入社2年目、邦雄と学ぶ「会社の数字、基礎の基礎」

 “現場”“現物”“現実”の3つの“現”を重視する三現主義の考え方は、机上の空論ではない現実に即した問題解決を図るための戒めとして、JMAが長年にわたって重視してきた考え方です。
 ますます企業経営が複雑化・高度化する中、現実を捉えた問題解決を図るには「会社の数字」に関する知識が必要不可欠な武器となります。
 そこでこのシリーズでは「会社の数字」を利用するに当たり、必要となる知識を分かりやすく解説して参ります。

流動性配列法って何だ

夕食から戻った巌と邦雄はまた話を続け始めた。
「えーとどこまで、話したんだっけ?」
「貸借対照表は、ある時点の企業の財政状態、つまり資金の調達源泉と運用形態を写した写真みたいなものだって所までだよ、伯父さん。」
「そうだ、そうだ。それで、邦雄が何か質問しようとしていたところで夕飯になったんだな。おまえ、どんな質問をしようとしたんだ?」
「うん。借方と貸方にいろんな項目があるよねえ。それぞれが、どんな内容を示しているのかを教えてもらえるとうれしいんだけど」
「そうか、分かった。じゃあ、オーソドックスに借方の資産の方から説明していこうか」
「オーソドックス?」
「ああ、資金の流れということに着目すれば、貸方から説明すべきかもしれないんだが、いきなりでは資本の部の説明が少し難しいと感じるんじゃないかと思うから、資産と負債から説明した方が分かりやすいと思うんでね。」
「そうなの。その辺は伯父さんに任せるよ。」
「ところで、資産の部の説明に入る前に、例によってもう一度貸借対照表全体、特に借方と貸方を見比べてみようか。何か気付くことはないか?」
「そうだねえ。そう言われてみると両方に流動何々と固定何々という項目名があるねえ。あ、それに両方とも流動って付く項目が上の方に、固定って付く項目は下の方に並んでいるね。」
「うん。そうやって流動性の高いものを上に、流動性の低いもの、逆に言えば固定性の高いものを下に配列することを『流動性配列法』と言うんだ。」
「流動性配列法?」
「ああ、日本はじめ多くの国々ではこの流動性配列法が貸借対照表の配列として一般的なんだ。流動と固定の区別の方法については後で詳しく説明しようと思うけど、とりあえず資産の場合は現金化できる度合いが高ければ流動性が高く、負債の場合は返済までの期日が近ければ流動性が高いと考えて良いんだ。つまり流動性配列法を採用する理由は、貸借対照表の利用者、たとえば投資家や債権者、アナリストなどが、企業の理解将来の支払能力の程度について理解しやすいように考慮されているから、というわけさ。」
「なるほど、そうなの。ところで伯父さん、今、一般的って言ったよねえ。ということは、そうじゃないものもあるって事?」
「ああ。『固定性配列法』というのもあるんだ。流動性配列法とは逆で、固定性の高いものから配列するやり方だ。たとえば社会的なインフラを担う企業などで、固定資産の割合が大きな、あるいは重要な企業などで採用されることがある。日本では電気会社やガス会社については電気事業会計規則やガス事業会計規則といった、それぞれの業種で従うべき会計に関する規則の中で、貸借対照表の配列について固定性配列法によることが求められているんだ。」
「なるほど、そういうことか。伯父さん、流動と固定の区別にルールがあるって言ったよねえ。じゃあそれについて説明してもらえる?」
「ああ、区別のルールは大きく2つあるんだ。一つは『ワンイヤールール』で、もう一つは『営業循環基準』だ。」
「ワンイヤールールと営業循環基準か。余り聞き慣れない名前だねえ。」
「まずワンイヤールールの方から説明しようか。ワンイヤールールというのは文字通り1年という期間によって流動と固定を区別する方法で『一年基準』とも呼ばれるんだ。ワンイヤールールは貸借対照表の作成日である貸借対照表日の翌日から起算して、1年以内に回収される資産を流動資産,1年以内に支払期限が到来する負債を流動負債とする基準だ。 
 ここでちょっと気を付けなければならないのは、1年というのが契約期間ではなくて回収や支払いの期限を指すという点なんだ。どういうことかというと、たとえば債権の返還を受けるまでの期間、あるいは債務の支払いまでの期間が10年間の債権や債務であっても,その回収されるあるいは支払いを受けるべき期限が、貸借対照表日から1年以内に到来するということになれば、流動資産や流動負債に分類されるんだ。」
「なるほど毎年決算をすることを前提に考えれば、次の決算までに回収や支払の期日が来るかどうかで流動と固定を区別するというのは、確かに合理的ではあるよね。」
「ああそういうことだな。ただワンイヤールールは分かりやすくはあるけれど、必ずしも合理的とは言えない場合もあるんだ。そこで、登場するのがもう一つの基準、営業循環基準というわけさ。」
(続く)

<豆知識>

移転価格と移転価格税制について

<移転価格、移転価格税制とは>  移転価格とは、同じ企業グループ内の関連会社間などで行われる取引の際に適用される価格を指します。なお、移転価格は英語の“Transfer price”の訳語で、省略してTPとも呼ばれる事もあります。
 移転価格税制(Transfer pricing taxation)とは、この移転価格が、独立した第三者間で行われる通常の取引価格:独立企業間価格(arm's length price)と異なる場合、その取引価格を通常の取引価格に引きなおして課税を行う制度のことで、わが国では1986年度から導入されています。

<制度の仕組みと導入の背景>  親会社と子会社間など関連する企業のグループ内では、様々な理由から独立企業間価格とは異なる価格で行われる場合があります。たとえば、日本の親会社(メーカー)が、製品などを外国の販売子会社に対して通常よりも高い(あるいは安い)価格で輸出する場合、小売価格が一定であれば正常取引と比較して日本の親会社の利益は大きく(小さく)、外国の販売子会社の利益は小さく(大きく)なります。
 この場合、両国の間に実効税率の差が無ければ、両者の納税額合計に変化は生じませんが、実際には国毎に税率が異なることから、取引価格の操作により全体の納税額を圧縮することが可能となることから、企業側に価格操作のインセンティブが発生します。このような取引が行われることにより納税額が減少する国は、正常な価格で取引が行われた場合との差額を課税しようとします。移転価格税制は、そのような課税を可能とするための税制です。

<制度の現状と課題>  移転価格税制を行う際の大きな鍵となるのは、独立企業間価格やその算定方法としては妥当なものは何かということです。もちろん企業による税金逃れを目的とした恣意的な価格設定は許されませんが、その一方で当事者各国により恣意的な課税が行われれば、二重課税(関係国の税務当局による重複した課税)の発生によって国際的な取引の安定性が損なわれ、結果として国際的な経済発展が阻害される恐れもあるからです。
 このような恣意的な課税を排除するために、OECDでは移転価格に関するガイドラインを定めています。加盟国である先進国では、これに沿った規定が設けられています。そのため、大量に製造販売され比較対象のサンプリングが容易な製品については、独立企業間価格の算定は比較的容易となっていますが、比較対象が少ないか全く無いような製品では、依然として比較が難しいままとなります。またサービスや無形資産(知的所有権など)は、元来それ自体の評価が難しいことに加え、経済の高度化に伴い、これらと有体物とが深く結びついて価値を生むような製品が増加していることもあり、独立企業間価格の算定が非常に困難な場合もあり、どの様な算定法が妥当かを巡って争われる原因となっています。

<移転価格税制による課税リスクを抑えるために>  移転価格税制の適用によって二重課税の問題が発生した場合は、租税条約により当事国の「権限ある当局:たとえば日本の場合は国税庁、アメリカの場合は内国際入庁」が、二重課税の排除に向けた相互協議(対応的調整)を行います。しかし、元々利害対立のあることですから短期間に調整が決着するとは限りません。また取引相手が属する国との間で租税条約が締結されていないために、二重課税が解消されないといったリスクは依然として残ります。たとえば、わが国との関係が深く取引も活発な香港については、2010年ようやく租税条約(租税協定)が締結されましたが、同じく関係が深く取引も活発な台湾との間では租税条約の結ばれていないといった状況がありますので、留意が必要です。
 このようなリスクを抑えるため、利用されているのが事前確認制度です。事前確認とは、文字通り取引に先立って企業が課税当局との間で取引価格が独立企業間価格であるとの確認を得る制度です。取引相手が租税条約の結ばれていない台湾などの企業の場合にも、一定程度有効な手段となります。

<最近および今後の動向>  課税当局の体制強化や調査ノウハウの蓄積などにより、わが国における移転価格税制の適用による課税件数が増加しています。(2000年度の39件から2012年度には222件に増加)
 これまでは、主に日本を代表する大企業や外資系の多国籍企業に対する巨額の課税などが注目されてきたこともあり、移転価格税制は中堅・中小企業にとって縁の薄い税制と考えられてきました。
 しかし課税当局は中堅・中小企業にも調査体制を広げていることや、近年わが国の中堅・中小企業の進出が増加しているアジア各国の移転価格税制執行の強化などを勘案すると、中堅・中小企業でも移転価格税制による課税は、わが国の内外で増えていくものと予想されます。したがって今後は大手企業はもとより、中堅・中小企業においても対応を進める必要があるものと思われます。