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女性農業コミュニティーリーダー塾 実践編
東京・大阪合同研修 第3回講義レポート
地域のピンチをチャンスに変えた「鳴子の米プロジェクト」

2019.12

2日目に向かった先は宮城県大崎市にある「鳴子温泉」。雪の山道をバスが登っていきます。硫黄の香りに思わず温泉旅情が高まりますが、お湯をたのしみに来たのではありません。 14年続くNPO法人「鳴子の米プロジェクト」について同NPOの理事長・上野健夫さんによる講演が始まります。

鳴子の米プロジェクトは、多様な主体を巻き込むことで発展した成功事例。 「女性農業コミュニティーリーダー塾」の金子和夫先生によるオリエンテーションで、注目したいポイントをチェックしてから受講しました。 では、さっそく…冗談を交えながら笑いの絶えなかった講演の概要を、ワークの写真を交えながらお伝えして行きましょう。

ここ鳴子は、山形県と秋田県に接し、森林が約90%を占める山間地。山間農業と林業が主な産業。 こけしで有名な鳴子温泉は、かつて年間200万人が訪れた東北を代表する観光地でしたが、現在は70万人ほどに落ち込んでいます。

加えて2007年、大規模農家しか支援しないという…政策の大転換を迎えます。国の支援が受けられる農家さんは、鳴子に600軒あるうちたったの3軒。 加えて耕作放棄地が増え景観が荒れつつありました。これではいけない! 観光資源である田園風景、そして地域の農業と食を守らなければと、「鳴子の米プロジェクト」は始まりました。

行政からの交付金を活用して行なった「土台作り期」には「鳴子の米プロジェクト会議」を年4回開催。まずは方向性を見出そうと模索が始まります。 ここには、農家だけではなく、農協や行政、観光、こけし業者など、多様な職業の方が参加。 職業が違うと価値観も異なり、鳴子の将来像について多角的な視点からディスカッションが行われたそう。

この時、総合プロデューサー・結城登美雄さんの助言で、地域に合った米を探すことになりました。 というのも、鳴子の厳しい環境で育てた米は当時、美味しくないと言われており、 農業試験場に出向いて山間地向けの品種を選んでもらい、地域米のブランドづくりが始まります。 昔ながらの風景「杭がけ」を守るなど、あえて手間暇をかけることで、他との差別化も進めます。

こうして誕生した「ゆきむすび」。まずは地域の人に食べてもらおうと、おむすび試食会を開催。 それには地域の女性たちが協力し「食と器の勉強会」で鳴子の器に盛り付けたり、低アミロース米に合う水加減を研究したりしながら、地域の食文化に根ざした何十種ものおにぎりを試作したそうです。

そして、2007年3月4日、それまでのプロセスを共有するため開催した「鳴子の米発表会」には県内外から450人が集まり、 用意したおにぎりはあっという間になくなり、山間地でもおいしい米ができると証明したのです。

併せて検討したのが、「どんな物語を乗せられるか」を考えながら米を作っていること。 桶職人がおにぎりをもりつけるための桶を作り、漆職人が地元の杉で器を作ってくれたそう。 また、地域の菓子店などに米粉を使って団子やパンを作ってもらうなど、さまざまな職業のスキルを集結しています。

商談では、他の食材と比べると、米がいかに安く価格設定されるか? ひと目で分かる資料を用意。ごはん1膳が24円とすると、その値段で買えるもの(笹かまぼこが1/5個、いちご1粒、ポッキー4本)を並べ、わかりやすく伝える努力も怠りません。 その結果、1俵の値段は通常の倍ほどの2万4000円で販売できています。「1杯の米の価値観を共有できる人と商売をする」方針なのです。

ほかにも、作り手と食べ手の信頼関係づくりのための稲刈り交流会や地域特有の「杭がけ」体験、 若い外部の力を入れるための学生の受け入れ、地域資源を活用した「おむすび屋」の開店など、実践活動の紹介も盛りだくさん。


受け入れた大学生の就職先企業と連携したり、トヨタ財団からの支援を受けて継続可能な仕組みづくりにも取り組むなど、積極的に外部の組織ともつながりを持っていった上野さん。 「ひとりでも多くの消費者に価値観を伝える取り組みをしています」と語る通り、そこにはメディアの力もあったと言い添えられました。

質問タイムには、「反対する人もいたのでは?」「外部とはどう繋がった?」「プロジェクトの発案者は?」「メンバーの平均年齢は?」たくさんの質問が。

そのあとは「つながり」をまとめるワーク。 「鳴子の米プロジェクト」はネットワークを作り、多様な主体が参加しているのが特徴。上野さんがどれだけ多くの方とネットワークを生み出してきたかを付箋に書き出し、班ごとに発表を行いました。

最後は「ゆきむすび」をいただきながら懇親会。桶いっぱいのおむすび、そして地元のおかずたちはキレイに胃袋に消えていきました。

懇親会の締めは金子先生。「身近な仲間を集めていることを実践していますが、それだけでは広がらないことを感じている人もいると思います。 上野さんのように、多様な人とネットワークを作ることが大事。そこを意識していきましょう!」。 2日間に渡った東京・大阪合同研修で得た知見は、塾生のみなさんのネットワークづくりに、大いに活かされていくことでしょう。