コラム『経営の羅針盤』

2013年9月24日

11 ドキュメンタリー映画『もったいない!』を観て
顧客ニーズと社会問題解決の関係を考える

日本能率協会 JMAマネジメント研究所 主管
大和佐智子

◆ 映画が私たちに伝えたいこと

数々の賞を総なめしたドキュメンタリー映画『もったいない!』(原題"Taste the Waste")が先週の土曜日にやっと上映された(恵比寿/東京都写真美術館ホールで9/21〜10/11まで、順次全国へ)。「やっと」というのは、2011年秋にドイツで公開されたにもかかわらず、日本では配給先がなかなか決まらず、上映まで2年も要してしまったからだ。

このドキュメンタリー映画を簡単に紹介しよう。ウィーンの街を自転車で駆け抜ける2人の若者、その彼らがゴミ箱を漁るシーンから始まる。彼らはちゃんとした家も職も持ちながら、まだ食べられるものをゴミ箱から拾い出し、それらを日々の食料とする。浪費社会への抗議、れっきとしたゴミ箱ダイバー(フリーガン/freeganという)なのである。「自分で買うのはオリーブオイルくらいかな」と笑いながら答えるシーンは、屈託がない。日本の消費社会にどっぷり浸かった私にとっては、別のやり方での行動も出来るだろうに……。このとき私は違和感を覚えた。

ところ変わってフランス。巨大スーパーマーケットで店員が「賞味期限前」の食品を廃棄していく。他店との競争もあって品揃えは欠かせないし、"消費者は新鮮なものを望む"ので賞味期限前とはいえ処分は仕方ないと、事も無げに店員はいう。それゆえ、小売店は消費者の欲求を先取りするために、高級食材であっても大量に処分せざるを得ないのだという。

世界では8人に1人が飢餓に苦しみ、5歳未満の子どもは5秒に1人が命を落としている(「世界の食料不安の現状2012」から)。さらに言えば、先進国では食用として生産されている3分の1の13億トンが無駄になっているという事実。日本でも毎年捨てられている食べ物の量は1,700万トンにのぼる。

◆ 大量破棄される食料

世界でも最も老舗が多いといわれる日本。一般的に老舗とは創業30年以上を指すが、100年以上の長寿企業が日本は多いことでも知られている。そうした長寿企業の多くは顧客満足を第一に掲げ、顧客から信頼を得て、日本の社会に根付いてきたといえよう。日本能率協会(JMA)が1991年に提唱したCS(顧客満足)経営は、企業理念や創業の精神を脈々と受け継いできた老舗企業のように、多くの企業も顧客満足度を高めるための経営のあり方を科学的に取り入れようというものだ。

いまやCS経営は企業に深く浸透し、顧客ニーズの先取りは当たり前のこととなり、競ってよりよい商品やサービスを提供してくれる。そのお陰で消費者や利用者は、これまで以上にすばらしい商品やサービスを享受できるようになった。誰もが信じて疑わない「顧客ニーズ」の提供を、企業の惜しみない努力によって成し遂げられているのだ。

だが、得てして顧客は暴走する。曲がったキュウリや小さな傷のあるナス、形の歪なジャガイモ、磨かれていないリンゴ、賞味期限には関係なく1日でも古い牛乳は買わない。実は、この行動は私自身である。

昨今では、リンゴにワックスを塗らないことを敢えて謳ったり、味に変わりはないことを表示して価格を下げ投売りをするスーパーマーケットも増えた。だからこそ、売り切ってしまうのだろうと思っていた。これが先の大量廃棄につながっているとはイメージ出来なかったのだ。

だが、生鮮だけでなく加工品も同様に、日本では食品製造、流通、消費の段階で年間1,700万トンの食品が廃棄されているという。本来は食べられるのに廃棄されているものを「食品ロス」と呼ぶが、これは前述の廃棄される量の1,700万トンのうち、まだ食べられるはずのものは500〜800万トンに上ると推定される(国連食糧農業機関、農水省)。内訳は規格外、返品、売れ残り、外食産業の食べ残しといった事業系の食品ロスが大半であり、あとは家庭から排出されるものだ。われわれ消費者の意識と行動の変容はもちろんだが、こうした事実を企業も看過してならないといえまいか。

◆ 改めて問う、顧客ニーズとは―

「顧客ニーズの先取り」――。JMAが毎年実施する経営課題調査のマーケティング領域で重視する課題でも常にトップに挙がるテーマだ。しかし、ゴミ箱ダイバーのような消費者も出現する時代。企業が提供する商品は高品質であることはもちろん、環境負荷を与えないものから安全・安心できるものへと移り、いまや社会問題に配慮した視点が求められているのだろう。

なお、この映画には廃棄食品の一部を家畜の飼料としてリサイクルする日本の例も紹介されている。この映画を見終えたとき、ノーベル平和賞を受賞した女性活動家ワンガリ・マータイ氏を思い出した。彼女が「MOTTAINAI」という行為に感銘を受け、一躍世界にも通用する言葉にしてくれたのは記憶に新しい。この言葉だけでなく、日本が社会問題の解決に向けた企業行動を経営にビルトインできるのも、「もったいない精神」を理解できる日本人なればこそと、心に留めて実行することではないか。

上映初日にこの映画を日本に紹介した作家の川口マーン惠美氏がトークショーで語った言葉がある。「食産業の目的は、いかにして国民のお腹をいっぱいにするかではなく、いかにしてお腹いっぱいの国民に食料品を買わせるかになってしまった」。考えさせられる映画であることは間違いない。

ドキュメンタリー映画「もったいない!」:http://mottainai-eiga.com/

コラム バックナンバー

経営の羅針盤28

〜グローバル人材〜 『海外の学修で人材基盤を豊かに』

経営の羅針盤27

〜醸成されつつある新たな市場〜 『「提供する価値」から「関わる価値」へ』

経営の羅針盤26

熱冷めやまぬワールドカップ観戦に思う 『ビジネスリーダーの認識力』

経営の羅針盤25

GOOD FACTORYに学ぶ(1) 『工場の一体化、安全教育、人を大切に』

経営の羅針盤24

ブラジル・ワールドカップに寄せて 『日本の競争力とは何か――』

経営の羅針盤23

これからの人と組織(4) 『変化する企業活動における成長と個人の成長』

経営の羅針盤22

社会人1年目調査にみる事務系社員の揺れる心 『ブラックかホワイトかの議論の前に――若者よ、“額に汗して働こう!”』

経営の羅針盤21

市場創造のヒント 『中国でスパイラル・アップする日本企業経営』

経営の羅針盤20

組織、顧客、社会に向けて誠実な企業を目指して 『行動を問う戦略』

経営の羅針盤19

アジアの優良企業に学ぶ!!(3) 『新興国での工場立ち上げの苦労話』

経営の羅針盤18

これからの人と組織(3) 『「日本企業の経営課題2013」調査からの考察』

経営の羅針盤17

言葉と思考 『イメージをつくる言葉』

経営の羅針盤16

都市生活の未来 『"ハードウェア"から"ハートウェア"へ』

経営の羅針盤15

ラストフロンティアが持つ2つの素顔 『民主化と開発の裏で―ミャンマー・レポート』

経営の羅針盤14

"Measurement"の世界を超える 『シンガポール・ヒューマンキャピタルサミットからの考察』

経営の羅針盤13

組織内時計 『組織の「常識」を疑うことが新たな発見と気づきにつながる』

経営の羅針盤12

日本の強みについて(2) 『続・伊勢遷宮に寄せて』

経営の羅針盤11

ドキュメンタリー映画『もったいない!』を観て 『顧客ニーズと社会問題解決の関係を考える』

経営の羅針盤10

アジアの優良工場に学ぶ(2)!! 『2013 GOOD FACTORY賞5社6工場に決定』

経営の羅針盤09

アジア《共・進化》に向けて 『「借景」でアジア事業を描く』

経営の羅針盤08

これからの人と組織を考える(2) 『変化する「個人と組織・社会」の関係性』

経営の羅針盤07

たくさんの「花が開く」を目指して 『キャリアの「引き出し」を増やす動き』

経営の羅針盤06

組織の存在意義とは 『「である」ことと「する」こと、「し続ける」こと』

経営の羅針盤05

新入社員調査にみる「成長させてほしい」若者たち 『AKB48が次代のイノベーター!?』

経営の羅針盤04

アジアの優良工場に学ぶ!! 『2013 GOOD FACTORY賞審査 いよいよ始まる』

経営の羅針盤03

日本の強みについて 『伊勢遷宮に寄せて』

経営の羅針盤02

日本企業、存立への道 『アジアと共に進化する』

経営の羅針盤01

これからの人と組織を考える 『多様性を受容し、育む』

シナプスな考察07

できるビジネスパーソンの「To doリスト」活用術

シナプスな考察07

別添資料 週間To Do リスト(Excelデータ)
※zip形式の圧縮データを解凍してください。

シナプスな考察06

「グローバル」意識の変化を見る

シナプスな考察05

気づくために「学ぶ」

シナプスな考察04

「社会」と「企業」をどのように捉えるか

シナプスな考察03

社会が求める企業像―日本に安定した雇用を供給しての「日本企業」

シナプスな考察02

グローバルで戦える人材とは

シナプスな考察01

就職活動の準備に際して持っておきたい視点〜自己分析と企業研究を始める前に〜