ものづくり応援ニュース一覧

「これからの生産技術者の役割」

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2009.2.25

これからのものづくりにおける工場の姿
1. 戦略の位置づけ

戦略とは何か?一言で表せば、「企業の持つさまざまな資源をどこにどのように使っていくのかを明確にしたもの」と定義することができる。戦略は基本理念に基づき、ビジョンを具現化するために必要なものである (図表1-5)
 基本理念は企業の存在価値や果たすべき使命を明確にしたものである。その意味で基本理念は普遍的なものである。一方、ビジョンは、基本理念をベースとして企業がある時点までに到達したい姿や目標を明確にしたものであり、戦略はビジョンを実現するために必要な方策や仕組みを明らかにしたものである。
 戦略にはさまざまなものがある。自社の事業ドメインを定め、各事業のバランスをとり企業を成長させる仕組みや方策を明確にした企業戦略があり、この企業戦略をさらに具体的に展開するためにブレークダウンした事業戦略がある。事業戦略は企業戦略を受け、それぞれの事業部におけるビジョンを達成するための仕組みや方策を定めたものである。そしてこれらの企業戦略や事業戦略を具現化するために、企業の各機能分野(R&D:Research & Development、HR:Human Resource、財務、生産、営業など)においてビジョンを達成するための機能戦略を設定する。機能戦略には技術戦略、商品戦略、生産戦略および販売戦略などがある。
 どのような戦略も、それは単独に存在するものではない。どんなに良い商品戦略があっても、生産戦略が貧弱であれば、ねらった製造品質やコストが達成できずに良い商品を創出することができなくなる。各種戦略はビジョン実現に向けて有機的に連携して構築されることで、事業を成功に導いていくのである。

図表1-5 基本理念と戦略

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これからのものづくりにおける工場の姿
2. 生産戦略と技術戦略

商品戦略、生産戦略等の各機能戦略を推進していくためには新たな技術が必要になる。それは短期的に実現できるものもあれば中長期な視点で計画的に検討しなくてはならないものもある。
 生産戦略はさまざまな視点から検討される。例えば、将来の生産拠点のあり方(マザー工場、コスト工場)や、工場計画、内外作方針、調達方針、物流方針、設備導入計画、新規工法の導入等である。
 これを受けて、生産拠点は各拠点がターゲットとする市場の動向や競合を含めた事業環境から、活動方針を決めていく。その際、国内および海外の生産拠点に求められる事業としての位置づけを明確にすることが必要である。
 生産拠点検討の例としては、最近は生産基地としてだけでなく、市場としての将来性を見て中国やロシアに拠点を展開する例もある。同様に、グローバルの視点からマザー工場をどこにするかについての検討も重要となる。
 工場計画は拠点方針に基づき、各工場がどのような生産方式を展開するかの計画である。内外作の方針は自社で生産するものと外部に生産依頼するものの方針を明確にするものである。内外作区分の視点としては技術、チャージ、設備の有無、生産能力等が考えられる。また、調達方針は調達先の評価の仕方や各調達先への対応方針等を明確にするものである。
 物流方針は顧客と各生産拠点、および各拠点とサプライヤーの位置づけや、生産方式から効率的な物流経路や搬送計画、搬送形態を設定するものである。物流を自社で行うか、運送業者と連携を図っていくのか等の検討も必要になる。
 スマート、スピーディでコスト開発力のあるものづくりを独創的な方法で実現できれば、大きな優位点となる。ものづくりのブラックボックス化は競争優位の大きなポイントである。このためには、製品の機能や品質・コストだけでなく、ものづくりの競争力を強化するための工法開発・設備開発など先行生産技術の開発が重要になる。その際、生産技術戦略を事業の技術戦略に落とし込み、資源配分を行い、技術を作り込んでいくことが必要なのである。

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これからのものづくりにおける工場の姿
3. 工場機能革新

事業環境が変化しているなかで、工場には生産方針を長期的視点で設定し、実行していくことが求められ、従来の“製造拠点”としての位置づけから、事業を展開するための戦略拠点としての位置づけが重視されている。「ものの供給拠点」から「ものの価値コントロール拠点」への要求が高まっている。「ものの供給拠点」としては、顧客の要求するものを製造して提供すること、製品を使用するときに必要なサプライ品を製造し顧客に提供すること、使用した製品やサプライ品を回収して顧客にリユースとして提供するなどが基本機能である。
 さらに最近は、こうした基本機能だけでなく、工場を“顧客に対して価値を提供するフロント”として位置づけ、「もの価値」だけではなく、「こと価値」提供拠点として位置づける方向にある。
 たとえばDELLコンピュータでは工場を顧客要求への対応カスタマイズの最前線と位置づけ、顧客のカスタマイズ発注を工場が直接受け生産している。また、ソニーは、工場に顧客サービスの機能を設置して、メンテナンスサービスを提供している。製品だけでなく、顧客に、より近接したところで「こと価値」を提供しているのである。
 工場の機能革新の代表例として、図表1-6に示すようにソニーEMCS(Engineering Manufacturing Customer Service)があげられる。「EMCS」とは、生産部門を本体から切り離し、設計から調達、物流、顧客サービスまで一貫運営する、設計・生産プラットフォームである。

図表1-6 “ソニーEMCS”にみる工場機能革新

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これからのものづくりにおける工場の姿
4. マザー工場の役割

日本の製造業はグローバル化の中で進化してきた。多くの製造業が1985年のプラザ合意以降、コスト競争に勝つために海外で製造インフラを確保する活動を展開した。しかし、現在、一部の企業は生産の日本回帰の動きを見せ、海外で生産するものと、日本で生産するものを明確に区別して展開している。
 こうした中で製造業における工場機能は大きく2つに分かれる。
 1つはグローバルな見地からコスト競争力のある「コスト工場機能」。もう1つは新たなものを生み出し、育てて、グローバル展開の基盤を作る「マザー工場機能」である。マザー工場は日本の場合もあるし、海外にある場合もある。もはや日本だけにマザー工場が存在するという概念では狭すぎるであろう。
 マザー工場のマザーたる所以は「生んで」「育てる」ことができるからである。「生む」役割は何か。それは新製品や新技術の開発、新工法開発、設備開発、新製品の量産技術、ライン合理化検討、生産準備、運用確立である。一方、「育てる」役割は確立技術や生産思想、スキル伝承、運用方法のグローバル展開にある。マーケティングも含めて新たな製品開発や技術開発を展開し、最先端の生産技術や工法、および企業としての生産思想までを世界の工場に伝播していく母胎の役割を担っているのがマザー工場である。
 企業におけるプロダクト技術、コア技術、そして独自の測定・評価技術などのマザー技術の位置づけを明確にして技術優位性を維持強化していくこともマザー工場の重要な役割である(図表1-7)

図表1-7 “マザー工場”の役割

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これからのものづくりにおける工場の姿
5. 垂直立上げ

現在、厳しい環境の中で製造業にとっては、計画通りに商品を上市することがきわめて重要になっている。計画通りに商品を上市するとはどういうことか。
 1つは、目標としたQCD(品質、コスト、納期)で上市することである。そのために、生産準備段階、量産段階で計画通りに進め、スムーズな商品立上げを実施することを垂直立上げという。垂直立上げはグローバルな視点でも求められる。市場戦略として、日本市場を含めた世界4拠点(日本、中国、欧州、アメリカ)同時立上げということが事業環境から求められるケースもあるのだ。
 垂直立上げを実現するには開発・設計段階からの取組みが重要で、生産準備や量産プロセスをスムーズに通過するためには、源流段階からのコンカレントな取組みが不可欠である。設計構想段階や図面レビューから生産技術が関与することも有効で、CADやCAEといった開発設計支援ツールの活用も不可欠である。設計段階でシミュレーションを行うことで試作の精度を上げ、手直しや手戻りなどを減らすことができる。
 垂直立上げを実現するには、商品開発の各フェーズで、それぞれの機能が何を検討して、何をアウトプットするのか、活動のマイルストーンを設定して関連部門が連携していくことが重要である。生産技術部門も同様で、垂直立上げにおける生産技術の役割はきわめて大きい。
 垂直立上げの事例を自動車業界でみてみよう。
 自動車はグローバル市場へ向けてグローバルな開発・生産を展開している業界である。図表1-8に自動車の新車開発期間の変遷と世界同時発売の事例を示す。自動車の新車開発期間は1980年代の48ヶ月から短縮化が進み、2001年以降は車体が共通のものについては、開発期間は9ヶ月にも迫ろうとしている。多くの車種をモデルチェンジしながら上市していくために、車体の共通化や部品の標準化、開発・設計ツールの積極的活用、試作回数の削減、試作期間・調達期間の短縮化を実現することで、開発期間の大幅な短縮化を実現している。このためには企画〜開発〜設計〜生産技術〜製造にいたる関連機能部署の有機的な連携が不可欠で、このような開発期間短縮インフラをベースにグローバル市場に対して世界同時発売に向けた垂直立上げを可能にしている。

図表1-8 自動車の垂直立ち上げ展開

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これからのものづくりにおける工場の姿
6. 工場機能が変わってきた(生産準備、量産段階フィジカルフェーズでの役割)

工場機能革新、マザー工場化、垂直立上げ……などを実現するにあたって、工場は単なる生産機能ではなく、サービス・メンテナンス機能も有し、商品開発の中で重要な役割を果たしている。垂直立上げで開発期間を短縮するには開発設計部門と生産技術部門が有効に連携しあうことが必要なのである。
 CADやCAEのような開発支援ツールの効果は語られているが、それに合わせて生産部門の設備や治具情報のデジタル化が進んでいるわけではない。開発や設計フェーズの試作レベルで評価がOKであっても生産準備段階で問題が起こることがある。たとえば、試作段階で技能者の高いスキルで生産不可能なものまで加工してしまったり、あるいは生産現場の設備変更情報が設計者にフィードバックされていなかったりするのである。
 そう考えると生産技術は、製品、設備・治具などの「もの」情報(フィジカル情報)と、生産準備・量産段階(フィジカルフェーズ)で発生したさまざまな情報をデジタル化して開発設計(デジタルフェーズ)にフィードバックすることも重要な業務として位置づけられる。このような展開を実施するために、生産技術の中に生産に関連するデジタル情報を整備するスタッフ機能が求められる。

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