すでに紹介してきたように、「ロスとリスク」を一貫した概念としてとらえ、企業全体の最適化を図る保全体制を構築するために、日本プラントメンテナンス協会では「経営に資する戦略的マネジメントシステム(MOSMS
/ Maintenance Optimum Strategic Management System)の構築」として研究を行っている。
この研究の一環として、「プラントの危機管理に関する研究」(プラントの危機管理研究会)を行っている。
MOSMS では、「保全」を以下のように定義している。 「企業の永続的な経営を可能にし、経営者、従業員、顧客、株主などの利害関係者(ステークホルダー)の利益を最大にするために、プラントおよび設備の全ライフサイクルの各段階で期待される機能を保ち、それによってサイト内・外のロス・リスク低減に寄与する役割および組織的機能」
この「プラントおよび設備の全ライフサイクルの各段階」とは、リスクマネジメントが対象とする全ライフサイクルの各段階に相当する。
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MOSMS は、「日本発の保全マネジメントシステム」である。この「日本発」が意味することは、現場が自ら守るという姿勢であり、一方「マネジメントシステム」が意味することは、経営の要求に応える力(「保全経営力」と呼んでいる)である。後者のマネジメントという点については、やはり欧米が進んでいるということができる。
そこでこの度、「プラントの危機管理研究に関する研究」に関する成果
として、『経営から生産現場まで 実践リスクマネジメント−リスクベースドとは何か? その本質と事例』を刊行した。
MOSMS 構築において、とくにマネジメントとは何か、それがリスクベースドであるとはどういうことかを理解することに役立てていただきき、MOSMS
における「保全戦略の策定」およびMOSMS 全体の管理サイクルの維持に対して、強力に支援できるものと考えている。
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| 1. 法規・法律の“
増殖” と欧米の“ 後追い” 日本 |
日本国内では、生産に関わる法規・法律が増えるばかりである。加えて、たとえばJIS(日本標準規格)は法律ではないのだが、「専門家である以上、JIS
を知っていないとコトが起きたときに罪に問われる」という時代になっている。知っていたのに対処していなければ、さらに罪が重くなる。
こうした法規・法律および規格・基準の“ 増殖” に対して、生産現場はなかなかついていけない。実際、事故が起きなければ知らずに済む場合も多いのだ。かといって、無視していればコトが起きたときに対処できない。
では、コトが起きたときに対処できるとは、どういうことであろうか?
すべての業種において、「できる人の量が少ない」「ベテランでも質は落ちている」といった人材の量
・質の問題が経営の最大課題と言われている。この人材低下が極端に現れる(もしくは露呈する)局面
、それこそコトが起きたときといえるであろう。
日本に比して、欧米は戦略国家、契約社会というだけでなく、日本よりとうから先に“人材問題”
を認識した社会と見ていい。これに対処していくために、リスクマネジメントが必然的に発達してきたのである。
そして今、日本はリスクマネジメントの世界潮流に否応なく飲み込まれ、欧米の“
後追い” で法規・法律および規格・基準の制定、改訂を遮二無二行っている。
こういう時代に、「決められた文書・手順どおり、おとなしく管理されていればいい」という意識では、最早、現場は保たない。ISO
の認証レベル(つまり文書管理レベル)の意識では、役に立たない仕事が増えているだけである。
では、いかにホンモノのマネジメントにしていけばいいのか?
まず、リスクマネジメントの世界的動向を概括し、本質の流れを汲み取り、氾濫する法規・法律・規格・基準をいかに統合的に理解するか、そして受身でなく、これらを効率的に使って主体的なマネジメントに結び付けていくかがカギである。
国際的な機械規格体系の中で、なぜリスクアセスメントが「最上位
」に位置付けられているか−−この視点から世界的動向を把握されたい。
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| 2.マネジメントの効果
が二極分化してきた |
もう一つ重要なことは、欧米においてもリスクアセスメントの
効果が二極分化してきていることである。
1980 年代後半、米国では化学プラントの事故・災害が頻発した。そのため、1990
年初頭は米国プラントの危機管理に関する規格・基準の誕生ラッシュに至る。API(American
Petroleum Institute /米国石油協会)の「プロセス危険マネジメント」(AIchE
/ American Institute of Chemical Engineers、米国化学工業協会)や、米国連邦法OSHA(Occupational
Safety and Health Act /米国連邦労働安全法)にPSM(プロセス安全マネジメント)が導入されたところが代表的である。
それから、20 年弱経過している昨今、米国のプラント事故が減ったかというとそうでもない。これをとらえて、「だから欧米のリスクマネジメントは役に立たない」というのは、表層的な見方といえる。
米国においても、リスクマネジメントへの取組み姿勢によって、大事故を起こす企業か起こさない企業か二極分化してきているのが真相である。すなわち、たとえば米国OSHA/PSM
は監査体制を基本としているが、これを効率的に使って主体的なマネジメントに結び付けている企業と、ただ監査を受けているだけの企業では、大事故の発生確率に格段の差が現れているのだ。
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| 3.リスクベースド・アプローチとシステムセーフティ |
『経営から生産現場まで 実践リスクマネジメント−リスクベースドとは何か? その本質と事例』は、生産現場における「リスクベースドとは何か?」を把握し、いかにリスクマネジメントを実践すればいいかを、わかりやすく示すために編まれたものである。
生産活動に伴うリスクは、装置・機器類を含む製品の開発設計段階から、調達・製作・調達・据付・試運転・運転・検査整備および廃棄段階に至る全ライフサイクルの各段階において発生する。
生産現場で人・モノ・情報・環境に対して損傷・被害をもたらす要因を事前に特定し、そのリスクを推定評価するリスクアセスメントを主体とするリスクベースド・アプローチ型のリスクマネジメントの概念は、1960年代の米国で生まれた「システムセーフティ」に遡る。「システムセーフティ」とは、システムの全ライフサイクルの各フェーズを通
じて、運用上の実際面と適合性、および時間とコスト面で拘束される中で、事故の潜在的な大きさと発生確率の視点から、容認できるリスクを達成するためのエンジニアリングおよびマネジメントの原則、基準、技術を適用することを言う(MIL-STD-882)。
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| 本書には、このシステムセーフティの概念に織り込まれているリスクベースド・アプローチ型のリスクマネジメントを、生産現場の多様な業務に活用するための基礎事項つまり“
肝” がつまっている。 |
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本書は、5 つの部で構成されている。
第I部
第II部
第III部
第IV部
第V部 |
「リスクバースド型マネジメントの必要性」
「リスクマネジメントプログラムの策定」
「リスクマネジメント・マップ」
「合理的な取組みのために−Q&A」
「グローバル生産時代の
『リスク・トラブル教訓集』−事例・判例」
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とくに第V部では、リスクベースド・アプローチ型のマネジメントの欠如によって、わが国の産業界で発生したリスク事例を通
じて、現状のリスクマネジメントの問題点を赤裸々に表した。グローバル生産、海外輸出に関わる企業では身につまされる話ばかりであるし、国内の法的状況も刻一刻と世界標準に近づいているから国内型企業にも必読の内容である。
これまで「プラントの危機管理研究会」では、プラントのリスクマネジメントおよび危機管理研究に関する教育プログラムの開発・実施を中心に活動してきた。本書をまとめるに際して、講座の受講者から得られた質問や要望事項をふんだんに生かしたつもりである。
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