仏教と実業 (第26回一隅会より)

協和醗酵株式会社 会長
社団法人在家仏教協会 会長
加藤弁三郎氏 (当時の役職)

1972年8月19日、第26回一隅会においてご講演いただきました一隅会速記録をもとに、一部編集をしてお伝えいたします。
本講演内容は、ご自身の仏教とのかかわりをはじめ、仏念や在家仏教協会に関わる内容まで、実業と仏教のかかわりについて深い示唆を与えていただく講演内容です。

【第21回】4.縁が熟する - (3)

 そのときに、あれ、こりゃたいへんだぞ、なるほど、自分なんてないんだ。あると思っているが、じつはないんだ。どこにもおらんじゃないか。いままで加藤弁三郎ここにありというふうにりきんでおったけれども、そんなものどこにもないんだ。どこにもおりゃせんのだ。いったい、なにをわれと思っていままで行動してきたか。われがおらぬのに、どこに行動があるか。なにもかもむなしいものではないか。いやむなしいものであったんだ、こういうことで非常にあわてました。ほんとうにあわてたんです。これはえらいことだ。いままでの自分の考えは根底からまちがっていたんだ。これはいかん。これは仏教を学ばなければいかんということで、そこではじめて私は自分から仏教を聞くようにかわってきたんです。いままでいやでいやでしょうがない。こんちくしょうと思うようなその松原先生の話が、こんどは待ちどおしくなりました。得手勝手なものといえば得手勝手でありますが、それほど人間というものは自分がかわいいのであります。
 そしてこんどは待ちどおしく聞くようになる。ほんとに待ちどおしい。だからそのあいだ、べろっとしておれない。そこで松原先生の著書を買ってきて読む。しかし松原先生の著書、それはいろいろございますけれども、そんなにたくさんはない。そこで思い立ちまして、金子大栄先生、学生時代に自分がはからずも『仏教概論』を見つけ出したその先生、そして自分の師匠で、はじめて仏教の講義を聞いたその先生、あの先生の本を読もうということで、こんどはさらに金子大栄先生の本を片っぱしから、これは文字どおり手あたりしだいに買って読みはじめたのであります。
 さて、そうして読むほどに聞くほどに、仏教というものが、これはたにいへんな教えだ。こんないい教えがあったのに知らなかったとは、これはまあもったいないことであったということで、それからほんとうに仏教のとりこにしていただいたのであります。