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「これからの製造現場がもつべきインテリジェンス」

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2009.9.28

言葉や表現方法は違っても目指すものは同じ

「昔に比べりゃ現場は立派になったよ。随分と楽にもなったなぁ」どこか遠くを見つめる目で親父さんが口を開きます。「でもな、ものづくりってのは、何にも変わっちゃいないんだよ」 それは困り果てたAさんが、どこか温かみを感じる言葉です。
 多くの人が働き‘カッコいい’設備が並ぶようになった製造現場。大量生産ばかりを目指すうちに、いつしか人の手に負えないものになろうとしています。それでも親父さんは「何にも変わっちゃいない」と言うのです。

親父さんが面白いことを言います。「Aさん、あんたらアーキテクチャって言葉が好きだろ?」「はい、よく使いますね」 Aさんが答えると親父さんが続けます。「あんたらが使うアーキテクチャってのはソフトウェア構造のことだよな? 昔と違って今のソフトウェアは色んな機能を持ったモジュールの集合体になってるそうで、なかなか大変らしいじゃないか?」 Aさんは思いがけず自分のフィールドに入ってきてくれた親父さんに驚きながらも言葉を返します。「はい、ソフトウェア全体の規模が大きくなってきたことで、生産性の向上を図るためにもモジュール構成を採り、多くのメンバーと共同で作業しています。でなきゃ、とても一人では作れないですからね」 真面目に答えるAさんを親父さんが挑発します「似たようなモジュールをたくさん作って、それを並べるだけでできちゃうのかい?」 親父さんらしくないな…と思いながらもAさんが答えます「違いますよ、個々のモジュールを管理する特別なモジュールってのがあるんですよ。データを管理するデータ・マネージャでしょ、アプリケーションを管理するアプリケーション・マネージャ、優先順位を管理するプライオリティ・マネージャ、それに割込みを管理するインタラプト・ハンドラとか…」 興奮したのか親父さん相手に専門用語を並べ立てるAさん、ふと我に帰り「すみません」と頭を下げます。

賢明な読者の皆さんは、親父さんがこんな話を切り出した理由がもうお分かりでしょう。ソフトウェアの構造は、役割分担が進んだ製造現場の構造によく似ています。会社の組織構造にも似ていますね。
 これらは人やモジュールで分業化された機能の集合体であり、個々のレイヤーで管理者・マネージャがそれらを統括する階層構造で成り立っています。つまり、製造現場における‘ものづくり’は、ソフトウェアにおけるデータ処理のアナロジーとして捉えることができるのです。例えば製造現場の工程間仕掛は、バッファに溜まった処理待データと考えることができます。Aさんが挙げた各種マネージメント・モジュールは班長、ラインリーダなどの管理者であったり、生産管理、品質保証、工程管理の各部門に相当します。複雑化するソフトウェアの性能を引き出す努力は、多くの人や設備を抱える製造現場の生産性向上に向ける努力と同じなのです。

なかなか気付かないAさんに親父さんが尋ねます「なぁ、並列処理だとかパイプラインだとか技術満載の大規模ソフトウェアってのはどうやって動かすんだい?」Aさんが答えます「意外に思われるかも知れませんが、実際にはとても泥臭い管理が必要なんです。きめ細やかなタスクの管理が重要で、タスクAの処理結果はまだ返ってこないから今のうちにタスクBを処理する、このデータはまた使うからキャッシュに置いておくとか、少しでもムダが無いようにCPUの空き時間を埋め、I/Oアクセス時間にメイン処理が邪魔されないような工夫をする。見掛けはカッコいいけど大変なんです」
 「あははは!」親父さんが大きな声で笑い始めます。何事か?という顔でポカーンとしているAさんの背中を親父さんが力いっぱい叩きます。「おい! お前さんたちのソフトウェアでも俺たちの製造現場でも、やってることは同じだろうが!?」 ビックリするAさん、でも何かを感じたのか、その表情からは少しだけ曇りが消えています。

製造現場の‘今’が分からない… Aさんの思考を止めた大きな課題です。Aさんはソフトウェア構造とのアナロジーの中から親父さんにこんな質問をしてみます「親父さん、ソフトウェアのモジュールには戻り値とか割込みというのがあって、モジュール自身が処理完了、異常発生などの状態変化を管理マネージャに伝える仕組みがあります。管理マネージャは伝えられた状態変化に応じて次の動作を指示するんですが、製造現場にそんな仕組みがあるんですか?」 親父さんが答えます「現場には班長とかラインリーダってのがいるだろ。あいつらの仕事がまさにそれなんだよ。とはいえ、人がやる仕事である以上、目の届く範囲には限界があるわな。ややこしい設備や人が増えたことで、現場の全てをチェックできるわけじゃない。それに見落としもあるってのが現実だな」「親父さん、いつも歩き回ってるっすもんね!」茶々をいれる若者の隣でAさんが尋ねます「親父さんの代わりを作れってことなんですよね?」

「そうだよ」親父さんは軽く頷き、続けます「Aさんよ、前に言ったろ『現場には膨大なデータがあるから、人の手じゃどうしようもねぇんだ』ってよ」Aさんが答えます「はい、覚えてます。だからこそ、どうやってその膨大なデータを集めたらいいかを悩んでるじゃないですか。仰ってることが分かりませんよ。製造現場とソフトウェア構造は確かに似ているかもしれませんが、根本的に違うとしか思えないんですよ」
 「そうだな、確かに今までのままじゃそうかもな」親父さんが答えます「製造現場ってのは、指示されたモノを作る所だ。言われたとおりに作る、その基本的な役割はこれからも変わりゃしないな。ただよ、現場がどんどん複雑になってくると管理ができなくなるんだ。例えば、昔ながらの旋盤は加工中にキーンと音を上げ、ブルブルと振動してくれる。その音や振動を『聴いて』『感じて』管理ができた。つまり設備自身が教えてくれる機能を自然と持ってたわけだ。」
 親父さんの話は続きます「わしらベテランと呼ばれる人間は、そんな設備と付き合う技量を持った人間ってとこだな。ほんの少しの変化を感じ取る技量ってわけなんだが、それにしたって設備自身が『悲鳴』を上げて『教えてくれる』からこそ分かるんだ。気付いてないかもしれないが、製造現場に潜在的に備わってた機能なんだよ。」Aさんは頷きながら耳を傾けます。
 「製造現場から『教えてくれる』機能がどんどん無くなってるんだ。それが俺たちにとっても一番の困りごとなんだ。そりゃな『聞けば教えてくれる』ってのはできるんだが、それじゃ役に立たないんだよ。『泥棒に入られてから縄をなう』なんてことでは、設備は壊れる、不良品はなくならない… そんな現場は勘弁して欲しいよな。Aさんよ、製造現場の外からどんなに聞いたところで、現場は聞かれたことしか答えちゃくれない。あんたが悩むのも無理ないわけさ」Aさんは親父さんの話は分かりましたが「じゃ、どうすれば?」と思わず口走ります。うなだれるAさんを尻目に親父さんは若者に声を掛けます「おい、あれ持ってこい!」 心得た若者が図を手に戻ってきます。

図表-6 製造現場と情報システムを繋ぐ情報連携機器

「この図はなんですか?」少々とまどい気味のAさんが親父さんに尋ねます。「製造現場を賢くするコンポーネントだ。『製造現場自身が教えてくれる』という大事な機能を今の製造現場に蘇らせる魔法の箱だな」笑いながら親父さんは説明を続けます。「まぁ詳しくはカタログを読んでくれりゃいいんだが、図の中にあるMESインタフェースってのが制御ネットワークの中で現場の状態変化を監視して、その変化をきっかけに関連するデータを自分で集め、データベースに書き込んでくれるってんだな。設備に異常が発生したとか、工程が完了したってぇ変化をきっかけにデータを集めてくれてデータベースに書き込みまでやってくれるってんだから無駄がなくていいだろ?」 親父さんの口からデータベースなどという言葉が飛び出したのでAさんはビックリですが『製造現場自身が教えてくれる』機能が実現できるという話に興味津々です。「カタログを見せて下さい」

カタログをまじまじと眺めながらAさんが呟きます「なるほど、このユニットの中に現場と情報システム間のデータ連携に必要な機能が内蔵されてるのか… パソコンが不要になるのは大きなメリットだぞ、それに通信ソフトウェアが不要って書いてあるな」

図表-7 MESインタフェースの特長(1)

「そっか、ネットワーク経由で使う設定ツールが付属してるんだな。なになに、書込み先データベースのテーブル要素と書き込むデータを指定して、データベースへのアクセス条件を設定するだけでプログラムが自動生成されるのか。このアクセス条件に基づいてMESインタフェースが勝手に指定したデータをデータベースに書き込んでくれるなんて、シーケンサのデバイスマップさえ貰えば、僕たち情報屋でも簡単に製造現場のデータを収集できるじゃないか。待てよ、これなら製造現場側の人たちでも自分たちでデータ収集とデータベースでのデータ管理ができるようになるってことじゃないか。今までなら『やっぱりこのデータも収集したい』なんて要望に対応するのは大変だったけど、これならとっても楽になるぞ。」

図表-8 MESインタフェースの特長(2)

「漠然と製造現場からのデータ収集って謳うだけじゃなくって、親父さんが『製造現場には色んなデータがある』ってのをちゃんと分かってる。生産実績とか設備稼働情報といった生産の流れを管理する情報は『MESインタフェース』で、個々の設備異常の解析用途には時間分解能の高い『高速データロガーユニット』、そして検査ステージには現場内で検査データを解析する機能を持った『MELQIC』が用意されている。 ん?この表示器『GOT』ってのは… そっか、人に近いところで人との情報のやり取りをするのか。そりゃそうだな、全てが機械で管理できるわけないんだから、これも忘れちゃいけない大事なデータ収集経路だった」

Aさんは思います「そっか、親父さんはこれを知ってたんだな。製造現場の中で親父さんの代わりをしてくれるユニットがあるってことを。でも、いきなりこのユニットの話をされても僕は理解できなかっただろう… 単に『製造現場からデータを収集』と具体的な中身を理解しないまま説明していた僕の姿は滑稽にさえ映ったかもしれないし、せっかく教えて貰ったユニットを『道具』として考えることはできなかったはずだ。このユニットも『ノギス』と同じ。役割と特性を理解して上手く使えば『親父さんの代わり』を目指せるかもしれない。それがきっと親父さんの言うところの『魂』なんだろうな」

「親父さん、有難うございました。これまでの自分が少々恥ずかしいような気がしますし、なんか吹っ切れた気がします。製造現場のことはまだまだ理解が足りませんが、全体のシステムの中でデータが流れ、突き合わされ、変化していく様がちゃんとイメージできるようになりました。そうなんですよね、製造現場もソフトウェアも『おんなじ』でした。先日ご説明頂いた『特性要因図』が、今はソフトウェアの『システム構造図』に見えます。製造現場の人も、僕ら情報システム屋も目指しているところは同じ、ただ使う言葉や表現方法が違うだけだって当たり前のことにどうして気付かなかったんでしょうね」 Aさんに親父さんが言葉を返します。

「ああ、もう安心してあんたに任せられるよ。いいかい、『ものづくり』の現場ってのは昔も今もなんら変わっちゃいないんだよ、そしてこれからもな。だからこそITが進む現在でも『ものづくり』って言葉が頻繁に使われるんだ。なにも昔を懐かしむために使ってる言葉じゃない。たとえば、設備ってのは人間と同じだ。加工性能だけを追求した設備は、やたら計算が得意だけど人付き合いができない人間みたいなもんだな。そんな融通のきかない奴、付き合い難くって仕方ないだろ(笑)本当に賢い奴ってのはどんな奴かってのを考えてみるといい。俺はもうじき引退だからよ、製造現場がそんな融通のきかない場所にだけはならないで欲しいって思うわけだ。あんたら情報屋も製造現場も、お互い『聞かれたら答える』しかしないくせに、依存心だけが膨らんだような『ちぐはぐな関係』は馬鹿らしいからな。そんなことにならないようにAさん、あんたに色んな話をさせて貰ったんだよ。製造現場はもっと『賢く』ならんといかんというか、失くしかけた機能を取り戻さんといかんのだよ。これもそのための『道具』の一つだ」

Aさんが言います「これからの製造現場がもつべきインテリジェンスとは、『ものづくり』の現場が本来持つべき機能であるにもかかわらず、人から機械への移行が進む中で取り残されてしまった機能なんですね」

「そうだな。難しいことは分からんが、俺も間もなく引退だ。安心してゆっくり隠居できるようにしてくれよな」笑いながら親父さんは煙草に火をつけました。

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