コラム『経営の羅針盤』

2013年5月27日

3 日本の強みについて
伊勢遷宮に寄せて

日本能率協会 JMAマネジメント研究所 主管
肥本英輔

◆太古のDNAが甦った!?

今年は、伊勢神宮の式年遷宮の年だそうだ。
ご存知の向きも多いと思うが、ものの本によると、天照大神ほか、お祭りする神様方に常に新しい社殿にお住まいいただくために、内宮(ないくう)、外宮(げくう)すべての社殿を20年ごとに建て替える事業を指す。
室町時代の一時期を除き、1300年続いてきたといわれる。
建替えの方式は、厳密にはいろいろとあったようだが、古式にのっとりまったく同じ様式の質素な社殿を、隣接する東西2箇所の敷地に、20年ごとに交互に建てる方式が連綿と続けられてきた。

筆者は、三重を訪ねたついでに、今話題のお伊勢さんでもと軽いノリで足を延ばしてみたのだが、まさか、これほど感じ入るとは思ってもみなかった。
それは、数年前にタンザニアの農村を訪れたときに味わった郷愁と似た、なんとも懐かしい不思議な感覚だった。太古のDNA=森の記憶が、立ち込める朝の光、鳥のさえずり、杉木立の匂いに反応したのだろうか。
信仰心のない私は、神域のパワーというものを信じないはずだが、この優しさ、清らかさ、おおらかさは何だ、このすがすがしい空気はどこから生まれてくるのだ・・・などと、いろいろな思いがない交ぜになって、ちょっと興奮気味に内宮めざして宇治橋をわたる。伊勢の森を横切る五十鈴川の清流が朝日に輝いて、素直に美しい。白木の橋も凛として潔い。これこそ日本人の心の奥底に息づく最も日本的なる美意識に違いない。
初めて伊勢神宮を訪れた筆者は、日本人であることが急にうれしくなった。世界に誇れる本当の本物を見つけた気がしたのである。              

◆常若(とこわか)の美学

本題に戻ろう。日本の強みについてだ。
その前に1つ、笑い話がある。
「先生、高野山は世界遺産なのに、なぜ伊勢神宮は世界遺産にならないのですか?」
「式年遷宮といって、20年ごとに建てかえるでしょ。だから世界遺産にはなれないのよ」

宗教の思想には、普遍(不変)なるものへの憧れがある。仏教の古刹は1000年を超えて現代に超然と生きている。比叡山の法灯も1200年、絶えることなく細い灯火をつないでいる。
もちろん仏教だけではない。洋の東西を問わず、宗教建築は普遍(不変)の象徴として強靭な意志と英知で築き上げられたものが多い。これらは、高度の緊張感とともに常に永遠を希求する。
しかし、伊勢神宮を訪れて、普遍(不変)のかたちはもっと優しい素直なやり方で維持できることに気がついた。つまり、社殿が古くなるたびに建て替えればよいのである。
自然に対峙するのではなく、自然に寄り添う普遍(不変)のかたち。長い伝統を大切に守りながら、常に若々しい世界を維持すること。
破壊と創造の二項対立ではなく、循環のサイクルのようなもの。もちろん、それはそれで長期に継続することは苦しいはずだ。しかし、日本人の感性にあっているのだろう。これからも当たり前のように続けられるにちがいない。
これを「常若(とこわか)」というのだそうだ。

さて、日本の強みとは何か。
筆者としては、この柔らかな思考様式、奥ゆかしい心の持ち様こそが、世界に誇る日本の強みといいたいのだが、果たして、どうだろうか。

参考文献:『永遠の聖地 伊勢神宮』千種清美 著 株式会社ウェッジ 刊


この秋、天照大神が引越しされる新しい社殿(工事中)

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