仏教と実業 (第26回一隅会より)

協和醗酵株式会社 会長
社団法人在家仏教協会 会長
加藤弁三郎氏 (当時の役職)

1972年8月19日、第26回一隅会においてご講演いただきました一隅会速記録をもとに、一部編集をしてお伝えいたします。
本講演内容は、ご自身の仏教とのかかわりをはじめ、仏念や在家仏教協会に関わる内容まで、実業と仏教のかかわりについて深い示唆を与えていただく講演内容です。

【第48回】11."一隅を照す"に勇気づけられる - (1)

 それからなお、この一隅を照らすということは、私、商売のほうでもたいへん勇気づけられた言葉でございます。私は実は大学で醗酵方面を専攻いたしまして、したがって醗酵会社へ入ったんです。焼酒とみりんをつくっておる会社、宝酒造でございますけれども、当時は四方合名会社という個人企業のようなもので、私、入って二年目から株式会社に組織換えて宝酒造になったわけでございます。私はそういうわけでカビや酵母、まあカビを相手にずっときたのであります。そうして正直申しまして、非常になにかコンプレックスを感じておりました。なにかこう、重箱の隅をつっつくような仕事をやっておる。三井、三菱さんははなやかにいろんな仕事をなさっているしKさんを前に置いて恐縮ですが、お親しい間柄なので心やすく申しますことを、どうかお許しをいただきたいと思いますが、ほんとうにうらやましかったんです。三井、三菱等に入っている方はしあわせだなあ。とにかく世界を狭しと活動される。そしてあれやこれや新しいものをつかまえてなさる。私はこうしてカビを相手にこつこつと顕微鏡をのぞいておるということでコンプレックスを感じていたんですが、伝教大師のこの一隅を照らすという言葉がグーッと、ああ、これだな、と、なにも三井、三菱等をうらやむ必要なんか毛頭ないんだ。自分はこのカビを相手でいいんだ、この一隅を担当することで十分だとなりまして、それからほんとにコンプレックスぜんぜん感じなくなりまして、三井、三菱さんはどうぞその道をお行きください、私はカビを相手にまいりますとなって今日まで来ましたが、幸いにそのことがたいへんに私にしあわせをいたしまして、いろいろとその方面でなんかかんか新しい研究もでき、事業も生まれてまいりました。やはりこれ、まあ一隅を一生懸命やらせていただいたおかげであります。こういうことでありまして、この一隅を照らすという言葉が私のそういう力づけになった。法語というのはみなそうだと思うのです。
 一隅を照らすはもちろんその一例でありますが、そればかりでなく、ほかのいろんな法語がたくさんございますが、それがいちいちわれわれの実生活、実際の生活のうしろからほんとうの支えになっておる。これはもうたいへんな力で、それが生きる力を与えられるというのは、そういう姿において生きる力を与えられる。これもいなむことのできない、うそだと言えないところなのでございます。ほんとにそうでございます。そんなことで商売のほうは、あいかわらずカビを相手の商売でやっておりますが、こっちのほうもそういう意味で、これからせめて一隅を照らすかすかな光となれかしと、こう思いましてやっておりますので、どうかひとつご支援のほど、お願い申しあげます。
 まあPRはそれくらいにいたしまして、ひとつ、なにかご質問いただきましょう。なんでもといったって、私の知っていることしか答えられませんけれども、おたづねいただけましたらしあわせでございます。(了)