのための研修プログラムも立ち上がっています。また、アスリートとの対話から学ぶこともたくさんあります。トップアスリートは努力を努力と思っていません。自らが目指すゴールに向かって、当たり前のように挑戦を続けています。その思考習慣は、企業経営や人材育成にも通じるものがあります。
異なる世界で活躍する方々との出会いや知見は、AIにはできない新しい発想や価値創造のきっかけになるのです。
「集団天才」で社会課題解決のプラットフォーマーへ私たちは、「社会課題解決のためのBtoBプラットフォーマー」でありたいと考えています。
企業、技術、人材、組織、そして産業をつなぐ。その中から新しい価値を生み出し、社会課題の解決につなげていきたいと思います。AIが進化する時代だからこそ、人と人が出会い、対話し、新たな発想を生み出す場の価値はますます高まっていくはずです。
この考え方は、JMAの内部でも体現されています。JMAは社員の95%が中途採用で、ゼネコン、運輸・物流、システム、コンサル、医療機器、卸しなど様々な業界の経験者が集まっています。彼らが知恵を出し合うことで、集団としての能力を飛躍させる「集団天才」という考え方を実践しているのです。
JMAはこれからも、産業界とともに未来を創る存在でありたいと思っています。

これからの日本を支えるビジネスパーソンの皆様、とりわけ若い方々には、ぜひ視野を広げてほしいと思います。「発想力は移動距離に比例する」という言葉がありますが、その言葉の通り、さまざまな場所へ行き、多くの方々と出会い、いろいろな経験をしてほしいと思います。
そして、私が大切にしている言葉があります。「縁尋機妙 多逢聖因(えんじんきみょう たほうしょういん)」という言葉です。
良いご縁を大切に育てていくことで、その縁がさらに新たな良縁を呼び寄せる。そして多くの優れた方々と出会い、学ぶことで、より良い結果が生まれ、人生がより豊かなものになっていく。
私自身、その言葉を実感しながら歩んできました。ぜひ皆様も、多くの方々との出会いを大切にしながら、自分自身の可能性を広げていっていただければと思います。