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「これからの製造現場がもつべきインテリジェンス」

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2009.8.31

製造現場の秘密

ほろ酔い加減の若者がAさんに話し掛けます「やっぱ、コンピュータってカッコいいっすよね!なんでも勝手にやってくれちゃうんだから」。Aさんは「カッコいいか」と笑いながら呟きます。
 Aさんは思います。‘カッコいい’とは使い手がやって欲しい、こうなって欲しいと思うことを自然とやってくれる姿であり、“かゆい所に手が届く”と言い換えて良いかもしれません。Aさんは親父さんとの付き合いの中で、これまで考えていた‘カッコいい’は、どうやらあんまりカッコよくなかったことに気付いています。

「ねぇ、どこがかゆいの?」Aさんの唐突な言葉に若者は「なんすか?」とチンプンカンプンです。「ごめん、ごめん」謝るAさんが続けます。「親父さんが、膨大で人の手には負えないと言っていた製造現場のデータなんだけど、これまでだって計測してたんじゃないのかな?」「計画通りか?異常はないか?ムダはないか?って、きっと何処の製造現場だって調べてるんじゃないのかい?」
 「そりゃやってるよ」若者はさも当たり前のように答えます。「設備の始業点検はちゃんと毎朝点検表に記載するだろ、不良品を数える奴も居るし、検査結果だってちゃんと検査担当の奴が紙に書いてリーダに渡すよ」「生産管理の連中は一日の出来高を集計してるし、保全の連中は設備が壊れたらなんか調べてる。品証の連中は検査結果の紙を集めてるみたいだしね」自慢げな若者の話しにAさんはどこか釈然としない気持ちになります。

Aさんが口を開きます「そんなんでいいのかい?」ポカンとする若者にAさんは「話を聞いてると、なんか大してデータを取ってないような気がするし、なによりバラバラって感じがするんだけど違うかい?」と問い掛けます。若者は「そりゃ、人が測るんだからそんな細かいとこまでデータが取れるわけないっすよ。俺たちゃ加工したり組み立てたりするのが仕事で、なんかやる度に一々紙に書き込めなんて言われたら仕事になりゃしない。それに、生管、品証、保全ってそれぞれの視点があるんだから、それぞれの部署が一番やり易いやり方でやればいいんじゃないっすか?」 若者の機嫌が悪くなりそうな気配を察したAさんはワザとこんな質問をしてみます。「今のやり方を便利にしてあげたらいいってことだね?」若者がうなずくのを確認したAさんが続けます「じゃ、加工・組立を担当してる君たちだけが知ってる製造現場の秘密って教えてくれないかい?」
 薄ら笑いを浮かべながら若者が面白いことを教えてくれます。「設備って、けっこう停まるんすよ」「ワークがちょっとずれたとか、なんかよく分かんない理由とかでね」「でもさ、復帰ボタンとか押すと直っちゃてまた動き出したりするんだよね」「よくあるでしょ?テレビでも叩いたら直るってさ」
 「それって、設備停止記録とか日報に書かないの?」Aさんが尋ねると若者はあっけらかんと答えます「しょっちゅうあるんすよ。一々書いてるわけないじゃん」。「空いてる設備でやった方が早い」「どれがどれだか分からなくなることがある」「不良が出始めるまで交換しない」などなど、若者が語る‘製造現場の秘密’はAさんの想像を遥かに絶するものです。Aさんの頭の中にあった“製造現場は管理されたもの”という勝手な思い込みが完全に吹き飛びます。

「これだけの秘密に溢れた製造現場なのに、手に入るのは勝手に丸められた結果や実績データがあるだけで、それも部署ごとにバラバラに集められてる。中には握りつぶされてた‘事件’まであるなんて、これじゃどんな立派な情報システムを構築したって機能するわけないじゃないか…」

親父さんは、製造現場を見つめる上で基本となる大きな視点(「品質」「コスト」「納期」「環境」)と、個々の要因(「人」「部品」「設備」「方法」)の関係に加え、それぞれの要因ごとに「ファンダメンタル」と「安定稼動」の視点から集めたデータを相互に連携させる仕組み(QCDE×4M)を製造現場の管理に役立てたいと言います。
 Aさんは、データ‘管理’を支援する仕組みを作ることで親父さんの期待に応えたいと思ったわけですが、ここに大きな思い違いが見つかります。そもそもデータが存在しないのです。製造現場の変化は(たとえ手作業でも)何らかの形でデータとして収集されているものだという勝手な思い込み、それが単なる絵空事だと知ったAさんの頭の中は真っ白になります。

帰宅したAさんは、若者の話をもとに一つの表(図表-5)を描きます。本来であれば、表の縦方向・横方向の連携を考えるために用意していた表なのですが、いつの間にか製造現場におけるデータ収集の課題を考える表へとその役割を変えています。

図表-5 データ収集における課題

Aさんが呟きます「本当に欲しいデータがどうして手に入らないの?」「人手の限界? 部署の壁? そもそもデータ間、部署間の連携なんて考えられていない?」 様々な思いが頭の中を駆け巡ります。そしてAさんは一つの結論に辿り着きます。

「製造現場の‘今’が分からない状態で何を考えたってムダじゃないの?」

データありきで考えていたAさんは大きな方向転換を余儀なくされます。「これは厄介だぞ」Aさんの正直な思いです。「個々の設備の動き、モノの流れ、そして生産状況を常時モニターする。それも作業者に負担をかけることなくだ。」「いつ、どこで、何が・・製造現場の5W1Hを知るための仕組み、親父さんが現場を歩いて目を光らせているのと同じことをやらないといけないってことか」「えっ…」Aさんの思考が止まります。「親父さんの代わりをする…って」

翌日、Aさんは親父さんに泣きつきます。「情報システムに、全ての製造現場に対応しろというのは無理なんです」「考えれば考えるほど、ダメなんです」 Aさんは様々な製造現場を思い浮かべながら夕べ一晩中考えました。そして膨大なQCDE×4Mの組合せの中に埋もれる自分に限界を感じています。そんなAさんに親父さんは笑いながら話し掛けます「あはは、誰も情報システムに何もかも押し付けるつもりはないよ」「えっ?」Aさんは思いがけない言葉にキョトンとしてしまいます。

次回は、親父さんが笑った訳をお話しながら「これからの製造現場が持つべきインテリジェンス」として、製造現場は高性能化を求めるばかりでなく、もっと違った意味でも賢くなるべきじゃない?ってお話をさせて頂きます。

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