コラム『経営の羅針盤』

2013年8月12日

8 これからの人と組織を考える(2)
変化する「個人と組織・社会」の関係性

日本能率協会 理事 JMAマネジメント研究所 所長
柴野睦裕

◆低下する日本人の働きがい

日本能率協会グループで6月末に行なった「第1回ビジネスパーソン1000人調査」働き方に関する意識アンケート調査の結果が発表された。その調査結果のトピックスとして、働き盛りの30代・40代の半数近くが「仕事にやりがいがない」「能力が発揮できていない」と感じていることが明らかになった。
(詳細はhttp://www.jma.or.jp/news_cms/upload/
release/release20130724_f00212.pdf

日本人の働きがいは『失われた20年』のなかで低下し続けてきており、あらためて驚くような調査結果でもないと感じる方も少なくないだろう。しかし、企業の競争力の向上が格段に求められている状況において、その競争力の最大の源泉は社員一人ひとりの自発性や創造性の発揮にあることを考えると、この結果は企業の様々な取り組み努力にも拘らず危機的な状態が続いており改善されてはいないと言わざるをえない。

この問題は、社会環境、市場環境、産業構造、雇用環境、組織環境といった複合的な要因によって形成されており、その処方箋は容易に示されるものではないが、特に「個人と組織」「個人と社会」の観点から見解を述べてみたい。

◆「個人と組織」の関係性

「個と組織」の関係においての「仕事のやりがい喪失」「能力発揮不全」であるが、一言でいうと『夢と希望の喪失』であろう。勤務している会社が長年にわたり業績が伸びず、先行きの不透明感により将来不安が高まりつつある……頑張っているのに個人業績が上がらず、懸命に働けど給料が上がる見込みが薄い……周囲の仲間と一体感をもって仕事を進めている実感が乏しい……自分のやりたい仕事ではなく、成功体験も積めず、将来の自身のキャリアが描けない……等々。このような思いに日々悶々としながら、ビジネスパーソンとしての生活を続けている人が多いのではないだろうか。

もし、少しでも共感される方は、大事な人生において負のスパイラルに陥らないよう気持ちを立て直すべきである。「不安と葛藤」を放置しておくと、自己防衛本能が先行し、『リスク回避→他責→自己正当化』という状態が慢性化し、意欲喪失や生きる意味さえ見失ってしまう病的状態に陥りがちになるからである。

いかなる状況に直面しても、前向きに取り組んでいく活力を維持するための努力は欠かせない。つまり、自分の確固たる判断軸や行動軸を持てるよう日々研鑽することであり、そのためには難しい仕事や困難な仕事こそ厭わずにチャレンジして成功体験を積むことが、個人にも求められている。

一方、組織の観点からは、バブル崩壊後の企業業績の低迷による「採用抑制」「ポスト不足」「賃金抑制」「成果主義導入」といった要因が、上記のような社員の『夢と希望の喪失』をもたらしたといえよう。日本のピラミッド型の企業組織が、高度経済成長期には十分に機能していたことは周知の事実である。しかし、「昔は良かった」と懐旧するだけでは、この問題の解決にはつながらない。むしろ、かつての施策のツケが今の時代に回ってきていることを真摯に受けとめるべきである。

一つは、「新卒一括大量採用」である。顕著な例として、バブル期の大量採用(40代後半)がある。その後の採用抑制で後輩の育成経験に乏しく、従業員自身が自らのキャリア開発やキャリアデザインに責任をもつといった「キャリア自律」への意識が薄く、ポスト不足のなかで滞留している人が多い。そのため、今後の処遇に苦慮している企業組織が多いのも事実だ。とかく、キャリアについては本人の問題にしがちであるが、真の問題は「一括大量採用した企業の社会的責任を果たす努力をし尽くしたか」および「世代の価値観、仕事観、キャリア観の違い(5年程度で大きく違う)について深く理解し、個人の立場に立って対話し育成する努力をしてきたか」ということではないだろうか。

今の時代に必須である組織人事の課題と照らすと、前者の問題は「個を活かす」ことを、後者の問題は「多様性を受容し育む」ことを怠ってきた証となる。採用活動は、「企業が必要とする人材(個)」と「個人が共感し、そこでの活躍と成長を希望する企業」とがマッチングしなければ互いが不幸になる。新卒に限定しない多様な採用活動と、自社の理念や活動に共感する人との出会いを大事にする採用活動が望まれる。

もう一つが、「長期雇用」である。高度経済成長期には「年功」が重視され、長期にわたる組織への貢献が評価尺度であった。賃金も生涯賃金で帳尻が合うように設計され、社員は安心して先輩の指導のもと経験を積むことで、企業に貢献してきた。しかし現在では、職能給から役割・職務給へと制度変更する企業も増え続け、仕事の価値による評価尺度に変わりつつある。すなわち、日本企業の仕事観の特徴であった「人ベース」から欧米型の「仕事ベース」へと大きく方向転換している。

ここでの問題は、雇用環境の変化に対応しきれていない多くの社員が存在していることと、「仕事ベース」での処遇に変えたにもかかわらず職務設計や育成方法を適切に変更しきれていない企業側の両面にある。高齢者雇用安定法の改正により65歳までの雇用が義務化され、大学新卒者は43年間も勤めることになる。果たして、43年間もの長期雇用を守れると保障できる経営者がどれほどいるだろうか。冷静に現実を直視し、互いにWIN-WINとなりえるよう「組織と個人」の関係性を見直し、適切な施策を再構築すべきときが来た。

例えば、外部組織との長期的な協業の促進、事業に関連する兼業の奨励、中途退職者の再雇用制度の拡大や、究極的には優秀な人材のアウトフローの奨励など、雇用契約に柔軟性をもたせることも、優秀人材の獲得など長期的な企業経営にプラスとなるのではないだろうか。

◆「個人と社会」の関係性

安倍政権で成長戦略を支える人材戦略の目玉として、「失業なき円滑な労働移動の実現」が打ち出された。その一つとして、「バブル期入社のミドル層を成熟産業から成長産業に移すために、民間の人材業界の方と多様な『人活』支援に向けて実証実験を行う」という取り組みがある。人材流動化を促進することにより、産業を活性化し、個人がチャレンジしやすい社会環境に変えていくことに異論はない。しかし、そのためには長期雇用慣行や退職金制度等の仕組みの見直しなど、阻害要因の是正と社会的セーフティネットの整備が不可欠である。
働く個人が企業に依存してきた時代から、個人・組織・社会が対等な関係性を築きながら、それぞれが健全な成長を目指す時代へと変わりつつある。

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