入社2年目、邦雄と学ぶ「会社の数字、基礎の基礎」

 “現場”“現物”“現実”の3つの“現”を重視する三現主義の考え方は、机上の空論ではない現実に即した問題解決を図るための戒めとして、JMAが長年にわたって重視してきた考え方です。
 ますます企業経営が複雑化・高度化する中、現実を捉えた問題解決を図るには「会社の数字」に関する知識が必要不可欠な武器となります。
 そこでこのシリーズでは「会社の数字」を利用するに当たり、必要となる知識を分かりやすく解説して参ります。

営業循環基準と減価償却

「営業循環基準か。難しそうな名前だねえ」
「多くの企業は資金が1年間に何回か回転するから、1年で区切ることに意味があると言えるが、例えば醸造業などのように生産期間が何年間かに渡る場合は、資金も生産期間と一緒に循環することになるから単純に1年で区切ってもあまり意味は無い。だから、事業によっては標準的な資金を、回収までのサイクルを元に流動もしくは固定の区分を行う事が許されているというわけさ」
「なるほど、そういう事か。ところで伯父さん。建物とか機械などの固定資産は使われている過程で費用になっていくんだって言ってたよね。その費用化ってどんな仕組みでおこなわれるの?」
「減価償却って言葉、聞いたことがあるかい?それが今の質問の答えだ。減価償却は建物や機械などの固定資産の価額を、一定の規則に従って予め計算された金額で年度毎に費用化していく仕組みなんだ」
「減価償却か。名前だけは聞いたことがあるなあ。ところで、その一定の規則ってどんなものがあるの?」
「日本で一般的なのは定額法と定率法だ。名前の通り定額法はその資産の価額を耐用年数と呼ばれる標準的な利用期間で案分して費用化する仕組みで、定率法は耐用年数の間、期末の資産価額に一定の割合を掛けたものを費用化していく仕組みだ。」
「なるほど。そうすると、その耐用年数を決めることが重要になってくるねえ。それに勝手に決めて良いならいざ知らず、各企業で合理的に決めるっていうのは、かなり大変じゃないの?」
「確かにそうだな。でも日本の場合は『確定決算主義』といって企業の減価償却などが税法上も認められるには、決算上行っていることが必要なんだが、その際に選べる減価償却の方法は資産の種類毎に決められていて、その中から予め選択することが求められているんだ。だから実務上は財務省省令などで定めた耐用年数に従って行われることになるんだ。」
「なるほど、そうなのか。税法の影響力って強いんだねえ。」
「ああ。強制力を持って行われるものだし、企業の損得に直結するものだからな。そうそう、日本では制度として行われてはいないんだが、外国では加速度償却といって政策的に通常の減価償却の何倍かの償却を認める制度もあるんだ。もちろん速く償却したからといってトータルの償却額が固定資産の価額を超えるわけではないんだが、それでも速く償却することが認められれば、その分資金が速く回収できることになる。だから企業の設備投資促進などの政策的な目的で行われることが多いんだ。日本でも同様の効果を狙って『租税特別措置法』によって一定の条件の下、期間を限って耐用年数を短くしたり、一度に償却する事を認められたりするんだ。そうなれば、その設備を必要としている顧客にとって対象となる設備を購入する際のインセンティブになるだろう。だから製品開発部門はその適用条件に沿った製品開発が求められることになるし、営業部門もその情報を織り込んだ顧客への提案が出来なければ、厳しい競争の中で他社に後れを取ってしまうことになる。これからだと、消費税の10%引き上げの際に導入が検討されている軽減税率の適用条件などにも、同様のことが言えるだろうなあ。」 「なるほど。あそうだ、確かにうちの会社でもそういう情報とか、それに合わせた提案のマニュアルみたいなのが回ってくることがあるなあ」 「おいおい、そんなにのんびりしてたら同期に後れを取るぞ!!」
(続く)

<豆知識>

知的資産
 「知的資産」とは、法律上の権利である特許や著作権などの「知的財産」だけではなく、目には見えずとも企業の競争力の源泉となる資産の総称です。この目には見えないという特徴を捉え、知的資産はインタンジブル・アセット(intangible asset)とも呼ばれます。
※ 従来型の有形の資産:タンジブル・アセット(tangible asset)

 わが国でも経済産業省が、収益の向上を図るために自社の知的資産を認識し、それらを有効に組み合わせて活用することを「知的資産経営」を呼び、様々な推進施策を講じています。中でも企業実務に直結するものとして注目を集めているのが「知的資産経営に関する情報開示」です。

 経済産業省では、知的資産経営を開示・評価する意義として、開示する側と開示を受ける側の双方の立場から、以下の8点のメリットを示しています。

・主に企業側のメリットとして
(1)企業価値が増大する
(2)経営資源の最適な配分が行える
(3)資金調達が容易になる
(4)従業員のモチベーションが向上する
(5)知的資産への再投資が可能となる

・主にアナリストや投資家など「企業評価者」に対するメリットとして
(1)企業価値の分析精度が高まる
(2)企業のリスクを評価できる
(3)成長性の高い企業を見抜くことができる

 産業構造の高度化に伴い、企業経営における知的資産の重要性が今後ますます大きくなることについては論を待ちませんが、その活用に関する企業間格差は未だ大きいものがあると言えます。自社の事業構造改革を図る上で、改めて自社の知的資産について整理し、その活用を図るとともに更に高めていくことが強く求められているといえるでしょう。