コラム『経営の羅針盤』

2013年11月11日

14 "Measurement"の世界を超える
シンガポール・ヒューマンキャピタルサミット
からの考察

日本能率協会 経営・人材センター 企画開発グループ マネジャー
小峯郁江

◆ 多様性に富むカンファレンスに参加して

2013年9月11日〜12日の2日間、シンガポール リゾートワールドセントーサにて、シンガポール政府などが主催する第6回シンガポール・ヒューマンキャピタルサミットが開催された。シンガポール国内、シンガポール近隣のアジア諸国、そして欧米諸国より、人事実務家や専門家約650名と30名以上のスピーカーが集結し、大会統一テーマ“Future Proofing”の下、各企業・組織の将来を確かなものにするための人材戦略と具体的施策について知見を深めた。アジアの中心であるシンガポールの地の利が十分に活かされ、そこに集う人々と内容において非常に多様性に富むカンファレンスであった。

本カンファレンスの中でも最も高い評価を得ていたのが、ボストン・フィルハーモニー交響楽団の指揮者、Mr. Benjamin Zanderによるクロージングセッションであった。会場の参加者全員による合唱や、ユーモアに富んだ語りで、参加者を魅了し続けたエネルギッシュなセッションは、75歳というMr. Zanderの年齢さえも忘れさせるほどであった。人生のトランスフォーメーションを聴衆に語りかけるMr. Zanderが、自らそれを実践しているのだと知ると、そのエネルギーの所以もよくわかる。トランスフォーメーションをドライブするのが、私たちの中にある「可能性」。「可能性」はどんな人の人生も豊かにする。それに気づいたときに希望や勇気が湧いてくるセッションであった。以下、Mr. Zanderのキーワードを中心にご紹介する。

◆ 私たちの「認識」について考えてみる

まずは私たちの「認識」について考えてみる。何かの事象に対して、私たちは自身の経験や私見による"思いこみ"に基づいて解釈をしている。しかしながらそれらは単に私たち1人ひとりが認識可能な範囲の世界を通して見ているだけで、決して真実ではない。つまり認識はすべて“invented”でしかないのである。

例えば、私たちは日常、誰かが誰かより優れている、何かが何かより良いと判断している。それらは決められた指標、枠の中で生き残りをかけた“Measurement”の世界の話でしかなく、ただの“invented”、ゲームに過ぎない。一方、あらゆる可能性があると考えたときには、違った世界が見えてくるはずである。その実践事例として、Mr. Zanderは自身が教鞭をとるクラスの学生に対して、学期初めに、全員にA評価を保証し、学期中自由な発言や感情表現を認めたエピソードを紹介した。A評価が約束された学生たちは、自身の中にある情熱や創造性を存分に発揮することができた。

“Measurement”の世界では、人々はリスクを冒すことや失敗を恐れる。しかしながら失敗をせずに私たちが学べることは何もない。私たちの成長のためにも“Measurement”の世界を超える必要がある。

私たちが“Measurement”の世界でよく遭遇するのは、競争や対立の構造である。それらをうまく乗りきるための方法として“Don't take yourself seriously”を提案する。

私たちは生まれてから成長の過程で、自分の個性を築きながら自分が生きるための居場所を確立する。大人になり社会的ヒエラルキーの中に入っては、名誉や富を得るために周囲をコントロールしたがり、自分の安定した生活を脅かすものには警戒を示す。しかしながら自分が充足されるために何を変えるべきかを考えれば、自分を過大視しないことである。“Measurement”の世界で決められた社会的地位や権威ではなく、真の自分の姿に基づく行動に、周囲の人々も共感しそれに続くはずである。

◆ “Measurement”の世界を超える

オーケストラにおける指揮者の役割がそうであるように、組織におけるリーダーの役割も、組織のメンバーがそれぞれ、自分たちが何者であるかに立ち返り、素のままにその感情を解き放つことができるように、変革のリズムをとり、環境をつくることが重要なのではないだろうか。またリーダー自らが自身の殻を破って“Measurement”の世界を超える必要もあるだろう。

◆ 1人ひとりが明日からできること

会社組織はまさに“Measurement”の世界。組織体制、人事評価の仕組みといった、現在の組織運営の基礎を取り払って、マネジメントにMeasurementを超える思考を適用するのは非常に難しい。Mr. Zanderの音楽の世界と比較すると、自由度が高いアーティスト集団と社会的規律の中にある企業を重ねあわせることも簡単ではない。

しかしながら明らかにそこにイノベーションのヒントがあるとするならば、会社組織の仕組みの変革を待つのではなく、私たち1人ひとりが明日からできることがあるのも確かである。自身の思考の枠を変えてみる、あらゆる可能性を考えてみる、作り上げられた自分像を捨てて本当の自分とは何かを問うてみる。1人ひとりがこれらを実践できたときに、組織の中にも新しい可能性が生まれるだろう。

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