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市橋ちよみ/『顔の見える農業』の理想型を求めて

2015.01.30

■一人ひとりを大切に、出会いを大切に…

市橋ちよみ  (鹿児島県熊毛郡屋久島)


今回は、鹿児島県・屋久島で40年近く農業をされている
『育成塾のおかあさん』こと…
市橋ちよみさんにお話を伺います。


女性農業者(塾生)の中ではキャリア最年長!
「顔の見える農業」を掲げ
タンカンやポンカンを生産していらっしゃいます。


農女新聞
まずは、就農の経緯についてお伺いしたいのですが…


市橋
はい。主人と結婚した時ですから、昭和53年10月28日です(笑)


農女新聞
ご主人が農家をされていたんですか?


市橋
そうです。私の実家も屋久島で畜産農家をやっていたので
小さい時から農業は手伝っていましたよ。


農女新聞
では、農家の大変さはわかっていらしたと思うんですが、家族の反対や
ご自身も農家に嫁ぐことに抵抗はなかったですか?


市橋
そうね。昔は農業に対するイメージが「きつい」「きたない」「危険」の3Kって
言われていた時代だったからね。
でも、家族の反対はなかったですよ。
わたし自身、当時は農協に勤めていたんですが…
男の人たちはどんどん出世していくけど、女性はなかなか出世できなくてね、
私にとっての出世は、
飯が食えてちゃんと経営がやっていける農家に嫁ぐことだと思っていましたから。
そんな時に主人と出会って…


農女新聞
この人だと…


市橋
そうみたいでしたよ(笑)


農女新聞
ひとつ、気になっていたことがあるんですが…
市橋さんのところで作られているタンカンですが、私初めて聞いたんですが
いったい、どんな農作物なんですか?



市橋
あらあら、そうなの。
タンカンっていうのはね、柑橘類でね、自然交配でできた果物なんだって、
インドかどっか向こうの国の…。
それで屋久島に早くから入ってきてて、昭和何年くらいだったかいな…


農女新聞
で、今はポンカンではなくタンカンをメインにされているそうですが、
タンカンの方が人気あるんですか?


市橋
そりゃあもう、
タンカンを一度食べたら他のミカンは食べられんって言われるくらい美味しいんですよ。
コクがあってね、タンカンが嫌いっていう人に出会ったことがないわッ!


農女新聞
でも…それほど評判なのに、
東京のスーパーでは、あまり見かけないのは
東京在住としては寂しいです。


市橋
そう、タンカンは希少価値なのよ。なんでかっていうとね…
このタンカン様はね…


農女新聞
タンカン様…


市橋
1年いっぱい実をならせすぎると、次の年、お休みするの。
隔年結果(かくねんけっか)と言うんやけどね。
同じ広さの農園でも、普通のミカンと比べて半分くらいしか穫れないんよ。
あと、生産地が沖縄や鹿児島のごく一部に限られているんですよ(風土・気候のため)
柑橘王国の愛媛や和歌山でも栽培できないんだからね。
だから出回りも少ないし、知名度も高くないのよね。


*隔年結果*
果樹栽培のさいに1年置きに収穫量が大幅に増減する現象のこと。
経済栽培の場合、着果負担と樹勢を管理することで毎年の収量を平準化することができる。


農女新聞
柑橘類のなかでもタンカンを育てるのは特に難しいんですか?


市橋
ポンカンとだいたい一緒ですよ。
今では、タンカンが面積の主流だけど、
嫁いだ当初は、牛糞をたい肥として農園にまくから牛も飼ってたし
えんどう豆も作っていたんですよ。
でも、果樹だけの専業農家になろうとお父さん(主人)と頑張ってきたわけよ。
それで、おかげさまで食べれるようになって…
タンカンは、屋久島地区の品評会で6年連続、金賞受賞ですよ。すごいでしょ。


と、いうことでコチラ…1994年の受賞時に撮られた記念写真



農女新聞
すごいですね。
じゃあ、ネット販売でもたくさん売れているんじゃあないですか?


市橋
それが、ウチはネットはやらない主義なのよ。「顔の見える農業」だから。
今の時代にはそぐわないと言われているんだけど…
ウチは地元(屋久島)の物産館があるので、そこに来た人、
屋久島に来た人に食べて頂きたい…というのがあって。
で、一度買ってもらったら、その人たちはずっ~と20年30年のリピーターさんで。
そういうお客さんがほとんどなのよ。
だから、出会って、またそのお客さんが誰かにつなげてくれて、そういう感じで
次、次、次、、、とまわしてくれるのよ。
で、紹介してくれた初めてのお客さんには、「初めてですけど、どなた様のご紹介ですか?」と、必ず電話をしてお話をするんですね。
その中には、わざわざ、どんなおばちゃんが作っているのか?顔を見に屋久島まで
会いに来てくださったお客さんもいましたよ。


農女新聞
農家冥利につきますね。



市橋
市橋農園のファンはたくさんいますよ。
人生最後の時にね、どうしても市橋さんのところのタンカンで終わりたいと言って
奥さんから電話が来て、間に合って奥さんが果汁に絞ったそれをご主人に飲ませて…
「最後は水ではなくて、市橋さんのところのタンカンで終わらせることができました」って・・・
もう、私たちは、なんていう仕事をしているんだろうって思いますよ。
うれしいってことは超えてね…。
とにかく、顔のみえる農業、一人ひとりを大事に、出会いを大事にしていきたいと思っていますね。


農女新聞
ネット販売とか必要ないんですね。
顔の見える農業って、こういうことを言うんですね。
最後に、これから農業を志す女子にメッセージをいただけますか


市橋
私の理想はね…、お父さんと結婚して子供ができて、子供が後継者として一緒に農業をしてくれて、
その農園で孫も遊んでいる、そんな風景を思い浮かべていたの。
それが今なのよね。ちゃんと理想がかなっているのね。
アメリカ式の法人もいいかもしれないけど、私は、日本の家族経営もいいと思いますけどね。
法人をやっていく必要もあるかもしれないけど、家族だったり、そこにお友達も入れて
手伝いに来てもらったりとか…、そんな農業も素敵だと思いますよ。



農女新聞
ありがとうございました!


お話を伺っていて、改めて農業って仕事、素敵だなぁと思ったのと同時に…
農作物と消費者の間には、“人”(農家)が存在することを改めて実感しました。
かつては「3K」の職場として嫌われた農業ですが…
いま現在、市橋さんが考える『新しい農業の3K』は・・・
「景観を良く」「環境を整え」「観光客を集める」だそうです。
市橋さんのお話を聞いて「顔の見える農業」…改めて考えさせられました。

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