コラム『経営の羅針盤』

2013年12月24日

17 言葉と思考
イメージをつくる言葉

日本能率協会 JMAマネジメント研究所 リーダー
長沼明子

◆ ひらがなに「ほどく」

「こんぐらがった問題をひらがなで置きかえてほどいていこう」という話を聞いたときにはっとした。下北沢の本屋の一角で開かれた、東京経済大学教授で、博報堂の生活総研エグゼクティブフェローの関沢英彦氏の講演会での話だ。

 この話は「ひらがな思考」というタイトルの講演会で、ひらがなに置き換えることで「やさしく・ふとく」考えることができる、すなわちきちんと本質を捉えた思考がしやすくなるという話の一端である。

 ひらがなだけとは限らないが、使う言葉でイメージがだいぶ変わる。たとえば「会議への参加」をするときに、「話しあう」なのか「伝える」なのか「聞く」なのか、どの心持で赴くかによって、大きくイメージが変わる。たいていは複数の意味をあわせもって使われる場合が多いだろうが、どれを上位意識に持つかによって、同じ参加でもスタンスが変わることになる。

ほかにもたとえば「戦略の共有」という言葉を考えてみる。「共有」の方だけ試しに置き換えをはかってみても、「知る」「伝える」だけでなく、「しみこむ」「ひびく」という言葉も考えられる。後者レベルの方が本当は目指しているニュアンスだとしても、前者の行為をもって終わらせることが実は多いのかもしれない。

 「それってどういうこと」「つまり…?」を繰り返して、本質に焦点をあてる思考が、ひらがなに置き換える中に含まれている。それを関沢氏は「ほどく」という言い方をしていた。無意識に行っている人も多いかもしれず、子どもの素朴な問いというのが、本質をついているという点で共通しているように思う。

◆ 具体的に「動く」へ

ひらがなにするとは、本質に焦点をあてるというより、「具体」をイメージする作業かもしれない。何が論点か、それに対する回答または意見は何か、ということが端的にわかりやすく伝わると、時間短縮にも、また手戻りの少なさにもつながる。しかしさらに大事なのは、行動するかどうかだろう。

 その点でも「ひらがな思考」が有効なのではないかと関沢氏の話を聞いた後に思った。たとえば「情報共有の必要性」や「組織変更に伴う役割の見直し」、「事業拡大の施策検討」という言葉が並ぶと、意図はわかるが、誰が、いつ、どのように、というニュアンスがどうも感じづらい。「必要性」の代わりに「やりましょう」、「見直し」の代わりに「変えます」、「検討」の代わりに「考える」「調べる」などと置くと、動くイメージが出てくる。もちろん動詞か名詞かという違いもあるし、必ずしもひらがなだけというわけではない。また、漢字や熟語が本質を表せないわけではまったくない。

しかしあえてひらがなを使って、具体的に、わかりやすく、話し言葉に近づけていくことが、ビジネスシーンにおいては、「論じる」止まりを防ぐ一つの手段になるのかもしれない。

関沢氏はこの講演の最後に、『古今和歌集』仮名序の中にある、「(やまと歌は)力をも入れずして天地を動かし」という一節にコミュニケーションの原点があると述べた。武力でも政治力でもなくとも、天地を動かすほどの力が歌にはあると言う。和歌に象徴されるような、心に思うことを表す言葉にこそ力があるということであろう。言葉によって、ストーリーや熱をどれだけ訴求できるかということは、ビジネスシーンでもっと活かせる余地があるのではないか。「ひらがな思考」をその一つとし、個々人で自分の使う言葉に向き合ってみることが、仕事の原点として実は大事なことではないかと思った機会であった。

コラム バックナンバー

経営の羅針盤28

〜グローバル人材〜 『海外の学修で人材基盤を豊かに』

経営の羅針盤27

〜醸成されつつある新たな市場〜 『「提供する価値」から「関わる価値」へ』

経営の羅針盤26

熱冷めやまぬワールドカップ観戦に思う 『ビジネスリーダーの認識力』

経営の羅針盤25

GOOD FACTORYに学ぶ(1) 『工場の一体化、安全教育、人を大切に』

経営の羅針盤24

ブラジル・ワールドカップに寄せて 『日本の競争力とは何か――』

経営の羅針盤23

これからの人と組織(4) 『変化する企業活動における成長と個人の成長』

経営の羅針盤22

社会人1年目調査にみる事務系社員の揺れる心 『ブラックかホワイトかの議論の前に――若者よ、“額に汗して働こう!”』

経営の羅針盤21

市場創造のヒント 『中国でスパイラル・アップする日本企業経営』

経営の羅針盤20

組織、顧客、社会に向けて誠実な企業を目指して 『行動を問う戦略』

経営の羅針盤19

アジアの優良企業に学ぶ!!(3) 『新興国での工場立ち上げの苦労話』

経営の羅針盤18

これからの人と組織(3) 『「日本企業の経営課題2013」調査からの考察』

経営の羅針盤17

言葉と思考 『イメージをつくる言葉』

経営の羅針盤16

都市生活の未来 『"ハードウェア"から"ハートウェア"へ』

経営の羅針盤15

ラストフロンティアが持つ2つの素顔 『民主化と開発の裏で―ミャンマー・レポート』

経営の羅針盤14

"Measurement"の世界を超える 『シンガポール・ヒューマンキャピタルサミットからの考察』

経営の羅針盤13

組織内時計 『組織の「常識」を疑うことが新たな発見と気づきにつながる』

経営の羅針盤12

日本の強みについて(2) 『続・伊勢遷宮に寄せて』

経営の羅針盤11

ドキュメンタリー映画『もったいない!』を観て 『顧客ニーズと社会問題解決の関係を考える』

経営の羅針盤10

アジアの優良工場に学ぶ(2)!! 『2013 GOOD FACTORY賞5社6工場に決定』

経営の羅針盤09

アジア《共・進化》に向けて 『「借景」でアジア事業を描く』

経営の羅針盤08

これからの人と組織を考える(2) 『変化する「個人と組織・社会」の関係性』

経営の羅針盤07

たくさんの「花が開く」を目指して 『キャリアの「引き出し」を増やす動き』

経営の羅針盤06

組織の存在意義とは 『「である」ことと「する」こと、「し続ける」こと』

経営の羅針盤05

新入社員調査にみる「成長させてほしい」若者たち 『AKB48が次代のイノベーター!?』

経営の羅針盤04

アジアの優良工場に学ぶ!! 『2013 GOOD FACTORY賞審査 いよいよ始まる』

経営の羅針盤03

日本の強みについて 『伊勢遷宮に寄せて』

経営の羅針盤02

日本企業、存立への道 『アジアと共に進化する』

経営の羅針盤01

これからの人と組織を考える 『多様性を受容し、育む』

シナプスな考察07

できるビジネスパーソンの「To doリスト」活用術

シナプスな考察07

別添資料 週間To Do リスト(Excelデータ)
※zip形式の圧縮データを解凍してください。

シナプスな考察06

「グローバル」意識の変化を見る

シナプスな考察05

気づくために「学ぶ」

シナプスな考察04

「社会」と「企業」をどのように捉えるか

シナプスな考察03

社会が求める企業像―日本に安定した雇用を供給しての「日本企業」

シナプスな考察02

グローバルで戦える人材とは

シナプスな考察01

就職活動の準備に際して持っておきたい視点〜自己分析と企業研究を始める前に〜