行政評価システムと情報化

現在、多くの自治体で導入、検討されている「行政評価システム」は、自治体の仕事を評価し、その評価結果から改善を実施するというPlan- Do-Seeのマネジメントサイクル構築、 定着化をおこない、限られた資源の有効活用や住民への説明責任に資することを目的としています。
ここでは行政評価システムの意義とそれを有機的に活用するための「情報化」の役割について紹介します。

行政評価システムのねらい

 長引く景気の低迷による税収不足、住民の価値観の多様化から、自治体の業務をとりまく財政は逼迫しています。

 そのなかで、現在見直しを求められているものは、一過性の事務事業点検ではなく、自治体の戦略である施策体系(総合計画)に示されている自治体ビジョン実現への有効な資源配分 (事業費、人件費)の抜本的な改革にあります。そのためには、施策体系(総合計画)を「絵に描いた餅」にせず、政策・施策の目的を明確にし、その目的の達成度を把握し、 評価し(結果を振り返り)、次年度以降の取り組みに活かす仕組みづくりや再構築が必要となります。

 そしてその施策を実現するために、どのような事務事業が必要かをデザインするとともに、その事務事業が施策の目的達成に貢献しているか、有効な手段で遂行されているかを評価し(結果を振り返り)、 次年度以降の取り組みに活かしていきます。

 施策体系に基づき、施策・基本事業・事務事業の各階層で、「Plan-Do-See」のマネジメントサイクルをまわすこと、つまり企画、実行し、その成果を把握して、評価をおこない、次年度に活かす仕組みを全庁的に、 継続的におこなうことが「行政評価システム」の本質です。(図1・図2参照)

 そしてその特徴としては、下記の4つがあげられます。

  • 施策の体系化をおこない、施策と事務事業を目的-手段の関係で整理し、施策を実現するために事務事業があるという考え方に転換する。
  • 施策や事業の目的を曖昧な表現ではなく、達成度を評価できるように、明確にする。目的を対象(誰を)、意図(どんな状態にしたいか)で表現する。
  • 施策や事業の目的達成度を評価し、目的をより鮮明化するために、「成果指標(アウトカム指標)」を設定する。 (例:道路を何m延長したかで設定するのではなく、道路の開通により渋滞が緩和されたか等の成果を指標化する)
  • 職員自らが、自分の仕事を振り返り、住民視点での施策・事業運営に向けて、改善をおこない、政策形成能力や説明責任能力を高める。

図1:行政評価システムの全体像

図2:施策体系に基づく評価の実施

これらを通して実現することは、単に事業費の削減というレベルではなく、この行政評価システムが自治体運営(自治体経営)のプラットフォームになることです。
それは下記に示す評価結果の反映先から表すことができます(図3参照)。

  1. 総合計画策定・管理
  2. 政策・施策レベルの目的達成度の把握、自治体ビジョンの達成度を把握し、資源配分の全庁的な検討に活用する。

  3. 予算編成・執行管理
  4. 施策目的に貢献しない事業や手段が妥当でない事業等については、資源を削減し、逆に有効な改革案には、資源を投下する。評価結果重視=決算重視の予算編成をおこなう。

  5. 組織・定員管理/能力開発
  6. 有効性の低い事業への職員投入時間の削減や、施策体系実現に向けた組織再編成による効率化、行政評価を通して職員の政策形成能力の向上をはかる。

  7. 住民コミュニケーション
  8. 住民に、自治体ビジョンの達成度をわかりやすく(指標等で)積極的に報告するとともに、目的や成果指標等の共通言語による住民と行政との双方向コミュニケーションをめざし、透明性を高める。

図3:評価結果の主な反映先

行政評価システムの「情報化」

 行政評価システムで扱うデータは、自治体運営の根幹データが多く含まれていますが、実際の自治体におけるデータ管理では、 各スタッフ(企画、人事、財政、行革)部門が、それぞれの思惑で各報告等の帳票を作成し、情報システムの連携性がないままバラバラに管理されている傾向があります。
 その結果、全庁的・有機的な意思決定のための判断材料となりえていません。また各事業課における報告事務の非効率性にもつながっています。 住民から見れば、自治体ビジョンの実現の達成度や事業成果等の把握が簡単にできない等の状況も生み出しています。
 行政評価のデータは、一般的に「評価表」で管理されています。(図4参照)

図4:行政評価データの管理(例)

 評価表には、施策や事業の目的、成果指標、コスト(事業費、人件費)、評価、改革案等のデータが記載されています。

 その結果、評価表の枚数は、自治体の規模や施策体系、事務事業単位によっても異なりますが、一般的に上記(図4)のようなデータ量となっており、 事務局はその管理や必要情報の検索に頭を悩ませています。

 そこで、行政における事業費、人件費(所要時間)等の経営資源を統合的・一元的に管理することにより、資源配分等の意思決定判断材料の作成、一元化による 転記削減等の各事業課の事務効率化、 施策・事業等の評価結果分析の実現、インターネットを通じて住民に評価結果を公開、住民からの意見のフィードバック等を目的として「行政評価システムの情報化」の推進が検討されます。

 行政評価システムの情報化により、各自治体は、自治体トップを含め、議会、住民、自治体職員へ「まちづくりの達成度」「資源配分状況」「施策・事業の目的 達成度と評価結果」を示し、 総合計画・施策体系に基づく統合的な経営管理(計画管理(Plan)・執行管理(Do)・成果管理(See))による効率的かつ効果的な経営をおこなうことができます。

 特にそのポイントとしては、「施策体系に基づいたマネジメント」の実現にあります。またそれらをより発展させて、さらなる統合化をはかるためには、 財務会 計システムで事業別に行っている予算編成システムを決算・評価システムに連携させ、自治体の業務をより効率化する機能を提供するとともに、 業務記録などの暗黙知データを文書管理システムと連携させることにより、施策体系に基づいたナレッジ・マネジメントへの展開がはかれます。(図5参照)

図5:施策体系を基本とした自治体運営のプラットフォーム

「行政評価システムの情報化」の主な機能

 行政評価システム情報化の基本的な機能は、大きく分けて、(1)行政評価データを庁内で活用するための機能、(2)評価結果を住民への公開・報告に活用する、 とともに、住民からの意見を蓄積する機能が考えられます。
 行政評価を庁内で活用するための機能としては、次のような機能が検討されます(図6参照)

図6:行政評価システム情報化の主な機能(例)

ただしこれらの機能がすべて揃わなくても、行政評価の実施には、問題がないことに留意ください。その理由については後述いたします。

  • 総合計画策定・管理
  • 個々の事務事業のコストを、事業費だけでなく、職員の人件費(その事務事業への投入時間)を踏まえたトータルコストの算出機能
  • 事務事業の効率性を求めるための単位コスト(ABC分析)の算出機能
  • 資源配分の全庁的、施策別投入推移や投下状況の把握機能(施策体系の階層別)
  • 施策・基本事業・事務事業レベルでの目的達成状況やコスト状況などをビジュアルに表示する分析マトリクスなどの機能
  • 多くの事業から、経営分析的に管理を必要とする事業の検索機能(事業特性等より)

評価結果を住民への公開・報告に活用するための機能としては、次のような機能が検討されます。

  • インターネット等による評価結果の住民への情報公開機能(評価データ加工機能)
  • 住民からの施策、事業等への意見の蓄積および担当部門、広報部門へのフィードバック、蓄積機能
  • 住民の知りたい情報を導きだす検索機能(地区、施策別等)

行政評価システム推進のステップと留意点

 さて各自治体が行政評価システムを導入推進するために最も留意いただきたい点は、『評価表を入力することが目的にならないようにする』こと、 『行政評価システムを導入することが目的にならないようにすること』です。

 特に「情報化」という言葉に惑わされ、「評価データを入力するツールが整えば、どうにかなるのではないか?」という考え方で、情報システムの構築をおこなわないようにしてください。

 行政評価システムの本質は、企画、実施、評価のマネジメントサイクルをまわすことであり、そのために必要なことは、職員ひとりひとりが自分の仕事を住民起点で真摯に評価する意識や能力、 評価結果を受けて改善する能力を全庁的に向上させることが基本です。

 つまり単に業務報告書を記入するのではなく、目的達成への仮説立案や仮説の検証をおこなう等の能力がなければ、いくら評価表を記入しても何も変わらない可能性があります。

 またその評価結果を各自治体の行政評価システムの導入目的にあわせ、全庁的な意思決定に反映することが成功の鍵になります。評価しても意思決定に採用されなければ、 評価する労力がムダになってしまいます。

 つまり、行政評価システムを何の目的で導入するのか、その評価結果をどのようなことに反映させるのかをまず考えることが第一歩となります。そしてそのツールとして、 どのような情報化が有効なのかを考えるようにしてください。(図7参照)

図7:行政評価システムの成果創出のポイント(落とし穴)

 行政評価システム情報化を進める際には、機能の多さで考えるのではなく、『わが自治体の行政評価システムが有効に機能するためには何が必要か、どのような分析をおこないたいのかを、 評価結果を活用するスタッフ部門と協議し検討すること』、『現在が構築のタイミングとして適切か、再構築(システム先行で実態と乖離)となる心配はないか』を考慮してください。
 最後に、行政評価システムの導入は、自治体運営のプラットフォームづくりであり、体質改革のツールであることを理解いただき、短期的な事業費削減のツールとしてではなく、 長期的展望に基づいた全庁的プランづくりから出発していただきたいと思います。

参考:行政評価データベース

お問い合わせ

行政評価・電子自治体・事務改善など、自治体経営をご支援

自治体経営革新センター

page top