第2回
政策形成力・人材育成に関する調査 2025
― 第45回 当面する企業経営課題に関する調査 連動調査【産業間比較編】 ―

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  • 調査目的

    【目的1】人材の確保が、日本全体の組織に係る課題であるとの認識から、人材や人事の経営課題について、、「第45回 当面する企業経営課題に関する調査」との連動調査として実施し、民間企業、地方自治体、大学間の産業間横断比較を行い、実態把握と方向性を明らかにすること。 ※産業間比較結果は、別冊で報告しています。

    【目的2】小会が、2016年に実施した「第1回政策形成力・人材育成に関する調査」からおおよそ10年近く経過し、自治体の政策管理、人事管理、財政管理等の諸課題への取組や課題の経年変化を明らかにすること。

    調査概要


     

    ・調査実施:2025年3月 ・回収数:259自治体 ・回収率:14.5%



    調査サマリー


    1. 5割強の自治体が今後の財政悪化を見込むが、歳出適正化は6割で進まず。
    「首長のリーダーシップ/決断」が、行革・歳出適正化の成功の鍵


    5割強の自治体が、5年後には財政が悪化すると予測している(図表1)。国の財政改革の一環としての地方交付税の削減を踏まえ、平成の大合併などが進んだ。しかし、大きな削減はされず、地方創生の取り組みなども相まって投入志向での財政運営が続いているなか、地方自治体の財政は静かに悪化していると思われる。

    財政健全化の方策のひとつである行政改革・歳出適正化については、6割の自治体で進んでおらず、3割の自治体では進んでおり、状況が分かれている(図表2)。


    歳出適正化の進展の成否には、「首長のリーダーシップ/決断」が成功の鍵となっている(図表3)。歳出適正化が進んだ理由の1位、進まなかった理由の4位となっており、民間企業同様、リーダーとしての経営方針に基づき、その実現に向けた「行革指針・財政運営基準等のルールの設定」による着実な実行が重要となっている。

    また、「職員の危機感」をどう醸成していくかも重要であり、それには、「首長のリーダーシップ/決断」「官房部門(企画、財政、人事)の推進力や決意」が欠かせない。しかし、歳出適正化が進まなかった理由して「厳しいと言いつつ毎年予算編成できていること」が63.6%と最も高く、財政部門による事業部門への危機意識醸成への問いかけが、毎年大きな削減なく予算編成される(ように見える)ため、「そんなにわが自治体が大変ではない」との認識につながり、裏目にでている(イソップ寓話の『オオカミ少年(羊飼いと狼)』の状態)。官房部門のチェンジマネジメントの取り組みへのレベルアップが求められる。


    【図表1】5年後の財政予測   

    ※n=259/単一回答   

    【図表2】歳出適正化状況(公共施設適正化除く)

     ※n=259/単一回答

    【図表3】歳出適正化が進んだ理由・進まなかった理由

    ※n=259/1位から3位を選択

    2.地方自治体職員の能力・資質では、「IT活用力」の重要性が10年前に比べ、大幅にアップ


    地方自治体職員に求められる能力・資質に関しての不足度と今後の重要項目について、2016年の前回調査と比較では、「IT活用力」が不足度及び重要度ともに、上位になっており、多様化する行政ニーズ対応と人材不足からDXやAI活用の必要性が高まっていることを示している(図表4)。

    不足度では、「IT活用力」が」前回18位から2位へ大幅アップ、「OJT・部下育成力」が前回8位から5位となっており、若手職員の育成、離職防止への指導力向上が課題と思われる。


    重要度でも「IT活用力」が前回16位から1位へ大幅アップとなっている、


    また、その他の能力・資質については、2016年の上位項目と大きく変化がなく、この10年間で能力・資質の課題に変化がないことも特徴となっている。

    【図表4】地方自治体職員の能力・資質の不足度・重要度の上位項目


    ※n=259

    ※不足能力・資質・・・能力後に、「充足」「充足と妥当の中間」「妥当」「妥当と不足の中間」「不足」の選択肢から、「妥当と不足の中間」「不足」の合計

    ※今後の重要項目・・20の能力・資質から、重要な項目を5つ選択。その回答者割合

    3.地方自治体職員の組織・人事の経営課題は、「職員の心身健康管理」が6割強で1位

    地方自治体の組織・人事領域の全体での1位は「職員の心身の健康管理(ハラスメント、メンタルヘルス含む)」で6割強となっており、人口規模が小さくなるほどその課題感が高く、人口10万人以上の自治体では5割なのに対し、人口1万人未満の自治体では7割を超えている。これは、行政サービスの多様化に加え、人材不足下での業務多忙、住民対応、民間企業と比較して保守的といわれる組織マネジメントなどが影響していると推察される(図表5)。


    人口10万人以上の自治体の特徴としては、「優秀人材の確保」が40.9%、「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」が31.8%、「多様な働き方の導入」19.7%が、全体より高く業務・マネジメントの質向上を課題と掲げている。

    人口1万人未満の自治体の特徴としては、「労働時間の適正管理・削減」が41.1%、「効果的な組織体制の設計」が32.1%で、人材不足下への対応に迫られている。

    【図表5】 組織・人事領域の課題 上位項目と人口規模別の特徴


    ※n=259/1位から3位まで回答

    課題の上位3つの回答を合計した順位、%(100%を超える)

    4.政策管理、人事管理、組織風土面の各種制度・施策の導入・機能状況


    地方自治体の経営の質向上に資する政策管理に関する10制度、人事管理に関する11制度、組織風土面の3制度の導入率や機能度を2016年と比較したところ、政策管理、人事管理の制度については、多くの制度で導入率が向上している。組織風土面の施策については、政策管理・人事管理に比べると導入の歩みは遅くなっている(図表6)。


    各種制度の機能状況では、政策管理分野では、「政策・施策評価」「市政全般の外部評価」「庁議・部局怪異での重要事項等の定期進捗報告の定例化」の、Check(進捗管理は、DoのCheck)機能、人事管理分野では、「FA制度」「プロジェクト期間等の仕事の区切りを踏まえた在任期間設定」など、職員の動機づけ、組織風土面では、「特別職や部局長による職員と定期的な懇談会」「定期的な職員アンケート等による組織風土の把握」の経営幹部や官房部門との現状共有の取り組みが上位となっている。


    導入率が必ずしも高くない制度の機能度が上位にきていることが特徴であり、それぞれの組織課題にあわせた仕組み構築と運用への努力の結果と推察できる。他方、導入率は高いが機能度が低い制度も見受けられ(報告書参照のこと)、マネジメントに関する各種制度は、制度設計に加え、運用が重要であることの証左と考える。

    【図表6】 政策管理、人事管理、組織風土面の制度の導入率と機能度(機能度上位順)


    ※n=259/1位から3位まで回答

    ※導入率・・・制度毎に、導入状況を質問し、「導入3年以上を経過」+「導入1~3年未満」の回答者割合

    ※機能度・・・制度導入自治体のいち、「十分機能している」+「一定機能している」の回答者割合

    総評・まとめ


    国の財政改革への対応としての「平成の大合併」ブームから、20年が経とうとしている。当時は行政改革を公約に掲げた首長が当選し、さまざまな改革への取り組みをおこなった。他方、合併自治体では庁内マネジメントでの価値観共有化などに時間を要し、改革が進めきれなかった自治体もあった。令和以降、人口減対策としての地方創生などの取り組みで、投入志向が続くなか、5年後に財政調整基金(貯金)が一定基準を下回ると回答した自治体も5割あり、水面下の財政危機が進み、合併で改革を進めきれなかった自治体では、財政危機が顕在化し始めている。


    今回の調査では、政策管理、人事管理などの各種マネジメントの仕組みの地方自治体への導入が進み、機能していることもうかがえる一方、財政健全化(歳出適正化)が進んでいない自治体が6割あることに留意が必要である。各種の仕組みが機能する一方、抜本的な財政的な構造改革への取り組みが進まず、対症療法でしのいでいると推察される。


    抜本的な改革へは、職員、官房部門、首長、それぞれが仕事の質を高めていくことが求められる。 職員側は、能力・資質として不足感や重要性が高い「成果志向・経営感覚」「主体性・挑戦力」「協働力・調整力」を高め、経営状況を認識した主体的・能動的な行動変容が重要である。

    官房部門は、行革や事業見直しへの「基準・ルールの策定」とその遵守に加え、職員と官房部門、住民が真に経営状況を共有化し歳出適正化への取り組みに理解が得られる進め方に力を注ぐべきである。

    そして最後の歳出適正化への進展には、「首長のリーダーシップ/決断」がかかせない。組織では、構成員は上位者の考えや動きを見て、自らの行動を決める傾向にあるため、最終的な改革の判断をしてくれるかを注視しているからである。

    そして最後の歳出適正化への進展には、「首長のリーダーシップ/決断」がかかせない。組織では、構成員は上位者の考えや動きを見て、自らの行動を決める傾向にあるため、最終的な改革の判断をしてくれるかを注視しているからである。


    人材不足下で、行政DXで時代にあわせたサービス改革、就活生等に選ばれる組織、健康経営、ウェルビーイング視点での人事、組織風土の見直し、そして持続的な行政経営に向け、成果創出への政策形成力向上に加え、対症療法から、戦略的な構造改革へ自治体経営のステージを変えていくことが求められる。

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