連載開始にあたって
はじめに
(2008年3月25日up)
製造業デジタル化
への機運
(2008年4月25日up)
デジタル情報が
現場を変えるか
(2008年5月26日up)
技能伝承、見える化
などの促進へ
(2008年6月26日up)
生産技術と製造現場
を支える3D CADへ
(2008年7月25日up)
<最終回>
3D データ軽量化
へのニーズ
(2008年9月1日up)
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3D データ軽量化へのニーズ (2008年9月1日up)
 それでは、3D CAD が普及すると、後工程の業務にどのような変化が起こるのだろうか。3D CAD はあくまで設計支援のツールであり、専門家以外が使えるような道具ではない。設計が承認された後は、設計された3D データを参照することはあっても、修正することはできない。現場では、3D データを参照しながら必要な情報を引き出して仕事をすることになる。設計部門に3D CAD が普及すればするほど、後工程では図7のような問題が起こる。具体的には以下のとおりである。
(1) 機能や性能の向上とともに、最終的な製品が複雑化している。設計者は、CAD の性能向上とともに、複雑な製品の完全な3D モデルを構築しようとする。フィレットや細かな穴、ネジ、ボルトからワイヤハーネスまでを3D 表現しようとすれば、データ量は膨大になる。ハイエンドCAD ではもちろん、ミッドレンジ系のCAD でも、最近では数十人規模で利用しているところも増えている。結果 的に、個々のデータはCAD で設計できるが、CAD では製品全体が見えないという問題が起こっている。3D CAD で設計したにも関わらず、製品の全体が3D で確認できないのである
(2) 64 ビット対応のパソコンが出現し、3D CAD の多くが64 ビットに対応しつつある。64 ビットパソコンにメモリーを積めば、数ギガバイトのCAD モデルでも設計していくことが可能だ。しかし、実際には、このようなCAD 専用のパソコンは設計部署に配備され るに過ぎない。後工程の廉価なパソコンでは、このような複雑化する製品形状を、手早く表示することは困難である
(3) モノづくりはグローバル化している。日本で設計して、世界中の製造拠点で製造をする。日本で設計された3D データをセキュリティを保ちつつ世界に配信するという仕組みが必要である。世界の拠点では、次の製造物の確認をして段取りをしたり、日本から指示され た組立指示書に従って製造する。日本では当たり前のブロードバンドも先進途上国の製造拠点では、まだまだ普及の途上にある。巨大化したデータをなるべく小さなサイズで送る必要があろう。これには巨大化する3D CAD データは適していない
(4) 1 つの製品は多くの部品から構成される。各部門のニーズから、複数のCAD を導入している企業も多い。また、外注先も同じCADを使っているとは限らない。モノづくりの現場には、複数の種類のCAD データが集まってくる。これに合わせて複数のCAD を揃える わけにはいかない。この結果、後工程では、単一のフォーマットでデータを管理したいというニーズが生まれる
(5) CAD は設計のツールである。製造工程には、製造するための工程情報や組立情報、検査情報など、モノづくりのために必要な情報がある。CAD 情報にはこれらは含まれていない。そこで、3D データに何らかの方法でこれらの情報を付加して、製造現場で扱う仕組み が必要になる。
これらの課題を解決するためには、CAD データをできるだけ忠実に再現する軽量 な3D データ形式と、それを手軽に表示・編集するツールが必要になるだろう。軽量 な3D 形式は、ラティス・テクノロジー社のXVL を始めとして、2000 年代の初頭より提案されてきた。他にもCADメーカーからは、ドイツ・シーメンスグループのJT や、フランス・ダッ ソーシステムズ社の3D XML が提唱されている。また、米国のアドビ社はドキュメントフォーマットの標準であるPDF の内部で3D を扱う仕組みを提供している。
3D CAD の普及が加速するとともに、設計部門には3D データが蓄積していく。この蓄積された3D データをモノづくり現場で利用するためには、使い回しの効く軽量 な3D データが必須になってきたのである。
   
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[ 軽量3D データXVL の出現 ]
 ここでは、モノづくりのための3D フォーマットとして開発され、日本の製造業にもっとも普及しているラティス・テクノロジー社のXVL について、開発の経緯に沿って、あえてユーザーとは逆の視点で、XVL を開発元の立場から、どのような意図を持って技術開発が行われてきたのかを説明しよう。図8にXVL の特徴をまとめておく。
(1) 軽量性と精度の両立
 1990 年代にインターネットが出現すると、テキストだけでなくイメージや映像データに加え、3D データ流通の必要性も叫ばれるようになった。このような動きに応じて、94 年にVRML(Virtual Reality ModelingLanguage)というWeb 環境での3D 表現手法が提案され、97 年にはVRML97 としてISO で国際標準に認定された。VRML では3D 形状は、ポリゴンという平面の集まりで表現する。しかし、ポリゴンでは実際の製品のCAD データを表現するには不十分であった。曲面データを精度よく表現しようとすればデータ量 は急速に増加し、当時のネット環境では到底利用できるようなものではなかった。
 そこで筆者らは、ラティス社を97 年に設立し、データを軽量 化する手法の研究開発に着手した。ポリゴンではなく曲面 でデータを持つことで、精度を落とさずにデータを軽量 化するのである。当然のことながら、CAD データと同等の曲面 表現をしていては、データは重くなる。そこでラティス社では、曲面 データを持たずに、必要最低限の情報から曲面情 報を再構築するという手法で、データ量 を削減する手法を考案した。与えられた精度内で曲面 情報が再構築できるとシステムが判断すれば、その曲面 情報を削除する。データ量の大きな部分を占める曲面 データを削減することで、XVL のデータ量は劇的に小さくなり、元データの50 分の1 〜 150 分の1 程度に軽量化可能になった。2000 年当時のネット環 境でも、3D データを転送して表示・確認するということが可能になったのである。

図9にVRML97 とXVL を対比させて図示する。多数のポリゴンで表現されたVRML の21549K バイトのデータは、XVL で は520K バイトで表現できる。

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(2) 無償のXVL Player の提供
 次に考えたのは、このXVL というフォーマットをいかに普及させるかであった。技術が優れているからといって普及するとは限らない。そこで、XVL を表示する表示ソフトウェア XVL Viewer(現:XVL Player)を無償で配布することにした。XVL Viewer は、99 年末にマイクロソフト社のブラウザInternet Explore のプラグインソフトとして提供した。

当初、3D 表示をするだけであったXVL Viewer は、アニメーション再生機能も搭載してXVL Player として進化し、現在に至っている。これは、製造業でCAD データを軽量化し、組立工程をアニメーションで海外にも伝えたいというニーズに応えたものである。もちろん英語版も提供されている。
  現時点で最新のXVL Player Ver9.1 は、製品の構成情報に加え、3D断面 を取ったり、計測といった機能も無償で提供している(http://www.lattice.co.jp からダウンロード可能)。CAD から伝達された製品の構成情報や属性情報、XVL 編集ソフトを利用して、3D 形状に対して与えたコメントや、組立工程を再現するアニメーションが安価なパソコンさえあれば、モノづくり現場で参照することが可能になった。
図10にXVL Player の例を示す。断面や計測機能までカバーしているので、モノづくり現場で必要な情報を手軽に取り出せるようになった。

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(3) 属性の表現
 以上のような取組みによってXVLは技術的に高く評価され、国内外で権威ある賞をいくつも受賞した。デモをすれば、毎回お客様へ大きな驚愕をもたらした。しかし2000 年初頭には、製品として購入するお客様は少なかった。それは、市場が成熟してなかったことと、3D でクルクルと表示するだけではモノづくりに貢献することは難しいとされていた、という2 つの理由であった。CAD データがこれまでの100 分の1の時間で転送され、表示される。しかし、それだけでは「面 白い技術だね」という評価で終わってしまうのである。
 当然のことながら、モノづくりでは、設計が決めてから後工程に伝えたい情報、生産技術部門が決めてから後工程に伝えたい情報、工場などの現場で決めてから、さらに後工程に伝えたい情報、あるいはそれぞれの工程から前工程に伝えたい情報がある。これらの情報は3D の形状だけでは到底表現できない。こうしたお客様のニーズに応えて、XVL は 構成情報、色や注記、寸法、アニメーションなどを次々と表現できるように成長していった。さらに、各要素には属性が付加できるようになっている。XVL はもともとXML(eXtensible Markup Language)で表現されている。XML は情報に構造を持たせて表現ができる。したがって、属性情報と3D 情報の連動が容易であった。軽量な形状情報と、モノづくりの現場の必要とする情報とを連携して送れるようになってはじめて、XVLを利用したアプリケーションを買っていただけるようになった。  
図11にXVL で扱える情報の種類をまとめておく。
扱える属性は、大きく分けてCAD で定義された情報を継承するもの、XVL を扱うソフトウェアにより追加・編集可能なもの、外部とのデータのやり取りに使われるものの3 種類がある。CAD で定義された情報をそのまま継承するものとしては、形状や構成情報、色などのマテリアルがある。また、XVL を扱うソフトウェアにより付加できる情報として、注記や寸法、視点などの表示状態を保存しておくためのスナップショットなどがある。 さらに、アニメーションの定義や、干渉計算の結果 もXVL 内に保存しておくことができる。そして、外部とのデータの入出力ができる情報として、部品情報や工程情報などがある。これらにより、既存のシステムからデータを取り出したり、表計算ソフトの中に情報を埋め込むなどして、情報を有効に利用できる基盤がある。
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(4) 大容量データ対応
 2000 年初頭は、ナローバンドのネット環境で3D をどう流すかということがラティス社のテーマであった。しかし、やがてネット環境は徐々にブロードバンド化していった。一方、3D CAD での設計が普及してくると、データはどんどん肥大化していった。これまで、3D 設計していなかったものまで、厳密に3D 設計するようになったからである。さらに、64 ビットパソコンとそれに対応したCAD の出現がこの動きを加速する。次に発生した課題は、たとえば10 ギガにもおよぶ自動車1 台分の大容量CAD データを、いかに高速に、しかも普通 のパソコンで表示できるようにするかであった。
 2003 年、再びこのテーマへの挑戦が始まった。極限までメモリー消費量 を落とし、しかもパソコンのグラフィックスの構造に最適な形で形状データを保持することで、高速な形状表示を可能とした。競合する技術には、データ全体を読み込まずに見える部分だけ読み込むという手法がある。しかし、実際の仕事上では、多くのケースに断面 を切って形状を確認する。見える部分だけを読み込むという手法では、断面 計算時に全体を読み込まなければならないので、どうしてもレスポンスが遅くなる。この手法では、実際の仕事上問題を起こすだろう。そこで、XVL では、全体の形状を読み込んでも、メモリーを消費しない方法を工夫した。

 こうして、CAD を使っていては表示すらできないギガバイト規模のデー タを表示可能としたのである。
 図12に複雑な形状の表示例を示す。オートデスク社のInventor で設計した8600 部品を超える設備の形状も、オフィスにあるパソコンで表示可能になる。拡大すれば、ボルトの1 つひとつまできちんと表示されていることが確認できる。

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(5) 豊富なアプリケーション
 2000年初頭には、CAD/CAM/CAE 以外で、製造業に貢献する3D ソフトウェアとは何なのかがユーザーも筆者らも明確にわかっていなかった。設計にも3D CAD は十分に普及しておらず、まして後工程で3D データを活用してモノづくり手法を変えていこうという考え方は、ほとんど相手にされなかった。ラティス社では、約5 年間かけて製造業各社を回り、軽量な3D データを使って業務改革をするためのアプリケーションを揃えていった。現在では、設計部署向けの設計検証製品と、生産技術と工場のための情報を共有し、現場の力を引き出すための製品とを提供している。
 大容量データを利用して一括干渉計算を行うことで、設計上の問題を未然に防ぐことができる。大規模な工程を検討したり、それをアニメーションとして工場に伝えることもできる。帳票に3D 情報を加えることで、豊かな情報を後工程に伝えることもできる。3D 形状から手軽にイラストを生成するといったことも可能になっている。このように、現場で利用してもらえる製品群がようやく揃っていった。
 このように、XVL は日本のモノづくり現場で鍛えられながら成長してきた。軽量 3D データの基本性能には、軽量性、省メモリー性、高速表示の3 点がある。XVL は2008 年現在、この3 点で世界有数の性能を持っている。64 ビットパソコンのような高価なハードウェアを使っても高速表示は依然大きな問題のままだ。発展途上国のネットインフラもすぐ に改善することはないだろう。工場にあるパソコンが、ギガバイト級のメモリーを持ち、巨大データの3D 表示ができるまで、あと何年かかるだろうか。
 ラティス社では、このような問題を解決するために、XVL の技術開発を行ってきた。上流の設計部門で3D 設計が進めば進むほど、下流での3D データ活用のニーズは膨らむ。設計者の数に対し1 桁も2 桁も多い人間が、3D データを参照することになるのだ。現場での3D データ活用には、今後ますますXVL のような軽量3D データが必須になるだろう。
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