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2017.03.31

女性農業者育成塾 第3期終了記念 講師座談会


2014年に始まった育成塾。2016年度、第3期が終了しました。第1期で授業のプログラムを作るところから始め、研鑽を重ねて進化してきた育成塾。今回は、箱崎浩大先生、高橋澄子先生、脇坂真吏先生に、その歩みを振り返っていただきました。



■基盤があってこそ役に立つ知識がある

農女新聞
育成塾も1〜3期が終わりました。振り返ってみていかがですか?


箱崎
農林水産省から当初「女性リーダーの養成」という依頼をいただきました。いざ、教育をスタートしてみると農業界では、単純に教える・学ぶという段階ではなく、もう一段前の基礎的知識の整理が必要であることに気づきました。つまり、単純に女性リーダーを養成するだけではなく、「事業」・「経営」の関係性など「前捌き」をいれたプログラムにした上で、本当に必要な知識が何か? どのように教えるか? 考えなくてはなりませんでした。また、受講生のみなさんが、どこまで何を分かっているのかを測るのも、試行錯誤しました。


高橋
何が本当に足りないのか、本質は何かを考えて、限られた時間の中でプログラムを作ってきました。「教える」「教わる」という関係だけだと人は育たないので、その人の自立性や能力を引き出す教え方も、方向性としては気にしていました。


農女新聞
そもそも農業における人材教育のあるべき姿…「教育体系」(基礎知識・応用知識の定義、学び方)が整理しきれいていないのかもしれませんね。


箱崎
結論から言うとそう思います。基盤があってこそ役に立つ知識というものがあります。起業した人でも、会社ごとに特徴があるにしても、前提とするビジネス上の基礎がありますよね。


高橋
基本的なことだと、名刺交換に始まるようなことですね。

  

箱崎
そうです。社会通念、一般的なビジネスベースというものがある。農業界においては、地域の繋がりの中にもあるはずで、それは企業ごとの考え方や特徴のようなものです。どうもそのあたりは整理ができていない可能性がありますね。いっぽうで、今は業界のクロスボーダー化が進んでいます。業界をまたいだ横の連携を進めるというのが、世の中の流れ。社会通念がなんであるかが認識できていないことで連携から取り残される、ないしは農業分野でも他産業の方々にイニシアティブとられてしまうようなことにつながっているのではないでしょうか。

仕事を始める前の、大学など最終教育の時点で学びきれていないこともある。どの産業でもそういう課題はありますが、一般企業は足りない部分を埋める研修を行います。農業ではそこが抜けているのかもしれません。


高橋
日本の場合は、社会に出てから知るという現状はありますね。社会にエントリーしていくには、変な齟齬があってはいけないし、その時に、自分の能力以前の部分でひっかかってしまうのはもったいないですよね。だからそれも授業に盛り込まざるを得なかった部分はあります。事業のためのプラットフォームも教えなければいけないんだけど、ベースとして知らないといけないことが欠けている人もいるから。


農女新聞
試行錯誤を重ねて、柔軟性をもってプログラムを組まれたのですね。ビジネスの基礎を知ることができる場でもあったと思います。


高橋
私たちも手助けをしようというのであって、評価しようとしているわけではない。「新規就農した時にこの話を聞いていれば、損失を出さずに済んだ」という受講生もいるけれど、本当にその通りだと思います。せっかく予算と時間を使うので、体系的に知識を身につけてもらえればとは考えていましたね。


■塾生の方は、環境が整えばむしろ能力は発揮できる

脇坂
そもそも農業をやるということは、自分で会社を経営することと同じ意味。新規就農することはベンチャー経営をするということなのに、そこまで考えが至っていないという時点で、問題があるとは思いました。


農女新聞
就農する=事業をするという自覚の部分ですね。


脇坂
そうです。「嫁で来た」というのは別だけど、新規で就農するということは、会社を作ることと同じだから。


高橋
でもそこに関しては、私はちょっと違う意見を持っていて。ベンチャーをやる人の中には、その意識の部分は大丈夫な人もいる。でも大丈夫じゃない人もいて、だから起業した人の1割しか残らないという現実もあるわけです。。


脇坂
そうですね。


高橋
だから国もベンチャーに対する支援事業を行っているわけで。独立した人からしたら認識が甘いという意見もあるかもしれません。でも、国の施策からも教育論からも、農業に限らず独立した人には、そのインキュベーション期には「教える」「教わる」という時期があってもいいんじゃないかと思います。


箱崎
日本はサラリーマンが多いから、ベンチャー的な意識や考えに触れていないので弱い。一方で会社内の教育体系が確立されていることで人材が育つというのも日本の強みです。海外を…例えば華僑系の方々は、会社に従属するよりも自分で起業するマインドの方が普通です。日本では就職するのが第一なので、その感覚がまずない。でも実は、今の大企業は、もともとベンチャーだったはず・・・なんですよね。


脇坂
財閥を作った人たちなんて、もともとはベンチャー経営者ですしね。


箱崎
スタートアップして大企業にしてきた経験を活かして、今ベンチャーに踏み込む人の目線はどうあるべきか、ベンチャーとして生き残るための知識については議論が活発になっている部分です。一方で、企業就職が第一と考えていた日本では、この分野は遅れていますね。


高橋
ただ、産業が高度化している今、もし本田宗一郎タイプの経営者がいても、経営的には無理というのもある。やはりベンチャーでも教育の機会は必要だと思います。

ある企業の成長分野の話を聞いたのですが、そこは課長もスタッフも女性で、成果を出している。ただ、その方に特別ビジネスの素養があるかというと、そうは思えない。その方が結果を出したのは、企業の環境が整っている背景もあったからで、能力に違いがあるとは思えないんです。

つまり、能力は同じだけど、育ち方が違うだけ。むしろベンチャーとして独立独歩でやっている育成塾のみんなの方が、環境が整えばむしろ能力は発揮できるとも思うんです。それを見ると、教育の差が出てくる時代になったと感じています。


■育成塾のプログラムを世の中にシェアしていく段階へ

脇坂
国の補助金の使い方にも、もう少し工夫が必要かとも思いますね。僕が問題だと思うのは、農業をやる人自身が自分がベンチャーだと思っていないこと。そして、「ライフスタイル」とか「豊かな自然」とか「楽しい田舎暮らし」とか、事業に直接必要のない付加価値をつけて、その結果、農業をやっている人自身が困っている。

そして、困った人には国が補助金を出す方針でやっている。たとえば150万円を3年、5年と出して、困ったら行政を頼る仕組みになっている。「廃業させない」という発想だから教育とはそもそも違うし、そういう農業のやり方は貧困層を増やすことになって、産業としても魅力がなくなってしまいますよね。この育成塾のような教育に予算を投下する一方で、廃業させない、やめさせない前提作りのような予算も使っていることには、違和感を感じますね。


高橋
もうひとつ思うのは、ベンチャーとして農業をする人と、どんな形でも農業を続けていたい人とを、分けないとダメなんじゃないかと思います。農業従事者にも、ベンチャーとしてバリバリやる人、中堅の中小企業としてやる人、サラリーマンとしてやる人など、いろいろなタイプがある。政策的に区分概念がまだないようなので、そこは分けてもいいんじゃないかと思いますね。


箱崎
ほかの産業だと、自分がどの立ち位置いる「人材」なのか、どの階層にいるかは自覚していますよね。その中で、会社・職位の変更をすることでもっと上を狙う人もいるし、一方でこのままでいいと思う人もいる。


脇坂
それなのに全員をベンチャーに括ってしまったところに問題があるんですよね。


高橋
全員がベンチャーにはなれないし、ならなくていいと思う。教育論からいうとベンチャー経営者は作れないし、経営はセンスだと思うのだけど…基礎体力みたいなことは教育で身につけられるんです。経営界で検証済みのやり方もある。知らないよりは知っていた方がリスクも減らせるし、引き出しがたくさんあったほうがより良い発想ができる。


脇坂
より精度の高い判断ができますよね。


箱崎
農業界ではそういう区分概念があやふやだから、最初にプログラムを作る時には、僕らも分からなかった部分はあります。それを現場で把握して落とし込んで、今の形になったんです。農業を前面に出すのではなく、事業規模から見ていくことで、区分できるという視点を入れた。そして、そのそれぞれのレイヤーにいる人達にどんな教育が必要かと考えた時、個別の抱える問題や表面的な悩みではなく、事業規模や需要などの考え方を身につける必要があるんじゃないかということになった。


高橋
教育の準備として、対象者はどんな人なのか現状を把握する必要がある。その点では国も現状が見えていなかったこともあり、情報を取りながらプログラムを作らざるを得なかったのは事実ですね。実際に脇坂さんに現場調査をしてもらったり、授業のふりかえりで受講生が抱える課題も調査して、やっと授業のプログラムも作れていけましたね。


箱崎
プログラムとして形になったので、今度は世の中にシェアしていく段階に入っているのではないでしょうか。教育というのは一部分なので、ずっと手助けすることはできない。中小企業には商工会・商工会議所の経営指導員がいるように、農業には専門職として普及員の方がいる。本来なら、既存支援機能ともリンクして、農業経営者を支えられる仕組みを作っていく時に来ているのでは。

また、その専門職も、技術指導だけではなく経営指導まで幅を拡げなければいけないと言われているけれど、その人達への教育プログラムがない。そういう部分でも二重、三重の課題が噴出しているのが現状ですよね。これからは育成塾で構築した教育プログラムを農業者のみならず支援側にも展開していく重要な局面にあると思います。


■学びを伝え共有することの重要性

農女新聞
今年も育成塾を取材してきて、塾生が「いいな」と思ったことを自然に行動に繋げられているように見えました。たとえばワークでも、意見を出す付箋がどんどん貼られていくし、まさに授業内容が響いていたのではないでしょうか。


高橋
大人として自立して行動を起こせる人をつくる教育ということは、いつも頭にありました。答えを言わない、自分で判断するということです。その中のひとつに「ご家族や従業員と共有してもらうようにした」というのはあります。。

仕事は一人でやるものではなく、家族や従業員、そして取引先とも関係を築くことになる。能力があっても、人との関わり方が上手じゃない人は損をしてしまう。そこで損をしないために、伝えられるということも仕事の能力の一部なんです。みんながすごいと思うのは、それを使って従業員教育をしている人もいること。それで「従業員が変わった」とか「今回はどんな話だったんですか?」とせっつかれる人まで出てきている。

一緒に仕事をしている人と共有して進めないと、自分が勉強しただけではうまくいかない。また、ここで勉強したことがすべてじゃないし、共有してみて「うちはやりません」でもいいし、そんな人だっている。行動に移すというのは、自分が何かやるだけじゃなくて、人に伝えることでもあります。すぐに結果が出なくても、話をして「じゃあ時期を待とう」となれば進んでいるわけだから、それも含めて結果ですよね。


箱崎
また、受講生もそれぞれの環境で、学んだことを伝える立場に立たされることが多くなるとおもいます。そこで受講生のみなさんに伝えたいのは、「淡々と学んだことだけ伝えればいい」ということ。ここで10か月学んだことを、短時間で伝えることはそもそも無理だし、自分から先生になる必要はない。あったことを伝えるだけで、そこから先は聞きに来た方に委ねて、その人達が反応した時に、地域でサポートできる体制ができていればいいのではないかと思います。


【編集後記】
今回、特に印象に残ったのは箱崎氏の「育成塾のプログラムをシェアしていく段階」という言葉。どのような形でそれが実現していくのか? それによって日本の農業がどのように発展していくのか? この先が楽しみになる座談会でした。育成塾で得た学びを全国で実践する1期生?3期生「女性農業次世代リーダー」たちの活躍に、これからも注目です!