コラム『経営の羅針盤』

2013年5月13日

2 日本企業、存立への道
アジアと共に進化する

日本能率協会 JMAマネジメント研究所 副所長
近田高志

◆「アジアの世紀」の実現に向けた動き

アジア開発銀行が2011年8月に発表した『Asia 2050 - Realizing the Asian Century』は、2050年までに世界のGDPに占めるアジアの比率が52%に達することを予測している。 一方で同レポートは、その実現のためには、貧困問題の是正、雇用創出、技術革新、教育制度、効率的な都市づくり、省エネルギー・環境対策、交通システムの整備、効果的なガバナンス体制づくりなど、様々な課題を乗り越える必要があること、それと同時に、アジア各国による地域協力・統合の重要性がますます高まっていくことを指摘している。

この域内経済統合に関しては、ASEAN地域では2015年に計画されているAEC(ASEAN Economic Community)に向けた議論が活発になされている。統合されると人口6億人となる巨大な市場が、域外からの直接投資を呼び込み、そして、域内の経済交流を促進することによって、アジアの成長を実現しようと動き出しているのだ。

筆者は2013年2月にタイ・バンコクにおいて開催された『ASEAN Business Forum 2013』(主催:Thailand Management Association)に参加した。そこにはASEAN各国の政治家や経済団体の首脳、各国の現地企業や外資系企業の経営幹部、学識経験者がパネリストとして登壇。AEC統合後の時代に向けた課題として、ASEANにおける域内貿易の促進、サプライ・チェーンの強化、物流網の整備、中小サプライヤーの育成、優秀人材の確保・育成などをテーマに、2日間わたってディスカッションを繰りひろげていた。

聴衆にはタイ人のみならず、周辺国や現地の企業の幹部、さらには現地に進出している欧米企業の幹部や金融機関関係者と思われる方々も含めて500人ほどが参加し、熱心に情報交換をしていた。力強い成長のポテンシャルを秘めたASEAN地域に対して、内外から大きな関心が集まっていることを体感することができた。

◆求められる「汎アジア」の視点

このような動きは日本企業にとって、どのような意味を持つだろうか。AEC統合に加えて、「ASEAN+3」(日本・中国・韓国)ないしは「+6」(加えてインド、オーストラリア、ニュージーランド)、あるいはTPPとの連動もあり、日本経済への影響は極めて大きい。

また、先述のとおり、アジアは大きな成長の可能性をもっているものの、その過程には大きな課題が山積している。それは取りも直さず、企業にとっては大きな役割期待=ビジネス・チャンスである。さらに市場が統合されることで、それまでの各国ごとのビジネス規模とは比べ物にならない、大きなスケール・メリットを享受できるようになるだろう。

それを実現するためには、企業には今まで以上に「汎アジア」の視点での事業構想が求められるのではないだろうか。各国ごとの個別の事業展開ではなく、統合されたアジア市場の視点でのサプライ・チェーンの構築、マーケティング、ブランド展開、アフター・サービス体制、情報システム構築といった施策が必要となる。一方で、統合されるとはいえ異なる各国の文化や風習に適応した細やかな商品開発も重要だ。そのためにも、現地化に対応できる組織やマネジメント体制づくり、さらには人材の育成が鍵となるだろう。

もちろん、多くの日本企業にとってアジア市場は最重要ターゲットであり、多くの経営資源が投入されていることは紛れもない。しかし、どれくらいの企業において、統合されたASEANという視点のもとに事業の構想がなされているだろうか。また、各国現地法人の幹部も、日常業務に追われ、全体を俯瞰し構想する余裕を失ってはいないか。先ほど触れたフォーラムには、残念ながら聴衆に日本人の参加者がほとんど見当たらなかった。

日本能率協会は昨年、70周年記念提言『共・進化の提唱』において、「アジアと共に進化しよう」ということを主張した。今一度、自社がアジアと共にどのように成長していくか、アジアのダイナミズムを吸い込むことでいかに「共・進化」するのかを議論してはどうだろうか。

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