入社2年目、邦雄と学ぶ「会社の数字、基礎の基礎」

 “現場”“現物”“現実”の3つの“現”を重視する三現主義の考え方は、机上の空論ではない現実に即した問題解決を図るための戒めとして、JMAが長年にわたって重視してきた考え方です。
 ますます企業経営が複雑化・高度化する中、現実を捉えた問題解決を図るには「会社の数字」に関する知識が必要不可欠な武器となります。
 そこでこのシリーズでは「会社の数字」を利用するに当たり、必要となる知識を分かりやすく解説して参ります。

利益はどこからやってくる?(当期純利益)

「伯父さん。経常利益から更に足し引きする項目は『特別利益』と『特別損失』になっているけど、経常利益を計算するときに営業利益から足し引きする項目の名前は営業外収益と営業外費用だったよね。同じプラス項目なのに収益と利益、同じマイナス項目なのに損失と費用。この違いには何か意味があるの?」
「良いところに気がついたね。確かに伊達に名前を変えている訳ではないんだ。まずは特別利益と特別損失の何が特別なのかという所から話をしようか。
 特別利益と特別損失は営業外収益や営業費用とは違い、計上する期間の事業活動の中で生じたものではないんだ。つまり特別というのはその期の事業とは直接の関係が無く経常的なものではないということを示しているんだ。質問の収益と費用、利益と損失という名前の付けられ方の差も、いわばここから派生していることなんだ。」
「え、どういうこと?」
「経常利益の説明をするとき、営業外収益と営業外費用は企業の主な事業活動以外の活動から生じた収益や費用ではあるけれど、その期間の事業活動から生じたものであるという点では変わりがないと話したと思うんだが、さらに遡って営業利益の計算過程も思い出してほしい。本業の利益である営業利益を計算する際も、収益である売上を計上して、そこから売上原価や製造原価、販売費および一般管理費という費用を差し引いていた。つまり本業でもそれ以外の事業でも、その期間の利益を計算する過程では、収益と費用を区分して別々に計上することが求められているということなんだ。」
「なるほどそうか。経常利益の計算までは、収益が総額でどれほどあって、そこから費用をいくら払って、これだけの利益になりましたという計算の過程もも損益計算書の中で表示しなさいって事なんだね。だから、その期の事業との関係が薄い特別利益や特別損失は、期間との関連が薄いからそのプロセスを示さなくても良いということになるのか。なるほど。今更だけど、よく考えてあるんだねえ。ところで特別利益や特別損失に計上されるものって、どんなものがあるの?」
「主なものは株式などの有価証券や土地・建物などの不動産などを売却した際の利益や損失などになる。これら特別利益と特別損失を経常利益から足し引きして税引前当期純利益を計算して、更にそこから法人税などが差し引かれて、ようやく当期純利益が算出されることになる。新聞などでよく最終利益とか最終損益とか表現されているのをみることがあるだろ。あれはこの当期純利益を指しているんだ。
 日本ではこれまで会社が事業で稼ぐ力をみようということで、経常利益を重視する考え方が強かった。だけど米国では、この当期利益を重視する考え方昔からが強いんだ。それは当期純利益が株主に対する配当の原資の増減を示す項目なので、株主が注目する項目だからだといわれている。米国流の考え方が浸透するにつれ日本でも当期純利益が重視されるようになってきているんだ。でも、日本の場合はその他にもう一つ税金の問題もある様に思う。これまでは税引前の利益が計算されれば、税金はほぼ自動的に計算されるものだと認識されて来たんだが、グローバル化の進展等により、事業展開の方法などが変われば、あるいは替えれば、それによって税額も大きく変わりうるものだという考え方が徐々に浸透してきたという側面もあるんだ。」
(続く)

<豆知識>

タックスヘイブン(租税回避地:tax haven)と対策税制

<タックスヘイブンとは>
 タックスヘイブンとは、課税が完全に免除あるいは大幅に軽減される国や地域を指します。
 小さな島国など産業が発達しない国が、経済を促進するために作る事が多く、そのため今日でも一般にタックスヘイブンといえば、西インド諸島のケイマンに代表されるような、国際金融取引の中継地として利用されることを想定した制度を持つ小さな国や地域が想起されます。
 しかし、いわゆる租税競争(自国への投資を促進するため税率をダンピング、あるいは特定の所得などに対する優遇措置を行うこと)は、今日多くの国で程度の差こそあれ一般的に行われています。そのため、ロンドンの『シティ・オブ・ロンドン金融特区』こそ、実質的には世界最大のタックスヘイブンはだという主張もあります。また会社の設立や解散が容易であり、また設立社数が多いこともあって多くの判例があり、そのため判決の予測が容易といった特徴を持つことから、今でもニューヨーク証券取引所上場企業のおよそ2/3が登記上の本社を置くことで有名なデラウエア州こそ、北米で最大のタックスヘイブンだという指摘もあります。

現在のところ、タックスヘイブンに関する一元的で明確な定義はありませんが、OECD (経済協力開発機構) では、下記(1)に当てはまり、かつ(2)の (a) 〜 (c) のいずれか一つでも該当するOECDの非加盟国と地域を「タックスヘイブン」と認定するとともに、有害税制リストに記載しています。

(1)金融やサービス等の活動から生じる所得に対して課税されないか名目的な課税しかしていない。
(2)(a) 他国と実効的な情報交換を行っていない。
    (b) 税制や税務執行に関する透明性が欠如している。
    (c) 誘致される金融やサービス等の活動について、自らの国や地域で実質的な活動が行われることを要求していない。

タックスヘイブンは、先進国などにとって産業の空洞化や過度な租税競争による財政破綻を招く怖れがある、やっかいな存在です。そのため国際的に協調して、これを抑制しようとしています。
<タックスヘイブン対策税制>
 タックスヘイブン対策税制は、そのような抑制策の一つです。タックスヘイブンに該当するかどうかの判定については、かつて日本も採用していたブラックリスト方式(該当する国、地域の名前を掲げる方式)やホワイトリスト方式(該当しない国、地域の名前を掲げ、それ以外の国又は地域をタックスヘイブンと認定する方式)等もありますが、現在は実効税率などの形式要件に加え、管理支配地基準などの実質判定基準を加味して判定することが主流となっています。
 わが国でも他の先進国と同様に、タックスヘイブン対策税制をもっていますので、事業の海外点会等を考える際に考慮すべき点として、欠くことのできないものの一つといえます。

※日本におけるタックスヘイブン対策税制の主な条文:
租税特別措置法第40条の4から同法第40条の6まで(居住者の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例)及び同法第66条の6から同法第66条の8まで(内国法人の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例)

 なお先に触れた様に、一般にはタックスヘイブンといえば他に産業や資源にも乏しい国々などが想起されやすいのですが、今日ではそれ以外の国や地域にも広がっています。たとえば現在一種のブームともなっているASEAN諸国への進出を考える際、その進出の足がかりとして地域統括会社等が設立されることも多いシンガポールは、軽課税国としてタックスヘイブン対策税制の対象地域になるので、設立方法や運営について留意することが必要です。
 また平成22年の税制改正により、軽課税国か否かの判定基準いわゆる『トリガー税率』が25%から20%に低下したことで、対象国から外れたマレーシアやインドネシア等も、今後の税率の推移によっては対象国となる可能性が依然としてありますので、同じく注意を払う必要があります。